第21話 嘲りと無視の代価
ギースという男がレッドドラゴンに飲み込まれたということで3人だけでなく、周りにいる他のパーティーメンバー達もパニックに陥った。
しかし翼竜達は暇を与えまいと他のパーティーの人々に攻撃をかけ続けた。
呆然と立ち尽くす3人。
もしこのパーティーの連中が最初からちゃんとしたプランを立てていればレッドドラゴンと渡り合えただろうに。
俺がため息をついていると、レッドドラゴンは
落ち込んでいる3人に牙を立て、徐々に近寄る。
獲物を狙う蛇のように賢く、人間の味を追い求めるその獰猛さを隠しつつ音を立てずに接近するレッドドラゴンは
つい3人に襲いかかる。
が
レッドドラゴンの巨大な爪と鋭い剣のぶつかる音が聞こえる。
エレナ様である。
「そんなに死を急ぎたいのか!?この無能どもが!!」
目力を込めたエレナ様が戦意を失った3人を非難した。
「お前らは邪魔でしかない」
そう言い、レッドドラゴンの足を剣で突き刺した。
「グアアア!!!」
痛みを感じるレッドドラゴンの叫びが轟き、その音波は鼓膜をも破壊するほど大きい。
エレナ様は少しレッドドラゴンと距離を取っては。
「ついて来い!貴様の相手はこの私だ!」
エレナ様の煽り文句にレッドドラゴンは発狂して、血を流しながら彼女に向かって殺す勢いで火を放った。
しかしエレナ様は剣を振って風を起こし、火柱を斬る。その姿があまりにも非現実的だったから俺はつい見入ってしまった。
それからレッドドラゴンとエレナ様の本格的な戦いが始まる。
爪と鉄がぶつかる音、ダイアモンドを混ぜたような赤い鱗。そしてマグマを彷彿させる炎。
対してエレナ様はいたって冷静である。
魔法を必要最低限に抑えて、巨大なレッドドラゴンが体力を使うように誘導するその体の動きはまさしく百戦錬磨の英雄である。
しかし、防具をつけているにも関わらず女であることを主張する二つの巨中な塊は自然と視線を惹きつけた。
あんなでかいもの二つもつけてよくもあんな動きができるものだ。もし、彼女が男に生まれるとして、俺と勝負したら俺が負けたかもしれない。
レッドドラゴンとエレナ様の戦いは5分、10分と続く。
「グエエ……」
やがて息を切らし始めるレッドドラゴン。エレナ様が俺に目配せする。なので俺はふむと頷き、レッドドラゴンの近くにいる3人と他のパーティーメンバーに向かって大声で叫ぶ。
「みんな!直ちに戦いをやめ、俺のいるとこに集まってください!俺がやつを仕留めます。でも、俺の攻撃魔法はとても強力で、もし、レッドドラゴンの近くにいれば被害に遭います。ですのでここにきてください!ここは安全だから!」
俺の声はこだまして全員の耳に届いた。
しかし、
「「あははははは!!!!」」
返ってきたのは嘲りと無視だった。
「エレナ様と互角に戦ってるレッドドラゴンを平民が倒すんだと!?ふざけんな!」
「強力ですって!あはは!どれだけ強力なのか見てみようじゃありませんの!」
「愚かな平民だな!自ら進んで進んでレッドドラゴンの餌になるなんて」
「ベルンに勝ったからいい気になってるみたいだが、そいつは俺たちからしてみれば、弱いやつだよ」
「「あははは!!」」
俺は頭を抱えながら、ギースが所属しているパーティーメンバーに視線を向けた。
すると、
レベル5と思しき男が顔を歪ませ
「つけあがるんじゃない!!平民!!お前の言葉が、我々貴族のプライドに傷をつけていることに気がつかないのか!?」
「……」
俺はガッカリしながら俯いた。
ジェフ様が俺に耳打ちする。
「カナト、全力でやれ」
「……今すぐ上に1.5メートルほど穴の開いた防御膜の魔法をレッドドラゴンにかけてください。ジェフ様」
