第23話 生徒会長からの呼び出し

翌日

 

最下位クラス


 鼓膜が破れた貴族たちとギースはリナの治療魔法とルナ様の協力のおかげでなんとかなった。だが、彼ら彼女らはまだ安静が必要とのことで学校にはきてない。


 なので授業が始まる前の最下位クラスでも、昨日クエストへ赴いたハイレベルの人たちが来てないという話題で持ち切り状態である。


「昨日、レッドドラゴンと戦った最上位クラスの人たち来てないんだってよ!」

「一体何があったんだろう」

「平民とジェフ様も昨日行ったんだよね?」

「平民が所属しているパーティーメンバーはなんで来てるの?」

「聞いてみる?」

「いや、平民に話しかけるとか、ないわ」

「ジェフ様と絡まれると色々厄介そうだし、聞くのはちょっと」

 

 最下位クラスの男女の囁く声が漏れ聞こえる。


 うち女子一人がミア様をチラチラ見ながら話しかけようと試みるが


 突然、ジェフ様が立ち上がりいつもの口調で言い始める。


「カナト〜昨日の君の活躍を僕は一生忘れられない!」


 すると、あっという間に俺とジェフ様は注目の的と化してしまった。


 彼は軽い足取りで俺の席にやってくる。


「ジェフ様?」


 と俺が言うと、ジェフ様はにっこり笑って座っている俺の肩に優しく手を添えて言う。


「何せ、レッドドラゴンを倒したのはカナトで、他のパーティーメンバーはカナトの放った強力な魔法弾の衝撃波によって気絶したからね〜」






「「!?!?!?!?」」






 どよめきが走る。


「ありえない……」

「嘘だろ……」

「信じられない……」

「ほ、本当!?」


 みたいな言葉を吐くクラスの連中は口をポカンと開けて当惑する姿を見せる。


「ジェフ様……余計なことは言わないでください」


 俺がジト目を向けてジェフ様に抗議すると、彼が口角を吊り上げて言う。


「でも、事実だよね?」

「まあ、それはそうなんですけど」


 最下位クラスに来てからはなるべく目立たないようにしていたが、これだと目立ちまくりだ。

 

 周りの男子女子たちがコソコソと話している中、


 校内アナウンスが鳴り響く。


『生徒会からのお知らせです。二年最下位クラスのカナトさん。昼食後、生徒会室に来てください』


「え?俺?」


 急に呼び出しをくらったことで戸惑っていると、周りが騒々しくなる。


「生徒会からの呼び出し!?」

「ジェフ様の話は本当ってこと?」

「……」


 俺がクラスの連中の反応を見ていたら、ジェフ様がサムズアップしてうんうんと頷く。



X X X



生徒会室


 俺はファイブスターの本拠地でみんなと昼ごはんを食べたのち、早速生徒会室へと向かった。


「……」

 

 ドアを開けると、広々としている内部が見える。


 照明はつけてないが、外から差し込む直射日光が窓越しに部屋とたった一人の美少女を照らしていた。


 ドアを閉めるとその美少女が口を開く。


「突然呼び出してすみません」

「いいえ。それよりなんの用ですか?」


 生徒会長用の机の後ろにある高級椅子に座っているルナ様は絵画じみているように思えるほど回りの風景とよく調和していた。


「昨日の件でいくつか伝えたいことと聞きたい事があります」

「は、はい」


 伝いたいことか。


 だったら、なんで他の4人は呼んでないのか。


 俺が訝しんでいたら、彼女は小さな咳払いをして話を始める。


「まず、気絶した貴族たちとギースさんは昨日より容態が良くなったとのことです」

「それはめでたしめでたしですね」


 俺が冷たい口調で返すと、彼女は少し間を置いてから続ける。


「そして残念ながら麝香鹿はすでに死んでいたので、カナトさんのパーティーにはなんの報酬も払えません」

「まあ、あたり前のことですね」


 またもや適当に答えるとルナ様目力を込めて言う。


「本当に貴方はなにを考えているのか……」

「はい?」

 

 ルナ様は頭痛でもするのか、片手で頭を押さえては俺を睨んできた。


「フィーベル家の長女や貴族二人に命令を出して、かつ圧倒的力でレッドドラゴンを倒した貴方は、相変わらず最下位クラス……変だとは思いませんか?」

 

 彼女に大声で言われた俺は若干驚きつつも同じ口調で話す。


「俺は入学試験の時に最下位という判定を受けました。なので別に可笑しいことではないと思いますが」

「確か、貴方は実技試験においては満点を、筆記試験においては0点をもらいましたよね?」

「まあ、そうですね」

「手抜いてません?」

「真面目に受けたつもりですが」


 あの時は前世での知識を活かして試験を受けた。でも、この世界の文明レベルは日本の中学校くらい。当然、俺の脳内にある難しい概念は理解されるはずもなく学園の職員にめちゃくちゃ叩かれてしまった。


 リナが受験した時は、元塾講師としての実力を存分に発揮して、ここセントラル魔法学園にいい成績で受かるような指導をしてきた。


 やっぱり、俺もリナの時と同じスタンスで行くべきだったのだろうか。


「貴方は私と同じ最上位クラスにいるべきだと思いますが」


 彼女が疑り深く目を細めて探りを入れてきた。


 だが、


「繰り返しになりますが、俺は由緒正しいセントラル魔法学園の公正な判断基準によって最下位という評価をいただきました。最上位クラスなど、俺なんかが入っていいところではないと思いますが」


「貴方……今セントラル魔法学園と私を馬鹿にしているのね!!」


 俺の返事が気に入らなかったのか、ルナ様は机を叩いて立ち上がる。


「いや、別に馬鹿にしてなどいませんけど……」

「そもそも貴方はなんでこの学園に入学したんですか?何か目的があるから入ったんでしょ!?何でパーティーを組んで一位を目指すの?」

「ま、まあ、もちろん理由はあるんですが」


 俺がこの学園に入った理由は二つある。




 リナの学費を解決するため


 ファイブスターが最も優秀なパーティーとして認められ、魔法が使える平民でも貴族になれるきっかけを作るため




 いずれも彼女に言う必要はない。


 俺の後ろにはケルツ様がいる。


 そして目の前の彼女はここハルケギニア王国の行政と司法に多大な影響を及ぼしているレノックス公爵家の長女だ。


 薮を突いて蛇を出すような愚かな真似はするべきではない。


「それは秘密です」


 うん。

 

 我ながら完璧な答えだ。


 これできっと引き下がってくれるはず。


 じゃないど、適当にはぐらかしてここを出れば済む話だ。

  

 俺がドヤ顔をしていると、





 ルナ様は俺を指差して







「やっぱり、貴方は要注意人物です!これから貴方の監視を行います!」



「え?か、監視?」



「はい。生徒会長の権限なので、貴方に拒否権はありません」


「……」



 ルナ様は銀色の髪を揺らし、エメラルド色の目で俺を睨んでいる。頬は薄い朱に染まり、興奮したように息を荒げた。


 おかげ様で、リナよりは少し小さいが、それでも巨大ともいうべき乳房が揺れ出して、いい匂いが俺の鼻腔を通り抜ける。




 これを藪蛇というのだろうか。


 


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