第33話 セレネとカナト

翌日


「えっと、ここにいるみんなも知っていると思うが、現国王陛下の次女であられるセレナ王女殿下だ」

「皆様、初めまして。セレネ・デ・ハルケギニアです。これからよろしくお願いします♫」


「「……」」


 みんながぽかんと口を開けている。


 今日に限っては、俺を警戒する貴族の奴らと同じ気持ちだと思う。


 この国を支配する王の娘が最下位クラスにやってきた。


 昨日、生徒会室に顔を出した時の彼女は何も言ってくれず、俺とルナ様を見て頬を朱に染めながら意味ありげに笑うだけだったからな。


 執拗に俺とルナ様を交互に見て何か納得したように目を細めたんだっけか。


 自分の姉が暗殺されかけてたというのに、一体何を企んでいるんだろう。

 

 と、色々考えを巡らせていると、担任先生が空いてる席を指して口を開く。


「えっと、セレネ様はあそこの空いている席に……」

「ふふ」


 だが、セレネ様は俺の隣の席にやってきては俺の隣に座っている男子に向かって


「あの、申し訳ありませんが、ちょっと退いていただけませんか?私、カナトさんの隣に座りたいので」

「ははは、はい!わかりました!今直ちに退かせていただきます!」


 俺の隣に座っている男はオドオドしながら鞄や教科書などを持って空いている席に逃げてゆく。


 まあ、学校のルール上、相手の同意があればいくらでも席替えはできるが、こんなやり方は初めて見た。


 制服姿のセレネ様は俺の隣の席に座り、わざとらしくみんなに聞こえる声で俺に言う。


「カナトさん、昼休みに学校案内、頼んでいいですか?」

「え?俺がですか?」

「はい。ぜひ、カナトさんにしてほしくて……」

 

 おいなぜそこで照れてんだ。


 唐突すぎるセレネ様の態度に俺が戸惑っていると、


「カナトくん、第二王女殿下の頼みだ。ちゃんと学園の隅々まで案内してくれたまえ」


 担任先生が上から目線で俺に言ってきた。


 いや、俺も入学してまだ日が浅いから詳しくはわからないよ。


 と、本能的に切羽詰まった顔でジェフ様とミア様に視線を向けるが


 お二方は大変満足したような表情でふむふむと頷く。


「……」


 正直俺、この人苦手なんだけどな。


 だって、ハリーのやつの婚約者だから。


 俺はため息をついた。


 それを肯定と捉えたのか、セレネ様はさらに妖艶な表情で俺を見つめ続ける。


 俺たちを見ている貴族らはジェフ様とミア様を除いて焦燥感に駆られているかのように落ち着きがない。


X X X


昼休み


「ねえ、平民と王女殿下が一緒に歩いているぞ」

「もしかして、俺たちがあの平民を見下していることを全部チクる気か?」

「クッソ……なんで平民なんかが……」

「いい加減認めろよ。あの平民はなかなかの男だぜ」

「そうよ。今でも遅くない。謝れば許してくれるかも」

「ばーか。俺たちは貴族だぞ。平民なんかに謝るくらいなら、死んだほうがマシだって」

「今はそんなプライドなんかどうでもいいって」


 午前の授業が終わった俺とセレネ様は二人で学園内の芝生を歩いている。


 周りにいる有象無象の呟く声を聞き流していたら、見慣れた二つの視線が俺の背中を責め続けることに気がついた。


 後ろを振り向いたらリナとエレナ様が建物の柱に隠れて俺を見ながらめっちゃ怖い面持ちで俺を睨んでいた。


 彼女らの隣にはジェフ様とミア様がいて申し訳なさそうに俺を見つめている。


 俺は一瞬苦笑いを浮かべたのち、前を向いた。


「それで、わけを話していただけませんか」

「わけ?」

「なんで最下位クラスにきたんですか?」

「ふふ、私は戦闘が苦手なので、最下位判定を受けただけですよ」


 彼女は手を後ろに組んで俺を上目遣いしてきた。


 肩まで届くピンク色の髪からは謎の香りが漂い、俺を戸惑わせる。


「じゃ、なんでこの学園に入学したんですか?」

「なんでだと思いますか?」

「質問を質問で返さないでください」

「カナトさんは冗談の通じない人ですね〜」


 と、言って彼女は俺の肩を優しく叩いた。

 

 外野の人たちはセレネ様の仕草を見て目を丸くする。


 王族が平民に触れること自体が珍しいからだろう。


 俺はセレネ様から距離をとって返事をする。


「はい。俺はなので」

「うふふ……前言撤回です。カナトさんは冗談がうまい人です」

「いや、俺は別に」

「そうやって、ルナちゃんの心も奪ったかな?」

「え?何言ってんですか?」

「なんでもありません〜」

「……」


 冗談めかして言うセレネ様。


 だが、彼女の表情は次第に暗くなる。そして俺に耳打ちした。




「この間アランという男が起こしたテロの件……王宮内部にアランの協力者がいる可能性が高いです」


 耳打ちを終えた彼女が離れたことを確認した俺は口を開く。


(怒るリナとエレナ)


「……やっぱりですね」

「その口ぶりだと何か知っているようですね」

「い、いいえ。簡単な話です。厳重な警備をすり抜けてあんな大胆なことができるのは、情報がない限り不可能ですから」

「……数日前はパーシー商会のサトウキビ畑で働く貴族の死体が発見されました。ひどく損傷されているので、誰かが強い恨みを持って犯行に及んだ可能性もあります」

「そうですか……」

「ハルケギニア王国に異変が起きています。なので、カナトさんが王室に来ることを待つだけだと心細いので、こうやって入学しました」


 やっぱり事情があったのか。


 セレネ様は不安そうに顔を俯かせる。


 まあ、一応協力するって言ってたわけだしな。


 この人はハリーの婚約者だが、平民が知ってはならない情報をいっぱいくれる。

 

「とりあえず、内部の敵を探したほうが早そうですね」

「はい。一体誰なんでしょう……」


 心配するセレネ様。


 すると、




「おい平民、なんで僕の婚約者と一緒に歩いてるんだ?」

「平民風情が……分を弁えろ!!」

  



 ハリーとベルンが俺たちの前に現れたのだ。




 

 



 

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