第30話 内幕
「ハルケギニア王国で平民が貴族になるというのが何を意味するのかわかりますか?」
不服そうな顔で問うてきたのは第二王女のセレネ様。足と腕を組んでおり、弾力のある二つの巨大な胸が強調され、象牙色の綺麗な足が姿を現す。
「もちろんです。平民がこの王国で貴族になった事例は100年間ありませんので、王女様の提案はとても魅力的です」
「じゃ、どうして断るんですか?」
「そうですね。理由が多すぎるので何から説明すればいいのやら」
「……」
二人は眉間に皺を寄せて俺を睨んでくる。
俺はそんな二人を見て淡々と話し始めた。
「俺は貴族社会からものすごく嫌われています。理由は……別に言わなくてもわかっておられると思います。こんな状態で貴族になったら、俺は貴族だけでなく平民からも嫌われてしまいます……平民は免責特権を持って暴虐の限りを尽くす貴族たちを毛嫌いしています。今の状況で貴族の仲間入りなんて、死んでもごめんですね」
「……」
返事をしない二人。なので、俺は続ける。
「隣国では、魔法が使えるものは例外なく貴族になれることは知っておられますね。でも、ハルケギニア王国は決してそれを許さない。あまつさえ魔法が使える平民の他国への移民も固く禁じている。なのに俺だけが貴族になるのは、やっぱり可笑しいですね」
「……」
二人の表情がだんだん暗くなってゆく。
俺は遠慮なく最後の理由を告げるために口を開いた。
「最後に……別に俺は貴族にならなくても構わないと思っています。もし、貴族の平民への偏見がなくなったとしても、俺の考えに変わはありません」
「なぜですの?人はみんな名誉を欲する生き物なのに……」
第一王女のレア様が顰めっ面で訊ねてきた。
俺は息を深く吸って、気分を落ち着かせてから言う。
「俺に平民や貴族というレッテルを貼りつけても、俺という人間の本質は変わりません。俺は俺ですから」
「「……」」
二人は口をぽかんと開けて、俺の瞳を見つめ続ける。
王女様相手に結構無礼な態度を取ってしまった感はあるが、媚びへつらうのは性に合わない。
おそらく嫌気が差してもう二度と俺と関わろうとしないんだろう。
でも、それでいい。
俺は、俺の道を歩み続ければ、それでいい。
セントラル魔法学園でファイブスターがもっともいい評価を受けるようにして、他の魔法が使える有能な平民たちが貴族になれる流れを作ればそれでいいんだ。
優秀な貴族からなるパーティーを圧倒できるという既成事実を作ればいいんだ。
そう思っていると、急に第一王女のレア様が立ち上がりテーブルを乗り越えて俺に詰め寄って制服のネクタイを引っ張りながら
「なんて生意気な平民かしら!!!」
鼻息を荒げて興奮するレア様の行動に俺は戸惑いを覚えた。
だけど、むしろこれは好都合である。
「おっしゃる通り俺は生意気で礼儀や礼節も知らない愚かな平民です。申し訳ございません。ハルケギニア王国には、下賤な俺なんかじゃなくても優秀な方が多くおられます。なので、そういった方に当たった方が良いかと」
「……あなたという人は!」
レア様は両手で俺の胸ぐらを掴んできた。けど、力は入っておらず、手をブルブル震わせている。
そんな自分の姉を見て物憂げな表情を浮かべるセレネ様が口を開く。
「お姉様、もういいですよ。カナトさんは私たちの浅はかな思惑通りに動く方ではありません」
「セレネ……」
「私たちの本音を言わないと、カナトさんは納得しないと思います」
セレネ様の言葉を聞いたレア様は、自分の手に力を抜いて俯く。
姉に話す気がないことを察知したセレネ様が話を始めた。
「カナトさん、そもそもあなたより優秀な人がいれば、警戒対象であるフィーベル家にはきていません」
「セレネ!そ、そんなことまで言う必要は……」
レア様が当惑した様子で言うが、セレネ様は無視して続ける。
「この間行われたパーティーには、テロや犯罪を未然に防ぐために様々な措置が取られていました。でも、アランという男は、それらを全部すり抜けて、私のお姉様を殺そうとした。つまり……」
「その気になれば、また暗殺しにくる可能性があると」
「はい。アンデッド魔法を使える強い暗殺者がまたやってきます。何があっても早く捕まえなくちゃ……」
つまり、アンデッド魔法が原因ではなく、自分の命が心配だから連れてこいということだろう。
現にレア様も、セレネ様もすごく恐れている。
まあ、無理もなかろう。
二人とも俺と年は似たり寄ったりのはず。
今まで、恐怖という負の感情を極力押し殺してきたのだろう。
俺は二人に向けて言葉を発した。
「協力はしませんが、応援はします」
「「……」」
「それでは失礼」
俺はほぼ無表情で踵を返しドア目掛けて歩く。
誰が王になろうが、この国は変わらない。
