第27話 新たな敵

 相当な魔力を帯びた斧を弾き返すべく、俺は早速唱える。


「鉄板!」


 ちなみにエレナ様を暗殺者から守るためにこの前鉄板を召喚したことがある。が、今度は密度も厚さも前の時と比べ物にならないほど丈夫なものを召喚した。




カーン!



 凄まじい音を出しながら分厚い鉄板に突き刺さる巨大な斧。


 幸い第一王女のレア様は助かった。


 だが、敵はまだ諦めていないようだ。


 煙と埃の中からブラウン色の髪をした男がナイフを持って第一王女様の首を狙う。


 俺は早速SMGを召喚してその剣代わりに彼の攻撃を止めた。


「っ!」


 初めてみる男だ。

 

 平民が着そうな汚れた服を身にまとい、精悍な顔立ちの持ち主。


 しかし、瞳と表情には狂気が宿っているように見える。

 

 俺は第一王女様を守るために妹と離れたため、ほんの一瞬、妹の方に目を見やると


 いつしか身を構えたリナは、キチガイ男の攻撃を防いでいる俺を援護しようとしている。


 実に心強い。


「おいおいおい」


 キチガイ男は俺を呼んだ。


「何者だ」


 俺が問うと、彼は冷たい口調で言う。


「お前こそ何者だ。貴族じゃない?」

「聞いたのは俺が先だ」

「お前、只者じゃないな。予定がお前のせいでだいぶ狂っちゃったが、まあ、自己紹介といきましょうか〜」


 キチガイ男は俺から離れて、早速舞台のところにやってきては




「みなさん!こんばんは〜ジェネシスの幹部をやっておりますアランといいます〜」


 浮かれた様子で話すアランという男。


「けほ!けほ!ジェネシス……」

「まさか、数年前、レノックス公爵家の長男を殺したというあの組織?」


 煙がいまだに充満していているので、貴族や使用人たちは「けほけほ!」と咳き込んでいながら当惑している。


 誰かがドアを強く叩く音が聞こえるが、すでに閉まっていて開かない。


「そうですよ〜邪魔する連中は相手が誰であろうが、容赦無く殺すのが、ジェネシス〜」


 韻を踏んでしゃべるキチガイ男のアランはまた続ける。


「今日は、俺様が幹部を務めるジェネシスの正体と真の目的について皆様方にお伝えするためにやってまいりました〜」


 まるで、俺たちを小馬鹿にするような口調で言うキチガイ男のアランは、どデカい斧を一振りして煙を鎮める。


 すると、このパーティー会場にいるみんながこのキチガイ男のアランに視線を向けてきた。





「あははは〜ジェネシスはですね♫、ハルケギニアの王族と貴族をにして、魔法が使える平民を軸とした平民と奴隷のための国を作ることを目的とした団体です〜」




「「な、何!?」」


 

 どよめきが走った。

  

 キチガイ男は貴族や王族の反応が面白いらしく、爆笑したのち、また口を開く。


「あははは!!!本当に面白い反応してますね。その様子だと多分わからないんじゃないでしょうかね」


 アランは息を深く吸って


 ここにいるみんなを軽蔑するような表情で言う。


「あなたがたのようなクズ貴族や王族によって酷い思いをした奴隷と平民がどれだけいるのか。そしてその奴隷と平民の怒りがどれほどのものなのか……俺様はよーく知ってますよ〜だって、俺様も平民だもん〜でもね、貴族より強いんですよ〜俺様の力を見せてあげましょうか?」


