第20話 飲み込まれてゆく

 あの筋肉マン男によってレッドドラゴンは巨大な尻尾で地面を叩き、地震を発生させてから飛び上がる。


「なんて揺れだ!倒れる木に気をつけろ!」

 

 エレナ様はそう言って、剣を抜き、倒れてくる巨大な木々や岩などを斬り始める。


「シールド!」


 冷静になったジェフ様が防御膜を張る。


「ジェフ様!お助けします!はああああ!」


 ミア様はジェフ様の防御膜に自分の強化魔法をかけた。すると、防御膜は大きくなり、俺たちを包み込んだ。


 エレナが安堵したようにため息をつくと、真っ青な顔のリナが上を指差して怯えながら言う。


「あれが……レッドドラゴン……」


 妹の声に釣られる形で俺たちは空を向いた。


 すると、赤くて光り続ける鱗に包まれた巨大なレッドドラゴンが口に火を含んだ状態で宙を舞う。


 周りには既に翼竜たちの姿もあちこち見えており、その全てが俺たち、いや、さっき鋼を放った男を睨め付けている。


 あの殺気立った目は、俺がこの間倒したアイアンドラゴンなんかと比べものにならないほど鋭くて、大きさだって比じゃない。


 巨大な羽はゆっくりと動いているように見えるが、その羽から作られた風は木々や草などを根本から倒して行く。


「みんな!動かないでください!今レッドドラゴンを刺激しちゃダメです!」


 俺は4人に叫んだ。

 

 すると、4人は無言で頷いた。




「キウウウウウ!!!!!!」


 咆哮しながら飛んでくるレッドドラゴンは巨大な爪で隣にいる筋肉マンの体を捉え、そのまま逃げて行く。



「な、なに!?この野郎!離せ!!」


「ギース!」

「ギース様!」

「ギース先輩!」


 ギースという筋肉マンがレッドドラゴンに連れ去られたことでパーティーメンバーの3人が大声で彼の名を叫ぶ。そして、彼を助けようと攻撃の姿勢と取った。


 俺はこの3人に自事態の深刻さを教えてやることにした。


「やめてください!やつは既に興奮しています!また攻撃を仕掛けたら、今度は本当に取り返しのつかないことになってしまう!」


 3人(男二人、女一人)は首だけ動かして俺を見つめる。


 そして、



 眉間にたくさんの皺を寄せて






「平民風情が、貴族に命令するんじゃねーぞ!」

「生意気な態度だな。貴族のやることに口を挟むな!非常に不愉快だ!」

「本当、身の程弁えない平民だこと」





 そう言い残して3人は早速レッドドラゴンのいるところへ駆けてゆく。


 俺はコメカミを抑えて深々とため息をついた。

 

 すると、エレナ様が真面目な表情で訊ねてくる。


「カナト。私は……いや、私たちは一体なにをすればいい?」

 

 彼女の問いを聞いたみんなも俺に熱い眼差しを向けてきた。


 確かにこれは想定外のことだ。


 みんな、ある程度レッドドラゴンの習性についての知識は持っているとばかり思っていたが、どうやら違うようだ。


 イレギュラーな事態だからこそできることを必死に考えていたら、ある考えが思いついた。



「レッドドラゴンと戦っている貴族たちを囮として使いましょう」

「囮?」

「はい。レッドドラゴンの体力が少なくなった時に確実に仕留めます。ですので、一つお願いがあります」

「ふむ。言ってくれ」

「レッドドラゴンを倒すためには俺の攻撃魔法が必要です。しかし、レッドドラゴンの周りに人がいると、その人たちは重症を負うことになります。貴族たちは俺の言葉なんか聞こうとしませんから、タイミングを見計らってフィーベル家の長女であられるエレナ様が撤退の命令を出せば……」







「はい?」


 エレナ様はなんの迷いもなく、俺のお願いを断った。


 俺が口を半開きにすると、エレナ様はわけを話してくれた。


「有能な敵より、愚かな味方の方が組織、いや、国を滅ぼす。現にギースという男は自分の力を過信したあまりにレッドドラゴンに攻撃を仕掛けたが、結局恥を晒した。もし、これが戦争だったら、ギースは首をとっくにはねられただろう」

「……」

 

 威厳のあるエレナ様の言葉に、俺は反論ができなかった。


「それじゃ、レッドドラゴンと戦ってください。でも、あくまでレッドドラゴンを疲れさせることが目的ですので、俺が合図したら直ちにこちらに逃げてくれませんか」


「ああ。カナトの言う通りにしよう」


 被害を大きくしたくなかったのだが、俺たちにそんな余裕はない。


「カナト」


 そう考えているとジェフ様が俺の名前を呼んできた。


「はい」

「僕とミアちゃんは何をすれば良い?ここでずっと防御膜を張ればいいかい?」


 二人はドヤ顔で俺の指示を待っている。


 なので、俺は熾烈な攻防戦を繰り広げているレッドドラゴンを指差してお願いする。


「もし、あのレッドドラゴンが疲れて地面に着地するらレッドドラゴンを防御膜で包んでもらえませんか」

「……ミアちゃんの協力があればできなくはないが、ドラゴン自体が大きいからそんなに丈夫なやつは張れない」

「それでも構いません」


 ジェフ様とミア様が頷いていると、今度はリナが話しかけてきた。


「お兄様、私は何をすればいいですか」

 

「リナはこちらにやってくる翼竜たちを攻撃魔法で退治してくれ」

「分かりました!」


 と妹が勢いよく頷くと、怒り狂ったレッドドラゴンの鳴き声が聞こえた。




「キウウウウウ!!!」


「俺はレベル5だ。死にたくなければさっさとギースを離して消え失せろ!」

「あはは!ギース様、この翼竜、私の攻撃魔法一発ですぐ処理できますので、ご安心を!」

「ギース先輩、すぐ助けますから!はああああ!」


 現在レッドドラゴンと戦っているのはあのパーティーメンバーで、周りからは他のパーティーメンバーたちがレッドドラゴンが呼んだと思われる翼竜たちの狩りをやっている。


 俺はそんな彼ら彼女らの戦いっぷりを見て深々とため息をついた。

 

 エレナ様はそんな俺の気持ちを察したように、物憂げな表情を浮かべる。


 確かにここにいる人たちの魔力は実に強力だ。


 だが、


 レッドドラゴンの特性や行動パターンも、パーティーメンバー同士の連携もろくに取れてない現状を見ると、


 この先にくる展開は


 目に見える。





「キャオオオオオ!!!」


 

 3人と激戦を繰り広げるレッドドラゴンはそのまま



 自分の足の爪によって固定されたギースという筋肉マンを




 燃え盛る口の中に入れた。






「ギース!!」

「ギース様!!」

「ギース先輩!!」

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