第43話 婚約破棄と良からぬ行為
ペルセポネの件があったせいで、俺たちファイブスターは合宿らしい合宿はできないまま、翌日、別荘を出た。
ペルセポネの率いるジェネシスが具体的にどんな規模でどのような力を持っているかも把握が出来てないから、下手に動くと痛い目に遭うのは目に見える。
一つ確かなことは、ジェネシスの本拠地はライデンからあまり離れてない可能性が高いこと。ペルセポネの言動を分析した結果である。
蜂の巣を突いてもいいことはない。
だが、俺たちは心配になって帰るついでに町の人たちに何か拉致とか異変がないか聞いて見た。
幸いなことにそんなことは一件もないと言ってくれた。
ちなみにルナ様は俺たちに文句なしについてきてくれた。
こんなに協力的な彼女は初めて見る気がした。
俺たちは早速フィーベル家に行き、ことの顛末をケルツ様に告げた。すると、彼は俺を第一王女であるレア様と第二王女であるセレネ様のいる王宮へ一人で赴かせた。
「そんなことがあったのですわね……」
「はい」
貴賓室で俺の報告を聞いたレア様が深刻そうな表情でため息をついた。すると、レア様の隣に座っているセレネ様は不安そうに口を開く。
「早速お父様に伝えるべきです。事態がもっとひどくなる前に……エレナさんがあっさり負けてしまうなんて」
と言って、レア様を刹那そうな表情で見つめる。
レア様はふむと頷き、俺に真面目な顔で言う。
「この前、パーシー商会所属の貴族が殺された件についてですが、アンデッドの魔法が使われた可能性が高いとの調査結果が出ましたわ」
「やっぱりか……」
俺はペルセポネが使った魔法を思い出して暗い表情をする。
つまり、パーシー商会の貴族を殺したのはアンデットと化した平民か奴隷と言うことになるだろう。
「貴重な情報を教えてくれてありがとうございます。また何かありましたらいつでも王宮にきてください」
「……はい。時間があれば」
レア様は俺に感謝の言葉を言ったが、正直嬉しい気持ちにはなれなかった。
ここは王族や上流貴族がたくさんいる。
息がつまりそうだ。
俺は二人に軽く頭を下げて貴賓室を出た。
すると、最上級絨毯の上を歩いている俺の背中を誰かが優しく突いた。
「セレネ様……」
「外まで送りますよ」
「い、いいえ。一人で十分です」
「遠慮は要りません」
「……」
いや、遠慮なんかするものか。
あんた婚約者だろ。
俺がげんなりしながら、歩いていると、俺の腕にセレネ様の腕が擦れてくる。わざと当ててんのか。周りにいる使用人たちめっちゃガン見しているけど。
願わくば変な噂がたたんことを祈るばかりだ。
「あの、ちょっと離れてもらっていいですか?流石にこれは近いというか」
「ふん〜離れたら私は誰が守ってくれますか?」
「別にセレネ様を守る義務は俺にはありません」
「へえ?だって、協力してくれるって言ったじゃありませんか?」
セレネ様はガッカリしたように口を半開きにして俺を見つめる。そしてわざとらしくさらに自分の腕を俺に押し付けてきた。
俺は辟易しながら返答する。
「協力と守るは全く意味合いが違います。それに、セレネ様はハリー様の婚約者じゃありませんか。平民である俺なんかより、イケメンでなんでも持っている高貴なあの方のところへ行った方がいいと思いますよ」
俺が適当に言うと、セレネ様は頬をふくらませて、俺のお尻を叩いた。
「なっ!セレネ様!?」
「意地悪ですよ。カナトさん」
肩まで届くピンク色の髪を揺らし、怒っと子供っぽく俺を睨む彼女を見てつい可愛いと思ってしまった。
なので俺はクスッと笑った。
「な、なんで嘲笑うんですか!?私は王女なんですよ!貴族からも笑われたことないのに……」
ぐぬぬと悔しそうに俺を見るセレネ様に、俺は口を開いた。
「一つ聞いていいですか?」
「もう……なんです?」
「何故あのやろ……ハリー様と婚約したんですか?」
「今あの野郎って言いかけなかったんですか?」
「そんなことありませんよ」
「……」
「別に言いたくなければ言わなくて結構なので」
「……それはですね」
彼女は最初こそ難しい顔をしたが、何かを決心したように吹っ切れた感じで返事をする。
「お父様が決めたことです」
「なるほど」
日本では好きな人と結婚できる自由がある。もちろんここでの俺も平民だから相手を選ぶ権利があるのだ。貴族と結婚することはできないが、少なくともセレネ様より俺の方が自由と言うことになるだろう。
よほどの理由がない限り、婚約破棄なんかできない。
このまま行くと、セレネ様はハリーのやつと結婚することになるんだろう。
顔だけなら二人は釣り合うが、ハリーのやつの内面を見ると、明らかにセレネ様の方がもったいない気がした。
だけど、俺の考えなんか、周りから見たら単なる一平民の感想に過ぎないから、なんの影響力もない。
そんなことを考えながらセレネ様を見ていると、彼女は重い表情でため息をついていた。
本当にもったいないな。
X X X
パーシー家
ハリーの部屋
「はあ……ハリー様……あなたを見ているととても胸が熱くなって……ハリー様のことが大好きになりますわ……」
「ベルン様……私の身も心も全てあなたのものですわ……なんでも言うことを聞きますからどうか私を愛してくださいまし……」
二人の貴族女性がハリーとベルンに縋りついている。
彼女らはこの二人に気がある男爵家の子女たちで、玉の輿に乗るために普段からハリーとベルンに尻尾を振っていたところ、ハリーの家に誘われてこの有様である。
彼女らのどんよりとした目は何かに取り憑かれたように色彩がなく、強烈なフェロモンの匂いをばら撒いている。
「あははは!!!ハリー様!見てください!この子は普段ちゃっかりしていて、正直うざかったですけど、今は全部俺のもの〜あはは!男爵の娘の分際でお高く止まりすぎなんだよ。だから、俺がじっくり可愛がってあげるからな〜おほほほ!」
「そんなに嬉しいか?」
「もちろんですよ!こんなに効き目のいい惚れ薬は初めて見ます!一体どこから手に入れたんですか?」
「それはね、いい人から手に入れたんだよ。まだたくさんあるから」
ハリーの返事を聞いたベルンは口角を吊り上げて気色悪い笑みを浮かべる。
「待ってろよ、リナちゃん〜もうすぐこの女の子のように、徹底的に仕込んでやるから」
ベルンの言葉を聞いて、ハリーも小さく口を開く。
「エレナ……」
彼も微かに口角を吊り上げながらエレナによって刻まれた首にある古傷をさする。
追記
だんだん面白くなります
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