第34話 セレネは現実を知る
俺のことを嫌がる二人は敵意に満ちた表情を浮かべる。
うちハリーが口を開いた。
「セレネ様、これは一体どういうことですか?」
「ん?普通にカナトさんと話していただけですけど?」
ハリーは冷静を装い自分の婚約者であるセレネ様に訊ねるがセレネ様はしれっとした態度で言う。
「平民と王族であるセレネ様が一緒に歩くこと自体、おかしなことかと」
「ふん……なんでおかしなことですか?」
「僕の愛するセレネ様が汚されてしまいます。そんなところ……見ていられません」
ハリーは悲しい顔でセレネ様に手を伸ばす。そんな彼の腰巾着であるベルンが密かに話しかける。
「平民、察しろ。ここはお前がいていいところではないぞ」
明らかに俺を見下すベルンにハリーが加わる。
「ふふ、平民、これから僕はセレネ様と話があるんだよね。だから、退いてくれないか?」
婚約者の前だからキレはしないものの、必死に怒りを抑える感じだった。
俺は平民だ。しかもハリーのやつとセレネ様は婚約関係にある。もし妹のリナに何かを言ってきたらすぐ言い返すのだが、今回ばかりは俺に分が悪い。
「……」
俺は無言のまま数秒間俯く。
すると、ベルンは鼻で笑い、ハリーは口角を吊り上げて小声で言う。
「退いて」
俺は足を動かした。
嘲りが漏れ聞こえる中、俺の手に柔らかい感触が伝わる。
「あら……なんで行くんですか?」
「ん?」
「私たち、とても大事な話をしている途中でしたよね?なのになんで行くんですか?」
「い、いや、だってセレネ様の婚約者であるハリー様が……」
「別に構いませんよ。私はカナトさんと話がしたいから。ふふ」
余裕のある姿だが、俺の手を潰す勢いで握っているセレネ様。
ハリーのやつは俺とセレネ様の繋がった手を見て、こめかみに手を抑える。
「おやめください。みんなが見ています。王族としての示しがつきません」
キレる寸前のハリーにベルンが熱弁を振るう。
「王女殿下、とても美しく高貴なあなたが、あの下賎な平民と一緒にいるのはとても悲しいことです。王女殿下はハリー様という素敵な婚約者がおられます。別にあの平民でなくても、重要な話はハリー様といくらでもできるのではないかと」
ベルンは鼻息を荒げてセレネ様とハリーを交互に見てくる。
「ベルン、言い過ぎ」
ハリーは落ち着いた口調でベルンを嗜める。だが、まんざらでもない顔だ。
セレネ様はそんなハリーをじっと見つめては口を開いた。
「貴族の面子があるので公になってませんけど、カナトさんのご活躍はハリーさんも見ましたよね?」
「……」
「たとえ平民だとしても、お姉様の命を救ってくれた方に向かってその態度はどうかと思いますが」
セレネ様に言われたハリーはまた俺に殺気立った視線を送ってくる。
あの時と同じだ。
これは果たしていいところを持っていかれた時の嫉妬なのか
それとも
計画を台無しにされたことへの怒りなのだろうか。
俺は探りを入れてみることにした。
「ハリー様」
「……なに?」
「あなたはレベル5だと伺いました。なのに、アランがレア様を襲ってきても微動だにしなかった」
「なにを言いたいんだ?」
「ただ気になりまして。あくまで個人的見解に過ぎませんが、まるで傍観しているように見えました」
「だから何が言いたのか聞いてるんだけど?」
「ジェネシスの人と知り合いだったりしますか」
俺が聞いた瞬間、ベルンが急に怒り狂ったように大声で叫ぶ。
「このくそがああ!!!何を馬鹿なことを言ってるんだああ!!!ハリー様を侮辱するなんて!!」
ベルンはいつしか土魔法を自分の手にかけて巨大な土ナックルを作り、俺の顔面を狙う。
「あああああああ!!!!貴族と王族を侮辱したその罪、裁き下してくれるわ!!貴族の俺が、平民のお前に正しい裁きを!!」
俺に攻撃してくるベルン。
隣にはセレネ様がいる。
周りの貴族たちは歩きを止めて俺たちの喧嘩を野次馬のように見ている。
つまり、
瞬時に終えることが肝心だ。
俺は彼の固い土と化した手による攻撃を素手で受け止めた。
「な、なに!?」
「この前あんなにやられたのに、あまり学習能力がないですね」
「なっ!」
「あなたは俺に勝てません。弱いから」
俺は自分の足でベルンの膝を蹴り上げる。
「っ!」
すると、安定を失ったベルンが倒れかける。
俺は彼の下に滑りこみ、
「散弾銃……」
そう小さく叫ぶと、散弾銃ができた。
俺は魔力を帯びる弾丸が装着された散弾銃の銃口を彼の腰に当てて
引き金を引いた。
パーン!!!
「ウグ!」
ベルンが謎の音と出しながら空に飛んだ。優に200Mは飛んだと思う。
やがて落ちていくベルンは重力加速度も加わってものすごい勢いで墜落する。
「ベルン!」
ハリーが叫んで急にワンドを持ち出す。そして落ちていくベルンに魔法をかけると、ベルンの落ちる速度は遅くなり、ゆっくりと地面に倒れた。
とっくに気絶した彼を見てハリーは握り拳を作り、口を開く。
「平民……よくもベルンを……」
「喧嘩を売ってきたのはそちらの方です」
震える声で言うハリーに俺が冷静な口調で返すと
見覚えのある3人が近づいてワンドを俺に向けてきた。
うち筋肉ムキムキの男が怒りを募らせながら言う。
「てめえ……俺のパーティーメンバーに手を出しやがって……平民風情がああ!!どれだけ貴族を侮辱すれば気が済むんだ」
ギースと呼ばれる男。
この間レッドドラゴンに食われたけど、やっとのことで生き延びた鋼の召喚魔法が得意なやつだ。
魔力欠乏症になったところをリナに助けられたのに、
彼は
俺のことを殺す勢いで睨んできた。
「み、みろ……ギース様だ」
「エターナルフォース全員集合ね」
全員集合?
ってことは
レッドドラゴンの時のこの3人とハリーとベルンって同じパーティーってことか。
俺が意外そうにこの3人とハリーを交互に見ていると、
いつの間にか
ファイブスターのメンバー全員も俺のとこにやってきては、攻撃の体勢をとる。
この光景を見たセレネ様はというと、
諦念めいた表情で深々とため息をついていた。
まるで何かに裏切られたかのように。
嫌な現実を知ってしまった時のように。
落胆するセレネ様は
俺に近寄ってきた。
互いに腕がぶつかるほどに。
追記
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