第31話 奴隷は貴族を殺す

 ハリーとアランはしばしの間、話し合った。


「情報ありがとよ。んじゃ、またくるからよ〜」

「今度は失敗しちゃダメだからね」

「……」

「どうした?」

「いや、この前のパーティーで俺の攻撃防いだめっちゃ強いやつって本当に知らんのかなって」

「そんなゴミ虫なんか知らないよ。それに、そいつが強いんじゃなくてお前が弱いだけだろ?」

「あはは!!言ってくれるじゃねーか!!今に見てろよ!今度は確実に



 話を終えたアランは音を立てずにパーシー家から立ち去る。


 消えゆくアランの後ろ姿を見て口の端を上げるハリー。


 すると、後ろから誰かがやってきた。


「ハリー、大丈夫か?」

「父上……ご心配なさらず。ことはうまく運んでおります」


 ハリーは後ろを振り向いて父であるヘンリーに微笑みをかける。


 だが、ヘンリーは相変わらず物憂げな顔を浮かべる。


「僕はジェネシスの連中を信用できない。奴らは下賎な平民と奴隷の集まりだから」

「父上」

「ん?」

「僕もはなからジェネシスなんて信用してませんよ」

「……じゃ、なんであのアランという男と関わりを持っているんだ?やっぱり、深く関わらない方がいいと思うが」


 問われたハリーは目を細めて見下すような話し方で答える。


「父上、奴らが王家を潰してくれた時点で貴族と連合を組んでジェネシスを潰せば済む話です」


 言い終えるとハリーはふふっと鼻で笑い、自信満々な姿を自分お父に見せる。


 すると、


「やっぱり!!!ハリーは賢い!!!はあ……ハリーが僕の息子で本当によかったああ!!!連合を組む時フィーベル家は入れない方がいいな。いや、むしろ奴らに罪を被せる方がいいかね」


 父に褒めちぎられたハリーは内心嬉しいのか、明るい表情を浮かべている。


「それもいい方法ですね」


X X X


アランside


パーシー家近くにあるサトウキビ畑


 アランはパーシー商会が運営するサトウキビ畑の近くを歩いていた。


「ん……パーシー家っていつ潰そうかな。とりあえず利用価値あるから飼い殺しているだけなんだが……ボスに聞いてみよ♫」


 鼻歌を歌いながらアランは聳り立つサトウキビたちを眺める。


「今日はアンデットになってくれる奴隷っていないな〜パーシー商会って人使いが荒いから必ずと言っていいくらい脱走者が現れるのによ〜まあ、いずれ俺様と平民と奴隷たちが全部解放してあげるつもりだから、我慢してくれよな〜」


 そう言ってしばし歩くと、


「あ……ああ……」


 うめき声が聞こえてきた。


「はあ?」


 なんぞやと声がする方に視線を向けると、サトウキビたちの間から小さな少年が現れた。


 少年はボロボロな服を身に纏っており、皮膚は鞭で打たれて爛れており、傷口が化膿してドロッとした体液が滴れ落ちている。


 不自然な歩き方をしているが、おそらく足の状態も悪いだろう。片方が腫れている。骨折だろうか。


 あまりにもひどすぎる状態の少年は力が尽きたのか、そのままあえなく倒れてしまった。


 しかし、彼の表情には


 


 凄まじい怒りが宿っていた。




「俺様もボスに出会った時あんな顔してたっけか……」


 アランは目を丸くして早速傷だらけの少年のところへ行く。


 そして、腰をかがめて話かけた。


「おやおや、君はなんでこんなに苦しんでいるんだい?俺様に言ってごらん。そしたら君の願いは叶うかもしれないよ」

「あ……はあ……」


 横になったままの傷だらけの少年はアランの瞳をじっと見つめた。


 すると


「俺……仕事できないから……殴られた……お姉ちゃん……現場監督の貴族と他の偉い人たちに酷いことされて……死んだ……お姉ちゃん守りたかったけど……俺、弱いから……鞭で打たれて、殺されそうになった……だから逃げた……」


 少年は言い終えると、血涙を流す。


 アランは倒れている少年を抱き抱えて囁きかける。


「よーく言ってくれた。つまり、お前には力が必要なんだな?」

「……うん」

「じゃ、くれてやるよ。お前を苦しめた貴族に勝てるほどの強い力を」


 アランは自分の服のポケットから小さな黒い水晶を持ち出す。

 

 それを血涙を流す少年に見せては


「ほら、この水晶を見て、『俺はジェネシスのペルセポネ様の忠実な僕となることを誓います』と言ってごらん。そして、この水晶の力を拒むことなく全部受け入れて」


 いつもキチガイのように振る舞うアランは今回に限ってはまるで赤ちゃんを可愛がる父のようだ。


 小さな少年はというと


「俺はジェネシスのペルセポネ様の忠実な僕となることを誓います」


 水晶から黒い光が現れた。


 その光は少年を包み込んむ。

 