 と言って、キチガイ男のアランは斧に魔力をいっぱい込めて、目の前の男貴族にそれを投げつけた。


 すると、


「へ、平民風情が!!!俺はレベル4だぞ!こんな攻撃なんか通じるはずっ」


 男貴族の体は二分された。


 湧き上がってくる血と、あえなく倒れる二つの肉の塊。




「「きゃあああ!!!!」」


 それを見た女貴族は大声を上げる。


 キチガイ男のアランが手をかざすと、斧は彼の手に飛んできた。それを握ってまた笑いながらいう。


「おほほほほほほ!!!!レベル4の貴族が死んでしまいました〜大口叩いて、俺様を馬鹿にした上流貴族が俺様に。ざああねんですね。とてもざああああねん。あんなに無視して軽蔑していた平民なんかにやられるなんて、♫」


 急にこのキチガイ男のアランがよがり始める。


「強い魔法が使える俺様に伯爵級以上の爵位を与えて、貴方たちの既得権益を俺様にも味わわせれば、こんな悲劇は起きなかったのにな〜おほほほ!!俺様は悪くありません〜悪いのは、魔法が使える平民を差別してきたこのハルケギニアという国を支配する王族とくそ貴族で〜す」

 

 キチガイ男は目尻、口角を同時に吊り上げる。


「おっと、もうお別れする時間ですね〜またお会いしましょう!次会う場所は、おそらくかな?」


 そう言って、キチガイ男は丸っこい何かを舞台に落としてから壊れた窓を利用して逃げ去る。


 突然のことでみんな戸惑っていると、やっとドアが開かれ親衛隊らしきものたちが登場した。


「一体何が起きているんですか!?」

「犯人を探せ!」


 親衛隊は早速舞台に上がり、犯人探しをする。


 親衛隊らを見て、死んだ貴族の横にいる別の男貴族が口を開く。



「みんな……逃げろ」

「?」




「あいつは強い爆発力を持つ魔法水晶をここに落としたんだ!!逃げろ!!!!」



「「っ!!」」



 全員が目を丸くする中、急に舞台の下が光だす。


「くそ!間に合わない!」

「お兄様!」

「リナ、俺にくっついて!」

「はい!」


 全員を守ることはできない。


 


 ものすごい爆発が起きた。


 それはパーティー会場にある全てが灰燼に帰すほどの威力だった。


 俺の右腕には妹が


 そして、俺の左腕には


 第一王女のレア様と第二王女のセレネ様がいた。


 しばしの時間が経つと、


 廃墟と化した会場の様子が見え始める。

 

 俺が丈夫な鉄板を張ったのはケルツ様の前。


 つまり、ケルツ様の向こうはおそらく全員死んだということになるだろう。


 だが、

 

 キチガイ男のアランが落とした魔法水晶の周りにいる人たちは、身体中が傷だらけで気絶しているがまだ命は残っているようだ。


 俺は彼ら彼女らが生きている理由をすぐわかった。


 エレナ様が剣を抜いていたから。


 おそらく剣で向こうの人たちの体に結界みたいなものを張ったのだろう。


 俺が安堵のため息をついていると、隣にいるハリーが息を荒げた。


 彼はで俺を一瞬捉えたのち、歩き出してここを出た。


 相変わらず王女様二人は俺にくっついた状態で、リナも俺から離れようとしない。


 両腕に極上の柔らかさが伝わるが、俺は首を左右に振ってリナに言葉をかける。


「リナ」

「はい」

「あの負傷者たちにヒールをかけてくれないか」

「お兄様がそれを望むなら、私は従います」

「ありがとう」

「お兄様」

「ん?」

「私を連れてきて正解だったでしょ?」


 と、言いつつ妹は自分の大きなマシュマロを俺の腕にさらに擦り付けてくる。

 

 なので、俺はリナの頭を優しく撫でて


「ああ。リナを連れてきて正解だった。リナは攻撃魔法も強いけど、ヒールがうまいからな」


 俺は王女様二人に目で合図したのちリナと一緒に負傷者のいる舞台へと足を運んだ。



(ピンク色髪の王女二人は頬を薄いピンク色に染め、カナトの背中を穴が開くほどじっと見つめる。お腹が熱くなる感覚を感じながら)









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