俺がため息を吐いて歩いていたら
「ケルツ公爵からの話だと、貴方は魔法が使える平民でも貴族になれるようにするために頑張っているらしいですね」
レア様の言葉に俺は止まって背を向けたまま答える。
「……そうですね」
「今はいろんな利害関係が絡んでいてできませんが、私が女王になれば、他国と同様、魔法が使える平民でも貴族になれるように爵位制度を改正しましょう」
「な、なに?」
俺は驚いて振り返ってレア様を見つめる。
彼女は握り拳を作って俺をまっすぐ見つめていた。
「お姉様……」
セレネ様が心配そうに自分の姉の手を握るが、レア様は微動だにしない。
「ですが、私が殺されたら貴方とケルツ公爵の念願は敵いません。ですので、私……とセレネが死なないように協力してください。私が女王になってからも……」
信じられなかった。
まさか、次期女王様からこんな言葉が聞けるなんて。
嘘を言っているようには見えなかった。
彼女が曇りない瞳で俺をまっすぐ見つめているから。
俺は口を開く。
「もし、約束を守らなかったらどうしますか?」
「その時は、私を殺しても構いませんの」
長ったらしい理由を並べ立てることもなく、簡潔にまとめられら彼女の言葉に、俺はつい見惚れてしまった。
最初は俺を試した彼女だが、
今や目の前のレア様は
女王として相応しいオーラを出していた。
もちろん、彼女も一人の女だ。
でも、プライドを捨てて平民である俺を味方につけようとするレア様は、実に美しい。
「……わかりました。協力しましょう」
俺の言葉を聞いて二人は作り笑いではなく、純真無垢な少女のように微笑んだ。
セレネ様が俺に近づいて手を握ってくる。
「本当に……ありがとうございます」
「いいえ、むしろこちらこそありがとうございます」
「カナトさん」
「はい」
「なかなかやりますね。ふふ」
「……」
彼女は妖艶な表情を俺に向けてきた。
そして小声でボソッと
「誰かさんと大違い……」
「何か言いましたか?」
「いいえ、なんでもありません」
セレネ様はごまかし笑いをして、さらに俺に手を握っている自分の手に
より一層力を入れた。
やめろよ。
ハリーの婚約者だろ。
X X X
フィーベル商会の本拠地へ向かう途中
馬車の中で
「ケルツ様、本当にいいですか?僕の愚息の大好きなカナトくんを一人きりにして……相手は王女様ですよ」
「なに。俺のような年をとったものは返って邪魔になるということだ。頭が凝り固まった俺を介したら、カナト君の良さは伝わるまい」
「そんなことが言える時点で、もう若者同然ですよ〜」
「アルベルト」
「はい?」
「俺たちの時代はもう終わりだ。これから新しい時代がやってくる。しかしこの有り余るお金を使わないことは国を滅ぼすことだ。エレナやカナト、ジェフたちが活躍できるようにお金を出そう。俺たちの払った費用は、この国の未来を繁盛させることに繋がる」
「ふふ、そうですね。特にカナトくんには僕に代わって色々暴れてくれないとですね。積極的に協力します」
二人は馬車の中で四方山話に花を咲かせる。
X X X
パーシー公爵家
裏庭
ハリーは人気のない裏庭で立ち尽くしている。
まるで誰かを待っているように。
数分経つと、彼の後ろから誰かが現れた。
「ごめん〜遅かったな♫」
ブラウン色の髪をして、平民が着ていそうな服装をした男がふざけた感じでハリーに言った。
すると、ハリーは後ろを振り向き
「やっぱり平民は堕落しても無能だね。僕が念入りに立てた計画を台無しにするなんて」
コメカミを抑えたハリーはキチガイのように振る舞う男を睨みつける。だが、そのキチガイ男は反省する姿を見せずに大仰に手を振って
「いやいやいや、あんな強い人がいるなんて全然知らなかったからね!」
「……あんな生意気な平民雑魚一匹も処理できないなんて、ジェネシスってのも、所詮その程度かね」
「おいおい、人聞の悪いことは言うなよ。お前さんも相当アレだろ?」
「はあ?」
ハリーがアランを軽蔑するように見つめると、アランはアヘ顔を浮かべて両手を広げる。
「だって!俺が第一王女を殺すようにお前さんが仕向けただろ?お前さんの情報がなければ、俺は王宮に近づくこともできなかったぜい!第一王女がもし死んだら、第二王女が女王になる。すると、女王の夫であるお前さんは莫大な権力を手に入れることができるわけだ!あはは!よく考えたな。俺様のボスがお前さんのクズさを知ったら、気に入ってくれるかもよ〜」
「ふふ、何を言っているかわからないな」
ハリーはしれっとわからないふりをする
追記
次回はちょっとグロい表現あるかも
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