 数分が経つと、黒い霧と光は徐々に薄くなり少年の姿が現れた。


 鞭で打たれた傷も、腫れ上がった足も全部治っていて、産毛が生えている。


 一見健康そうに見えるが、彼の醸し出す雰囲気は人間とは全く違う。


 見た目は変わらないが、誰でも近づいたら気がつくだろう。


 こいつは人間ではないと。


 その時


「あ、いた!このゴミクソやろうが!!おい、奴隷1200号目!!早くこっちこい!」


 鞭を持った怒り狂った下級貴族らしきものが少年(1200号)を見て叫んできた。


 でも、少年(1200号)は反応しない。


 下級貴族は虚空に向けて鞭を打ってからまた口を開いた。


「おい!1200号!俺の言葉を無視するのか!?動物以下の奴隷風情がああ!!!」


 アランは下級貴族を一瞥してから1200号に訊ねる。


「あいつ、誰?」

「……俺とお姉ちゃんに最も酷いことをしてきた現場監督」

「ほお……つまり、君が一番恨んでいる人ってわけか」

「うん」

「挨拶でもしてきな」


 アランに言われた1200号は下級貴族へと向かってくる。


 すると下級貴族は、


「犬より物分かりが悪いお前に飯を食わせて、居場所を与えてあげてるのに、なんで逃げるんだよ!!!逃げたら俺が上層部から怒られるだろうがあああ!!!やっぱり、お前は俺のサンドバックになった方がお似合いだあああ!!!」


 下級貴族は1200号のお腹を足で蹴ろうする。


 が



「あ」



 黒い光を帯びた1200号の手が下級貴族のお腹を貫通する。


 滴れ垂れ落ちる下級貴族の血液を見る1200号は


 切り裂けるほど口角を吊り上げる。


「ふ、あはは……あははは」


 笑う1200号は下級貴族のお腹を掴んで持ち上げて叩きつける。


「ぶあっ!」


 叩きつけられた下級貴族は戸惑ったように1200号を見つめる。


 下級貴族は


 怯え始める。


 その光景を見てアランがゲラゲラ笑いだす。


「あはははは!!!!今まで散々奴隷をいじめて酷いことしておいて、いざ自分がやられるとなったら、この有様……面白い……実に面白い!!!!」

 

 大きく笑うアラン。


 アランは1200号に向かって話しかける。


「少年、今どんな気持ち?」


 すると1200号は下級貴族を上から見下ろして穴が空いたお腹を踏みつける。


「あああああああああ!!!!」


 悲鳴を上げる下級貴族なんか気にする風もなく、1200号は後ろを振り向いて答える。


「楽しい」

「あはは!!!だよな!!!貴族様たちは毎日こんな楽しいことやってるんだよ。でもさ、それって不公平だよね〜こっちも楽しまないとな!!!」

「そうだよ。俺も楽しみたい。俺のお姉ちゃんにひどいことをしたから、お前はもっと酷いことされないとね」


 と振り向き様に言って1200号は倒れている下級貴族をお腹をガッツリ掴んで持ち上げる。


「あ!!!ちょ、ちょっと待って!!俺が悪かった……俺が悪かったよ!!だから、離してくれ!!」


 下級貴族の命乞いに1200号は反応する。


「?」


 下級貴族は卑屈な表情で話す。


「俺が普段1200号をどれだけ気にかけているのかわかる?ご飯だって毎日あげるし、寒い夜は馬小屋で寝ることも許可してくれたじゃん?ほら、俺みたいないい人ってそんなにいないよ。だから、この手を離して、ちゃんと話し合おう。そしたら、互いのいいところと悪いところがわかってくると思うんだ」

「……」

 

 1200号は一瞬戸惑う。


 けど、


 アランがまた大声で叫んできた。


「話し合い?そんなのできるわけねーだろ!!答えは一つしかいないんだ!!貴族が平民や奴隷を支配したように、奴隷や平民も圧倒的力を持って、貴族を支配する。これこそが我々が掲げる理想だよ!!さあ、圧倒的力を見せつけろ!!」


 アランの言葉を聞いた1200号は、下級貴族のお腹をもっと力強く握りしめる。


「あああ!!!!こ、この……」


 下級貴族は力を振り絞って自分のポケットにあるワンドを持ち出そうとするも、


 黒い光を帯びた1200号の片方の拳によって下級貴族の手が切り落とされた。


「あああああああああああ!!!!!!」


 断末魔の叫ぶを上げる下級貴族。


 1200号は下級貴族を全力で叩きつけようとする。


「奴隷をいじめて殺すの大好き!!!綺麗な奴隷の女の子とエッチなことするの大好き!!!あははは!!!俺は貴族だあああ!!!お前ら奴隷が貴族を支配だと!?ふざけるな!こんな面白いことは貴族だけが……」




 1200号によって叩きつけられた彼は




 死んだ。



 

 1200号は笑いながらアランのところへ戻ってくる。


 

「少年」

「うん」

「ジェネシスの本拠地へいこう。ボスのペルセポネ様が君を歓迎してくれるはずだよ。とても綺麗で頼りになるお姉ちゃんのような存在だから」

「うん。ありがとう」


 二人は仲良く歩み始める。


「これからだんだん面白くなるよ。これから本格的に貴族を殺しまくるから」





追記


次回からカナトたちが出ます







 







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