第24話 ルナはカナトを見て何を思うのか

放課後



 ルナ様の一方的な宣言により俺は監視対象となった。


 本来、セントラル魔法学園には名門家の子息と子女がいっぱいいることから、貴族ぐるみの政治的な取引も盛んに行われるらしい。


 それが王家にとって脅威になることがあるとして、いわゆる怪しい人間を生徒会が監視する仕組みが導入された。


 それを俺に当てはめようとしているわけである。


 最初は抗議したが、彼女は頑固だった。


 というわけで、用事のあるエレナ様とジェフ様、ミア様は先に帰り、俺と妹、そしてルナ様が一緒に並んで学校の正門をくぐった(俺は真ん中)。


 普通はセントラル魔法学園のパーティーや王家直属の秘密部隊に依頼を出すのだが、俺に限ってはルナ様が直接監視を行うらしい。


「ふふん〜ふふふん〜」

「リナ、どうしてそんなに浮かれてるんだ?」

「だって、ルナ様も一緒に家に行きますから」

「監視されてるだけなんだけどな……」

「ふふっ」


 俺がげんなりしながら言うも、リナは実に幸せそうな顔である。


 ルナ様は極めて冷静な面持ちで俺と妹のやりとりを聞いていた。


 今日の晩御飯、なににしようかな。


 最近忙しくて食材、あまりないんだけどな。



X X X


ボロすぎる家の近く


「お!カナト!いたんだ。これ持ってけ!!」

「ブラウンさん?今日は珍しいくいたんですね」


 漁をやっている隣人のブラウンさんが声をかけてきた。


 以前、この人から王タコの噂を聞いて狩ったことがあるのだ。(1話参照)


 いつも忙しい人なのに、今日は休んでいるのか。

 

 禿頭の彼は魚の切り身が入っている皿を俺に渡した。


「こ、これは!?」

「いや〜カナトの教えた通り魚を熟成させてみたけど、これがまた美味しくてよ!どれも上級貴族御用達の最上級魚だぜ!」

「おお……こんな大切なものを頂いちゃっていいですか?」

「いつも妹のために頑張っているお前さんを見えると、なんか応援したくなったぜ!お前さんは若いもんの中ではピカイチだから」

「……ありがとうございます」

「あはは!まあ、にはいい女が集まってくるもんだな」

 

 禿頭を光らせたブラウンさんは、ルナ様をチラッとみた。


 おい、失礼だぞ。


 目の前にいるの、公爵家の長女様だぞ?


 まあ、悪意がないことはわかるけどな。


 俺はブラウンさんに礼を言って家へと向かった。



「こ、これが……家?馬小屋じゃないかしら……」


 ルナ様は目を大きく見開いて口をポカンと開けた。


「あの……ルナ様、やっぱりこんなむさ苦しいところに入るのはやめた方がいいかと」

「……本当にここに住んでいますか?」

「は、はい」


 俺が申し訳なさそうに答えると、ルナ様はリナを同情するように見つめる。

 

 しかしリナは、ルナ様の視線なんか全然気にする風もなく、よだれを垂らしていた。


「ジュル……お兄しゃま」

「ああ」

「す、寿司が食べられますね」

「そうだよ。今日は久々にお寿司と味噌汁にしようか」




「やったああああああ!!!!!お兄様大好き!」



 リナは飛び跳ねるように喜んでいて、ルナ様はまた目を丸くして、廃墟じみた家の前でよがるリナを不思議そうに見つめていた。

 

 リナは寿司が大好きだからな。



X X X

 

「こ、これが寿司という料理……」


 ルナ様は俺が握った寿司を不思議そうに見つめている。


「お兄しゃま……食べていいですか?私、我慢ができません」

「はいよ。今日はネタも多いからいっぱい握ってやれるぞ」

「いただきます!!!」


 リナはものっそいスピードで寿司を醤油に付けて口の中に運んだ。


「美味しいいいいいいい!!!はあ……幸せ……」


 自分の頬をさすり目を瞑って寿司の味を堪能するリナの顔を見ていると、こっちまで幸せになる。


 ルナ様は彼女を見て微笑んだのち、寿司を握っている俺を見てきた。


「えっと毒は入ってませんので、気になるなら別に食べなくてもいいですよ。俺が食べるんで」

「せっかく食事まで用意してくれたのに、そんな無粋な真似はできません。毒が入ってないことは。ですので、いただきます」


 ルナ様がリナと同じやり方で寿司を握り、醤油につけて口に入れた。


 そして数秒後





「っ!!!!!!!!!」


 彼女はまたもや目を大きく見開き、上半身を引き攣らせる。


「る、ルナ様?」


 俺が心配して彼女を名前を呼ぶと




「お、おお……おおお……」

「お?」





「美味しいいいいい……」


 

 ルナ様は頬を赤に染めて残りの寿司も食べ始める。


 二人は実にすごかった。


 絶え間なくおかわりを要求する彼女らに俺は全力で寿司を握ってゆく。


 結局、俺の分まで二人に持って行かれて、俺は寂しくご飯と味噌汁だけで腹を満たした。


「……カナトさんの分まで食べて申し訳ありません」

「いいえ、ご満足いただけで何よりです」

「どうやら、私は貴方を誤解したようですね」

「え?」

「確かに貴方は謎に包まれた人です。ですので貴方を信頼しているわけではありませんが……少なくともあなたはですね」




「いや〜俺なんか、妹に迷惑ばかりかけるダメ兄ですよ。あはは」


 ちょっと照れた俺の言葉を聞いたルナ様の様子が急に変わった。


「……今日のところは帰るとしましょう。お寿司、本当に美味しかったです。代金は明日払いますので」


 と、ルナ様は俺たちに礼を言って家を出た。


 玄関を出る際の彼女はとてもやるせない表情だった。



X X X


ルナside


 ボロすぎる家を出たルナは密かに呟いた。


「お兄様……お兄様……お兄様」


 彼女は涙を流しながら同じ単語を繰り返し言う。


 お兄様


 ルナはレノックス公爵家の長女。


 だが、彼女にも兄が一人居た。


 今はあの世にいってしまった兄。


 ジェネシスと名乗る謎の団体から襲撃を受けてあえなく尊い命を失ってしまった自分の兄。


 兄はずっと憧れの人だった。


 血さえ繋がってなければ彼の赤ちゃんを産みたいほど、ルナは兄をとても深く愛していた。


 いつも自分を守ってくれる兄

 いつも自分に心の安らぎを与えてくれる兄

 いつも優しい兄


 そんな兄は他人からいい兄であると褒められると決まって言うセリフがあった。



『いや〜俺なんか、妹に迷惑ばかりかけるダメ兄ですよ。あはは』



 あの二人を見ているとどこかむず痒さを感じていたが、さっきのカナトの言葉を聞いたルナは心が締め付けられるような苦痛を感じた。

 

 ルナは泣きながらボロすぎる家を後にする


 ハルケギニア王国の行政と司法に多大な影響を及ぼしているレノックス公爵家の長女としてふわさしい振る舞いをしなければならないと決意しながら。




追記




どうやら敵はハリーとベルンだけじゃないみたいですね


もうすぐ派手にやりますので


あともうすぐ王女もでます







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