第29話 二人の王女様との会話


「あなたを待っていました」


 最初に口を開いたのは肩まで髪が伸びている第二王女のセレネ様。落ち着いた口調で話した彼女はとても品がある。


 いろんな刺繍が散りばめられている白いドレス姿に身を包んだ彼女は少し腰を下げて俺を上目遣いしてきた。


 おかげさまで大きな膨らみも共に揺れ出し、衣擦れの音が俺を耳を悩ませる。


 本当に綺麗だ。


 可愛いリナとも、凛々しいエレナ様とも違うオーラが感ぜられる。


 俺がぼーっとしている痺れを切らした別の方が話す。


「何ぬぼーっとしていますの?早く入りなさい」


 黒いドレスを着て長いピンク色の髪を掻き上げながら言うのは第一王女のレア様。


 この前、俺が助けた人だ。


 だが、本人はそれを全然気にしていない様子だ。


 第二王女のセレネ様と比べて顔立ちはもっと整っていて、もっとボリュームのある体つきだ。


 だが、彼女の漂わせる雰囲気が決して自分の美しさをいやらしく感じさせない。


「はい……申し訳ございません」


 圧倒された俺は頭を下げて謝罪してから中に入った。


 彼女らが高級ソファーに座ることを確認した俺は向かい側にゆっくりと腰掛ける。


 俺たちは軽く自己紹介を済ませた。


 レア様が口を開く。


「この間私を助けたことに関しては感謝します」

「い、いいえ……たまたま居合わせて、運が良かっただけですよ」

「別に隠す必要はありませんの。ケルツ公爵から話は聞いていますわよ。レッドドラゴンの話まで」

「……」


 俺を睨みながら言うレア様の態度にちょっと苦手意識を持ってしまった。セレネ様は大和撫子のような感じだが、こっちは相当気の強いお嬢様だ。


 なるべく角を立てないように気をつけなくては。


「ご無事で何よりです」

「っ!」


 俺が笑いながら言うと、レア様が急に上半身をひくつかせて睥睨する。


 な、なんだよ。俺、間違ったことしてないはずだが。


 顔を引き攣らせる俺。


 第二王女のセレネ様が俺を見てほくそ笑んでからレア様の体を抱きしめてきた。


「お姉様、カナトさんが怖がってますよ。リラックス!リラックス!」

「ちょ、セレネ!何をしていますの!きゃ!」


 セレネ様は手をレア様の体に這わせ優しく触っている。特定のところを攻めるわけではなく、全体的に撫でるような感じだが、レア様は頬を朱に染め、暴れることなくセレネ様によって貪られている。


「……(王女様二人がこんなことを……)」


 しばしの間、レア様の喘ぎ声を聞いたのち、もう十分と判断したセレネ様は自分の姉を解放してくれた。


「はあ……はあ……あとで覚えてなさい!」


 息を切らすレア様を見て微笑んだセレネ様が俺に聞く。


「あなたの強さを見込んで、一つ頼みがあります」

「頼み……ですか?」

「はい。どうか、お姉様を襲撃した犯人を捕まえてください」

「アランという男……」

「はい。ジェネシスのアランです」


 セレネ様が意味深な表情で俺を見つめると、落ち着きを取り戻したレア様がさっきよりはだいぶ穏やかな面持ちで言う。


「あの団体はとても危険ですの。レノックス公爵家の長男を殺してから一切姿を見せませんでしたが、まさかあんな恐ろしいことを企んでいる組織だったなんで……」


 と言ったレア様が暗い表情でため息をついた。

 

 レノックス公爵家


 レノックス


 セントラル魔法学園のルナ様……


「まさか、ルナ様の!?」

 

 俺が目を丸くすると、二人は顔を縦に振る。


 ルナ様にそんな辛い過去が……


 そういえばあのパーティー会場でもレノックス家の長男がなんたらかんたら言ってたい気がするが、緊急事態だったから聞き取れなかった。


 落ち込んでいる俺の姿を見てレア様が続ける。


「過去にもジェネシスの正体を暴こうとした試しはありましが、全部失敗。ボスが誰なのか、本拠地はどこなのかもわかりませんの」

「そうですか……」

「しかし、あのアランという男だけは何があっても必ず捕らえなければなりません」

「なぜですか」

「……」


 俺の問いにレア様が答えずにいると、セレネ様が冷めた口調で言う。


「彼はアンデッドの力を使っていました」

「アンデッド?」

「はい。人の魂を蝕む呪われた力。人を人ならざるものにする恐ろしい悪魔の魔法。お姉様の首を狙っていたあの斧にもアンデッドの魔法がかかっていました。おそらく、カナトさんがいなかったら、お姉様は100%死んだんでしょ」


「……なるほど。どおりで切れ味がちょっと鋭かったわけだ」



「「は?」」

 


 俺がアランとの戦いを思い出していうとピンク色の髪の二方が口を半開きにした。


「あの斧の攻撃はレベル5でも防ぐことが難しいのに、なんでそんなにあっさりしていますの!?あなた、魔法は使えるけど、平民ですのよ!」

「まるで、アランの攻撃なんか取るに足りないとでも言いたげな話し方ですね」


「いや、俺アンデッドとか実際見たことありませんし……そんなに大した相手だとは思いませんでしたので」


「「……」」


 二人は呆気に取られたまま、互いを見つめ合う。


 そして、レア様が悔しそうに口を開いた。


「もしこの件がうまくいけば、この前助けていただいた件も含めて、あなたには褒美を与えることを約束します」

「褒美?」

「爵位です」

「しゃ、爵位!?」

「ええ。私のお父様である国王陛下は、あなたを大変気に入っていますの。もちろん爵位の話も出ました。してますけど」

「……」

「一代限りの下級騎士からのスタートになると思いますが、あなたのやる気次第では、もっと上にいくことも出来ましてよ。アンデッドの魔法を使うアランの攻撃を防いだ貴方なら訳ないことかと」


 レア様は鋭い視線を向けてくる。だが、そこには若干の不安の色が混じっているようにも見える。


「いい条件だと思いますけど」


 セレネ様がフォローを入れてくる。


 確かにいい条件だ。


 ジェフ様とアルベルト様は、下級貴族なんか名目上のポストでこの王国で平民なんか魔法が使えても貴族になれる道は存在しないと言った。


 だから、彼女らの提案はある意味画期的とも言えよう。


 無事に任務をクリアすれば俺は貴族になる。


 下級騎士から始めるが、男爵、子爵、伯爵と言った陞爵も出来る。


 つまり、





 俺だけが貴族になる。






 気づかないうちに俺の口角は


 それを肯定と捉えたのか、彼女らは明るい表情になる。











「「っ!!!!」」



 冷静だった彼女らは





 誰かに命を狙われる少女みたいに目を潤ませて唇を震わせる。


 だが、やがて平静を装って俺を睨みつけてきた。






追記



長いので一旦切ります












 

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