第37話 合宿!?

数日後



「カナト君がギースを倒したことを祝して……」


「「乾杯!!!!」」


 エレナ様の父であるケルツ様の声にみんな祝杯をあげた。


 黄昏時のボロい家の中には8人がいる。


 俺、リナ、エレナ様、ジェフ様、ミア様、ケルツ様(エレナ様の父)、アルベルト様(ジェフ様の父)、ハンナ様(ミア様の姉)。


 狭苦しいテーブル周りには、身分や年齢関係なく仲良く囲んで座っており、テーブルの上にはケルツ様とアルベルト様が持ってきた新鮮な海鮮物などをふんだんに使ったお好み焼き、タコ焼、焼き蕎麦があり、食欲をそそる美味しい匂いを漂わせている。飲み物に至っては、ケルツ様とアルベルト様の屋敷で直接育てている新鮮な果物を使ったジュースが数々。もちろんお二方はめっちゃ高そうなワインを飲んでいるのだが。


 場所自体は本当にしょうもない倒れる寸前の貧乏な家だが、中にはハルケギニア王国に多大な影響を与えている人たちがいる分、ギャップが半端ない。


 高貴な方々がこんなむさ苦しいところにやってきて、俺を祝ってくれる。忙しいはずなのに、直接俺の顔を見て「素晴らしい!よくやった!」言って喜んでくれた。


 だから俺も腕によりをかけたわけである。


 今日は日本のB級グルメだ。


 もちろん、一人で8人分を作るのは大変だからメイドであるハンナ様と彼女の妹のミア様が手伝ってくれた。


「お、お兄しゃま……ジュル」


 リナがよだれを垂らして刹那そうに俺を見つめてきた。


 おそらくお客さまがいるので気を使っているらしい。


 ミア様はリナのよだれをナプキンで優しく拭いてくれている。


 リナのよだれを拭き終わったミア様は、期待に満ちた表情で俺を見つめた。


 彼女だけじゃない。


 全員が俺の作った料理を早く食べたいと熱い視線を送り続けているのだ。


 なので俺は笑顔を浮かべて


「いっぱい食べてください」


 と言うと、全員がタコ焼き、お好み焼き、焼きそばに早速食いつく。


 この光景を見ていると、なぜか心が癒される気分になる。


 もちろん、リナの存在も俺にとって癒しになるのだが、こうやって、自分のことを応援してくれて助けてくれる仲間がいるということは、実に心強い。


 前世ではこんな仲間は存在しなかったから。


「うう……美味しい……美味しすぎる……」

「お姉様、泣くほど美味しいんですか?料理ひとつで泣くなんて、はしたないんですわ。いくらカナトさんの料理が上手だからと言ってさす……っ!!こ、これは……お、美味しい……うう……」


 メイドのハンナ様と妹のミア様が俺のタコ焼きを食べながら泣いている。


 俺がドン引きしていると、イキイキした二人の会話が聞こえてくる。


「お父様〜このオコノミヤキという料理、本当に美味しいですね〜」

「ああ〜こんな味を味を知ったら踊るしかないね♫」

「あははは〜」

「あはははははは〜」

 

 金髪親子ことアルベルト様とジェフ様は互いの手を握って踊っている。


 おい、ここ狭くて動いたら埃落ちるから踊るのは勘弁してほしいんだが……


 まあ、俺が言っても多分言うこと聞かないんだろう。


 俺がげんなりしていると、今度はケルツ様とエレナ様の視線が感じられる。


「……」


 二人はドヤ顔をして俺を見つめてくる。そして時々焼きそばを食べては、もっと熱い視線を向けてくる。


 あまりにも熱々すぎたので、俺はつい目を逸らした。するとそこには


「ふふ……」


 嬉しそうに微笑んでいるリナがいた。


 食べ物が口の中にいっぱい入っているため、ひまわりの種を頬張っているハムスタばりに頬が膨らんでいるが、俺の視線に気づいたリナは


 とても明るく笑っていた。


 食事を終えた俺たちはお茶を飲みながら和んでいた。


 すると、ケルツ様が真面目な表情で話を始める。


「カナト君」

「はい?」

「貴族院の間で君は有名になってるぞ」

「そ、そうですか……」

「レベル5の貴族を倒した平民。君の活躍を見て貴族達は危機感を覚えておる」

「危機感ですか?」

「左様。これまで貴族らは自分達の特権を守るために魔法が使える平民を徹底的に無視し排除してきた。だけど、奴らの既得権益に異変が生じておる。カナト、君の存在によってな」


