第41話 少女の正体を知るカナト

「危ない!」


 俺はそう叫んで少女のいるところへと走る。


 幸いそんなに離れているわけでもないので、俺は落ちていく少女を抱き止めることに成功した。


「大丈夫ですか?」

 

 華奢で柔らかな体。


 体温は低い。おそらくずっと冷たい夜風に当たっていたのだろう。


「……あなたは平民?それとも貴族?」


 彼女は俺を見ながら問う。


「……俺は平民ですけど、それより大丈夫ですか?何か暖かいものでも……」

「ううん。いい。あなたは優しいね」


 彼女はそう言いつつ、微笑みをかけてくれる。


「……」


 俺は何も返すことができなかった。


 普通の人とは違う雰囲気を彼女から感じたからだ。


「名前、なんていうの?」

「……俺はカナト。君は?」

「私は……ペルセポネ」

「ペルセポネ……なんか変わった名前だな」

「うん……」

「君も平民?」

「私は奴隷」

「……そうなんだ」


 奴隷か。

 

 この国は奴隷の女の子に対してはそんなに優しくない。


 さらに、それがこんなに綺麗な女の子となると、貴族の奴らが目をつけてほっといてくれないだろう。


 このペルセポネという女の子は貴族の横暴に耐えかねて逃げてきたのだろうか。


 服がボロボロだし、十分にあり得る。

 

 俺はちょっと悲しい表情で俺の腕に抱きつかれているペルセポネを見つめる。

 

 すると、彼女は目を丸くして俺をじっと見つめていた。


 周りは暗いはずなのに、まんまるな月が映っている彼女の赤い瞳は明るく光り輝いている。


「カナト」

「ん?」

「助けてくれてありがとう」

「ううん。無事で何よりだ」

「カナトの顔を見てが鎮まった」

「怒り?」

「それより、私のいるところこにきてみない?」

「ペルセポネのいるところ?」

「うん。きっと満足すると思う。みんな頑張っているし、私はそんな人たちを支えるから」

「……」


 話の内容が抽象的すぎて何を言っているのかわからなかったので、俺はあははと作り笑いした。


 すると、後ろから物音が聞こえた。

 

 ペルセポネはハッと目を見開き素早く俺から離れて物音がした方に目を向ける。


 俺も彼女に倣い身構えする。


 やがて草の間から姿を現したのは見覚えのある金髪の美少女だった。


 腰にはお馴染みの剣をつけているから月明かりでも簡単に彼女の正体を把握することができた。


「エレナ様!」

「カナト……こんな山奥まで入って……探していたんだぞ!」

「ん?俺を探す?」

「い、いや!これは別に二人きりになっていい雰囲気を作れとお父様から言われて探したわけじゃなくて……」


 聞き取れない声音で何やら呟く彼女。


 俺がはてなと小首を傾げるが、ペルセポネは俺に訊ねる。


「カナト、誰?」

「あ、俺の知り合い」

だよね?」

「う、うん。そうだよ」

「……」

 

 急に顔色が変わったペルセポネはエレナ様のところへと歩く。


「貴族」

「ん?誰だ?」







「私に殺されるか支配されろ」


「っ!!」


 ペルセポネは手をあげて暗いビームみたいなものをエレナ様に放った。


 幸い、エレナ様はぎりぎり避けることに成功。早速剣を抜いてペルセポネの首に向ける。


 俺は早速SMGを召喚して、ペルセポネに狙いを定めた。


「何者だ!?」


 エレナ様が大声で問うと、ペルセポネが答える。


「私は奴隷」

「奴隷?」

「私はハルケギニアの王族と貴族を支配して、この世にユートピアをもたらす奴隷」

   

 話を終えたペルセポネはエレナ様を睨め付ける。


 ちなみに彼女の放ったビームが当たった土は溶けている。


「……」


 俺は震え上がった


「無礼者が!」


 エレナ様は顔を歪ませて早速剣に膨大な魔力をかける。


「いや、エレナ様……だめです。逃げて!」


 俺が言うものの彼女は興奮したまま、ペルセポネを切るべく戦姫と呼ばれるにふさわしい素早い動きで突進する。


 だめだ。


 間に合わない……


 撃とう。


 俺は引き金を引いて発射した。するとペルセポネの膝に掠るが、すぐさま回復する。


 この子、果たして人間なのだろうか。


「愚かな貴族……其方の愚かさを悔いるがいい」


 と言って、ペルセポネは何かを呟く。



 すると、ペルセポネの周りに小さな半透明の球状ゾーンができた。


 もちろんこのゾーンの中にはエレナ様も入っている。


「っ!なんだこれは?!」

「貴族、を味わうがいい」


「あ、ああ、ああああ!!!」


 急にエレナ様は頭を抱えて倒れた。

 

 そして苦しそうに暴れている。


「エレナ様!!」


 おそらく精神攻撃を受けているのだろう。


 レベル5を圧倒するだけの力。


 エレナ様にビームで攻撃した時から既に気づいた。


 ペルセポネは普通の奴隷じゃない。


 もし俺が勝手に攻撃したら、エレナ様に何が起こるかわかったもんじゃない。


「な、なんだ……これは……嫌……見たくない……ここから抜け出したい……」


 苦しそうに呟くエレナ様を見て、俺はペルセポネに話しかけた。


「なんでこんなことをする!?」

「貴族が平民や奴隷を支配するように私も貴族を支配するだけ」

「何を言って……」

「私のところにきて。カナトは強いからもっといろんなことができる」

「……」


 戦ってもないのに、どうして俺が強いと断言するんだろう。


「……いや……いや……カナト……助けて……」


 呻き声を上げるエレナ様。

 

 もし俺の願いを彼女が聞いてくれなかったら、俺は全力を出さなければならなくなる。


「エレナ様は俺にとって大切な人だ!平民とか貴族とか奴隷とか関係ない!早くエレナ様から離れろ!じゃないと、俺は力でペルセポネを止める!」


 と、大声で言ってやると、


 彼女は目を丸くした。


 やがて、彼女はゾーンを消して、エレナ様を解放してくれた。


「平民とか貴族とか奴隷とか関係ないか……カナト」

「なんだ」

「いずれその曖昧な考えが真っ黒に染まるから」

「……」

「今日は助けてもらったからこの愚かな貴族を解放して上げるけど、

「……ペルセポネの正体はなんだ」

「私の正体……それは極めて難しい質問ね」

「なに?」

「私は人間かもしれないしそうじゃないかもしれない」

「は?」

「私はハルケギニア王国だけを滅ぼしたいと思っているかもしれないし、全世界を支配したいと思っているかもしれない」

「何を言ってる?」

「私は支配者かもしれないし、みんなを支える母かもしれない」

「言っている意味がわからない」

「そうね。初めて会ったカナトにはわからないから、わかりやすく教えて上げる」


 そう言って、ペルセポネは空を飛んだ。いつしか生えた大きい黒い翼を動かして俺を見下ろしている。


 そして、手を空に向けると、黒い雲が雷を含んで形を変えた。目の形をした大きな雲はまるで生きているみたいに俺を睨んでいた。


 圧倒的オーラに俺が固まると、ペルセポネは口を開く。



「私はジェネシスの創始者であるペルセポネ。今まで愚かな貴族が作りあげた秩序を全て解体して、新しく再構成ジェネシスすることを目的とするアンデッドの女王」







追記



あともうちょいで星4000いけそうですので入れてくださると大いに喜びます!

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