第38話 勘違い

翌日


生徒会室


「不正を行った審判はギースさんと繋がりがあることが判明しました。なので、懲戒委員会での会議の結果、彼は懲戒免職となりました。ギースさんの処分は彼が回復され次第行いますので」

「なるほど。どうりでおかしいわけです」

「悪質な迷惑行為を働いたベルンさんについてもそれ相応の罰が下るはずです」


 昼食を食べた俺はルナ様に呼び出されてこの前のことを聞かされた。


 要するに、俺にとって都合がよく事が運んでいる。


 裏ではケルツ様が色々やっておられると思うが、やはり今回はルナ様の働きに負うところが大いにあると言わざるを得ないであろう。


「あの、ありがとうございます」

「え?なんで感謝するの?」

 

 ルナ様はハッと目を大きく開けて問うてくる。


 照明はついてないが、太陽の光が彼女の背中を照らしており、銀色の髪の輪郭がくっきり見えるのと埃たちが一粒一粒の粒子となって輝いている光景は小首をかしげているルナ様とよく調和している。


 改めて思うが本当に美人だ。


「ルナ様があの時いなかったら、ギースは死んだんでしょう」

「……そうですね。他の生徒はあなたをいまだになめているから認めたがらないんですか、あなたならレベル5のギースさんを簡単に殺すことができる」

「……」

「やっぱりあなたはとても強いですね……もっと監視する必要があります」

「い、いいえ。まだ素人です」

「それを自慢と言うんですよ」


 ルナ様はそう言って自分の席から立ち上がり、頬をピンクに染めながら目を逸らした。

 

 突然の行動に面食らっている俺だが、ルナ様消え入りそうな声音で言う。


「そそ、その……カナトさんは連休に、予定とかありますか?」

「えっと……一応ありますけど?」

「え?予定、ある?」

「はい」

「……」


 ルナ様は急にガッカリしたようにため息をついては、一瞬切ない表情を向けてくる。


「やはりカナトさんも女の子と遊んだりするのかしら……」


 なんだか急にお嬢様口調になったぜ。


 女の子と遊ぶ……か。


 まあ、リナは実際ライデンに行って遊ぶ気満々だし、ミア様も大喜びでリナを自分の家に招いて遊ぶプラン立てまくりだもんね。


「まあ、そうですね。遊ぶことが全部ってわけじゃありませんけど」


 そう。


 これは合宿だ。


 正直、エレナ様だけじゃなく、ファイブスターの全員に強くなってほしいものだ。


 みんな、伸び代大きいからきっと正しいやり方で鍛錬すれば十分に上を目指せる。

 

 俺がガッツポーズで強くなったファイブスターを想像すると、ルナ様が衝撃を受けたように口をポカンと開けて、深刻な表情で俺を見ながら言う。


「まさか……遊び以上のこともやるのね!?」

「え?」

「確かにカナトさんは強いけど……貴族じゃないから……平民女の子と清くない関係を……」

「あの、ルナ様」


 最初こそ堂々と俺に言ってきたものの、途中から口おもにゅらせてわけのわからないことを喋っている。


 そして数秒経つとハッと何かを思いついたように目を大きく開けて、俺を指差してきた。


「カナトさん」

「は、はい」

「セントラル魔法学園校則、第5編『生徒との関係』の第1章『男女関係』における第五条をご存じですよね?」

「いや、知りませんよ。そんなの」

 

 まだ学校に入学して間もない俺にそんな細かい校則なんか知るわけないだろ。


 むしろ全部覚えているルナさんすごいな。


 きっとルナ様が日本にいたら間違いなく司法試験合格するな。


 そんなどうでもいいことを考えていると、ルナ様は声高に宣言するように言う。


「不純異性交遊禁止!!」

「……」


 なに言ってるんだ。

 

「あの……言ってる意味がよくわかりません」

「カナトさん、やっぱりあなたを監視対象において正解でした。セントラル魔法学園では、貴族としての礼儀作法がとても重要ですよ。なので、私がしてあげましょう」

「協力?」

「連休中は平民の小娘ではなく私と一緒に過ごしてください。私がセントラル魔法学園の生徒としての振る舞いがなんなのか手取り足取り教えてあげますから」

「平民の小娘?もしかして、リナのことですか?」


 ちょっとショックを受けた。


 気品と知的オーラが溢れるルナ様が俺の妹を小娘呼ばわりだなんて……


「なにを惚けているのですか?他の淫乱な平民娘と清くない関係を持つつもりでしょう?それは生徒会長である私が許しません!」

「いや……連休中にはファイブスターのメンバーと一緒にライデンに行って合宿をやるつもりですが」

「ん?合宿?」

「はい。合宿です。俺は淫乱な平民娘なんか知りませんよ……」


 俺が後ろ髪をガシガシしながら困ったように言うと、ルナ様は数秒間固まった。息を吸うことすらも忘れたのではと疑ってしまうほど微動だにしない彼女は


 

 いきなりかあっと顔を真っ赤に染め上げてまた指で俺を指して捲し立てるようにいう。


「あなたが所属しているファイブスターも要注意団体です!他の貴族たちはあなたたちをすごく警戒していますから!なので、情報収集をする必要があるので、私も参加します!」

「え、えええ!?」

「これは確定事項です。生徒会長として決めたことなので、あなたに拒否権はありません!」

「いや無茶な……」


 さっき、淫乱な平民娘とか貴族としての礼儀作法とか言ってなかったか。


 いつも中立を保ちここハルケギニア王国の行政と司法に多大な影響を及ぼしているレノックス公爵家の長女様。

 

 俺はため息をついた。



X X X


合宿当日


フィーベル家の前



「「ルナ様!」」


 俺とエレナ様を除く4人が目を丸くして目の前に現れた彼女の姿を見て驚く。


「……合宿の間、あなたたちを監視することになりました」


 まあ、あらかじめファイブスターの全員に話はしておいたが、やっぱり直接見るとなるとどうしても驚いてしまうものだな。


「ルナ様!!」


 だが、俺の妹の切り替えは実に早く、凄まじいスピードでルナ様のいるところに入っては彼女の手を掴んだ。


「っ!リナさん……」

「この間のレッドドラゴンの件で私に魔力を分けて下さって本当にありがとうございました!これから、ライデンに行って思いっきり堪能しましょう!」

「私は監視役としてきただけです……」

「さあ、馬車に乗ってください!」

「ちょ、ちょっと」


 リナに強引に連れていかれるルナ様。


 だが、誰かがルナ様の手を握って彼女の足を止める。


「ルナ殿……」

「……」


 急にエレナ様に手を握られたルナ様は戸惑うが、


 二人とも一瞬、俺の方に視線をむけてから再び互いを見つめ合い


 両方とも


 エレナ様の背中からはメラメラと燃え盛る赤い炎が、ルナ様の背中らは青い炎が勢いよく噴出されるような感じがする。


 驚くリナは恐怖に怯えた表情で俺のところに走って抱きつく。ジェフ様とミア様は俺にジト目を向けていた。


 一体どうなるんだろう。


 あ、


 これはケルツ様のせいだ。


 合宿なんて言葉を言い出すから……

 

 俺は悪くなーい。



「レノックス家の長女まで巻き込むとは……カナト……実に恐ろしい男だ。これは競争者が増えるから俺もおちおちいられないな」


 なんか中年おっちゃん声が聞こえたから屋敷の方に目を見遣れば、

 

 ケルツ様がガッツポーズで握り拳を作りよがっていた。





 

追記



次回はクズどもが盛り上げてくれます

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