 まあ、ギースのやつは治療のために休学したからな。ケルツ様の情報によると、最低でも一年間は治療に専念しないといけないらしい。


「しかし、貴族の奴らは手強い。今まで平民や奴隷を虐待することによって得てきた利益を放棄するつもりはなかろう」

「……死に物狂いで守ろうとするんでしょうね」

「だが、成果はある」

「成果?」

「レア様とセレネ様がパーシー家に疑問を持たれておるのだ」

「そう……ですか」


 確かにここ最近のハリーの言動を見たら、そりゃ怪しくなる。

 

 と考えていると、ケルツ様が悔しそうに握り拳を作りテーブルを叩いてから口を開いた。

 

「パーシー家は何があっても潰さねばなるまい」

「……なぜですか?」

 

 いきなり雰囲気が変わったことを察知した俺はケルツ様の機嫌を伺いつつ問うた。


 すると、代わりにアルベルト様が答える。


「ジェネシスが誕生した原因を作ったからだよ」


 アルベルト様は持っているワイングラスに力を入れて波紋を作る。

 

 まるでジェネシスについて何かを知っているような様子だが、なぜか続きを聞いたらまずいと思い、俺は怒りを抑えるアルベルト様をただただ見つめた。


 すると、彼は急ににっこり笑いながら口を開く。


「今はカナト君をお祝いしているから〜こんな重たい話は後でやろうね〜それよりカナト君と妹ちゃんは連休に何する予定?」

「連休ですね……」


 連休か。


 そういえば来週は一週間ほど連休だな。


 問われた妹と俺は互いを交互に見つめあった。


 まあ、久々に妹と家でゴロゴロする予定だが……


「特にありませんけど」


 と、俺が答えると、急にケルツ様が目を光らせて口を開く。


「ふむ……暇か。じゃ、ひとつがあるんだが」

「提案?」

「ライデンにある俺の別荘で合宿をやるのはどうかね?」



「「合宿?」」


 ファイブスターのメンバーの声が見事にハモった。


「カナト君はうまくやってくれているが、やっぱり我が娘にもカナト君を支えるための強さを身につけてほしいものだ」

「いや、エレナ様は十分強いと思いますけど……」

「まだまだだ。我が娘にはカナト君の指導がもっと必要だ。放課後の鍛錬じゃ物足りない。できれば別荘でエレナと二人きりになってつきっきりで教えてくれ。もちろん報酬はたんまり払おう」

「お、お父様……」


 エレナ様は気恥ずかしそうにケルツ様の脇腹を突く。


「お兄様……私、合宿行きたいです」

「リナ?」

「私……エレナ様とミア様と一緒に遊びたい!」

「遊ぶこと前提かよ」


 俺がげんなりしながらツッコミを入れるとリナは急に俺の腕にくっついて上目遣いしてきた。


「お兄様……」

「……」


 俺が困っていると、アルベルト様がフォローを入れてきた。


「リナちゃん、ライデンはいいところだよ〜綺麗な温泉と山と美味しいものがいっぱいあるからね〜特にライデンの温泉は美肌効果もあるらしいよ」

「ビビビ、美肌効果!?」

 

 驚くリナにミア様がトドメをさす。


「美肌効果のある温泉は、基本貴族しか入れませんけど、ケルツ様の別荘に行けば、入り放題」

 

 ミア様は指でリナの頬をなぞる。


「お兄しゃま……」


 リナは自分に巨大なマシュマロで俺の腕をさらに圧迫してきた。


 なんか前より大きくなった感じだ……


 これ、俺が絶対負けるやつだろ。


 俺はため息をついて頷いた。


「あははは!5人で楽しんでくるといい。あ、カナト君」

「はい」




X X X


ライデンのとある山にある基地



「ペルセポネ様〜また奴隷いっぱい連れてきましたよ〜」

「よくやった」

「あははは!!もうすぐですね!!貴族と王族どもが俺たち平民と奴隷に平伏す日が!!」

「その日は……必ずやってくる。破壊、混沌、恐怖、支配。全て我々のものとなる」

「ペルセポネ様のものとなるでしょう。それこそが正義です」


 キチガイ男アランが、一人のとても綺麗な女の子に跪き、礼を表している。


 ペルセポネ

 

 この世のものとは思えぬ美貌の少女は玉座に座っており、黒い霧に包まれた彼女は無表情だ。


 だが、そこには威厳があり、人を恐れさせる恐怖があった。


 彼女はジェネシスのボスである。


 そして彼女が根城にしているここは





 



 ライデンの中にある。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る