「ああ、任せとけ。あと、このクエストが終われば僕の家に遊びに来るがいいさ。君をもてなすよ」
ジェフ様は既に貼ってある防御膜を無くし、ワンドをレッドドラゴンに向ける。
「最大出力!!」
「強化魔法最大!!」
ジェフ様とミア様はありったけの魔力を込めてレッドドラゴンを閉じ込めるだけの魔法膜を張る。
エレナ様は既に俺の隣にきており、戸惑うレッドドラゴンの様子を無言のまま見つめる。
「コンクリート……」
俺がそう唱えると、実に分厚いコンクリートが俺たちの前に落ちた。真ん中に小さな四角い穴が空いているため、前をみることができるコンクリートである。
それから、
「バンカーバスター……」
と唱えると、上空からものすごい大きさのミサイルのようなものが現れ、レッドドラゴンに向かって猛烈なスピードで落ち始める。
レッドドラゴンはまだ自分の置かれた状況を理解しておらず、防御膜を叩いたり、火を噴きながら防御膜を溶かそうとするも
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「っ!」
レッドドラゴンは一瞬上を向いたが
時すでに遅し
巨大なバンカーバスターはレッドドラゴンの硬い鱗を突き破り
内部から大きな爆発を起こした。
悲鳴をあげる間もなくレッドドラゴンの肉と血が散り散りになり、ジェフ様の防御膜を突き破った。
幸い、周りにいる人たちに飛んだわけではないが
凄まじい衝撃波は彼ら彼女らを襲い、周りにいる貴族らは
全員気を失って、気絶した全員の耳から血が出ている。
目立つのは俺たちのところに転がってくる赤い球状のもの。
その球状のものが割れてその中から見慣れた筋肉マンが現れた。
ギースだ。
彼は皮膚が紫色に変わっており、意識がない。
「お兄様……これは魔力欠乏症」
「ああ。そうみたいだな」
やつはレッドドラゴンから身を守るために自分を鋼で包んだようだ。
ただ単にレッドドラゴンのお腹の中にいる分にはそこまで魔力を消耗しないが、俺のバンカーバスターを防御するために相当な魔力を消費したと思われる。
このままギースを放置したら確実に死ぬだろう。
「リナ」
「はい!お兄様!」
「ここに倒れている人たちの治療を頼んでいいか」
「……お兄様がそれを望むなら私は構いません」
俺はもう一人にも助け要請すべく後ろを振り向く。
「ルナ様、俺たちは至急麝香鹿を探さないといけません。リナをお願いできますか?」
俺のお願いにエレナ様とジェフ様、ミア様がはてなを小首をかしげるが
「いつから気づいたんですか?気配は消したはずですが」
ルナ様が諦めたように岩から現れ、気まずそうに言った。
「結構前からです」
「……」
「ルナ様。お願いできますか」
「あなたという人間は……わかりました。この件に関してはカナトさんに非はありません。もし、この件でここにいる貴族たちがあなたに責任を追求しようものなら、生徒会長の権限でそのものを罰します」
「助かります」
「勘違いしないでください。私はあなたの味方をするわけではありません」
「わかってます」
「……」
制服姿のルナ様はエメラルド色の目で俺を捉え続けている。
悔しさと戸惑いとが混じった顔。
両手で自分のスカートを強く握り込む銀髪美少女のルナ様を尻目に俺は歩き出す。
ジェフ様とミア様は疲れたように地べたに座り俺を見上げた。
なので俺は二人に微笑みをかける。
結局、俺とエレナ様二人きりで麝香鹿を探す事になった。
追記
次話からはラブコメ要素混ぜますのでお楽しみを!
もうちょいで★2000いけそうなので、ご協力頂ければ作者がキチガイのように喜びます
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