第19話 始め

生徒会室


「本当に参加するつもりですか。あなた方のパティーはまだ結成してまもないですよ」

「構わない」


 ルナ様が心配そうに俺たちを見て問うがエレナ様は自信に満ちた顔で答える。そんな彼女を見たルナ様は納得いかない顔で続ける。


「普通のモンスターだったら別に構いませんが、相手はレッドドラゴンです。下手をしたら命を失う可能性もあります」


 ルナ様は目を細めて俺たちに忠告した。


 すると、ジェフ様とミア様が足を震えさせる。


 妹は俺の袖を掴んで心配そうに見つめてきた。


 なので、俺は短くため息をついて返事をする。


「別に問題はないかと思います」


 俺の言葉にファイブスター全員と生徒会役員全員が驚いたように俺に視線を送ってきた。


「おい平民、ベルンを倒していい気になっているみたいだが、レッドドラゴンはベルンみたいなやつが100人かかっても擦り傷すら与えられないぞ!」


 この前、俺がルナ様に見せた態度を見て無礼だと罵った男の生徒会員が眉間に皺を寄せて言う。


 だが、こいつからはベルンみたいなやつが漂わせる雰囲気は感じられない。


「別にいい気になった覚えはありません。レッドドラゴンを倒したら、俺たちのパーティーはいい評価をもらえます。そのためだけに参加しているわけですので」

「……随分余裕のある話し方だな」


 男の生徒会員が顔を顰めてそれ以上の追求はしない。


「カナトさん」

「?」

「あなた方のパーティーはお世辞にもいい組み合わせとは言えません。常識的に考えるならば、高い防御力と強い攻撃力を兼ね備えた者同士で構成されているパーティーこそがこのクエストを受けるに相応しいと思われます」


 この学園、いや、このハルケギニア王国ではRPGゲームや育成ゲームにおける相性や組み合わせという概念が存在しない。


 つまり、エレナ様のような強い人たちで構成されたパーティーこそがいいパーティーだという認識である。


 俺はルナ様に反駁する。


「俺はルナ様の意見には反対ですね」

「なんですって」

「俺たちファイブスターのメンバーならレッドドラゴンを倒せます」


 自分の意見が否定されたことで眦を下げて俺を睨んでくるルナ様。


「貴族ではないあなたはレベルの測定が出来ませんが、それでもあなたにレベル3以上の実力があることは認めます。でも、あなたは最下位クラスです。セントラル魔法学園の生徒を差別するつもりはありませんが、あなたを信頼できる根拠は何一つありません」


 冷たくて論理的な言葉。

  

 彼女の銀色の髪と相まってまるで氷の女王を見ているかのようだ。


 そんな凍りついた生徒会室の静寂を破ったのは



「ルナ、あなたは勘違いをしている」

「はい?」

「カナトの強さは、書類や客観的証拠などで語れるほど単純じゃない」

「……なにをおっしゃるのですか?あなたはフィーベル家の長女です。この王国を支える巨大な柱の一つという自覚はあ…」





「カナトは



「「っ!!!」」



 一瞬、生徒会全員は驚いたように体をひくつかせた。


 エレナ様の顔には嘘偽りなどなく、ただただ真っ直ぐにルナ様を見つめていた。


 その堂々とした姿に不覚にも見惚れてしまった。


 長い金髪を靡かせ、端正な目鼻立ち、そして引き締まった体。女としての恵まれた巨大な乳房がシャツを押しあげており、象牙色の華奢な足を見ると、本当に数多の戦場を駆け抜けてきた戦姫なのか疑ってしまいそうになる。


「いいでしょ。そこまで言うのら止める理由などありません。それではクエストを正式に受理します」


 そう冷たく言い放つルナ様は悔しそうに俺を見つめている。

 

 俺もまたそんなルナ様を


 冷たい表情で見つめた。



X X X


翌日


レッドドラゴンの巣の近く




「いや〜本当にきちゃったね〜レベル2の僕がれれれれレッドドラゴンのいるこの山にね」

「ジェフ様、足が震えてますよ」

「あははは!ミアちゃん!君は一体なにを言っているんだい?僕がビビるわけないじゃないか、ひゃっ!!」


 目の前に現れた蛇を見てジェフ様が俺に抱きついた。


「ちょ、ちょっと!ジェフ様!くっつかないで!」

「だだだだだだって!怖いから!」

「いや、ビビるわけないとか言ったじゃないですか」


 ジェフ様は意外と臆病者なところがあるんだな。

 

 いや、彼はレベル2だから当然と言っちゃ当然か(ちなみにミア様はレベル1)。


「とにかく、レッドドラゴンを倒して、麝香鹿を確保しないといけないんだ。すでに他のパーティーの連中の姿も見えてるぞ」


 エレナ様が悔しそうに言うと、リナが不安そうにつぶやく。


「他のパーティーと言っても数自体は少ないですね」


 すると、ミア様がリナの肩を触り、ぼつりと言う。


「それほど難しいクエストということです。私たち以外のパーティーはおそらく全員レベル4か5かと」

「……そう、ですか」


 妹が切ない面持ちで俺を見つめてきた。


「でも、お兄様はレッドドラゴンと戦ったことありますよね?」

「あ、ああ。とても狡猾ですばしこい奴だったから取り逃してしまったがな」




「「!?」」




 俺が何気なく言った言葉は、どうやら3人の貴族様たちに衝撃を与えたらしい。


「カナト、君はどこまで強いんだい……」


 いまだに俺にくっついた状態のジェフ様がドン引きしたように言う。


 エレナ様は目を細め、頬をピンクに染めてから訊ねてくる。


「カナトが取り逃すほどレッドドラゴンは厄介な相手か」

「そうですね。まず無闇に刺激してはなりません。もし刺激されて興奮でもしたら、丈夫な尻尾で地面を叩き、地震を発生させますから」

「ほうほう。他の特徴は?」

「怒り狂ったレッドドラゴンが咆哮すると他の翼竜モンスターたちが急にやってきて、攻撃してきますね」

「ふむ。本当に厄介だな」


 エレナ様が納得顔でうんうんすると、俺たちの横に他のパーティーメンバーたち(4人)が通り過ぎる。


「おい、俺たち超強いからさっさとやっつけちゃお?」

「そうだな。いくらレッドドラゴンと言っても、レベル5が2人もいるこのつよつよパーティーに勝てるわけがねーだろ!うっはっはっは!」

「王族とお近づきになれる大チャンスだわ!あわよくば王子様と結婚も……うふふ」

「そんじゃ、試しにレベル5であるこの俺がレッドドラゴンの巣に向かって一発喰らわせてやるか〜」


 4人の内、マッスルマン顔負けの男が急に呪文を唱え始める。


「大量の鋼よ、顕現せよ!」


 すると、彼の上から 某聖杯戦争の英雄王が使う宝具のように光るゲートが現れ、そこから数えきれないほどの鋼が出てきた。


 そして、レッドドラゴンがいると思われるところに向けて手を一振りすると、


 その鋼たちはものすごい勢いで飛んで行く。


 俺以外の4人はその光景をぼーっと見つめるだけだった。


 攻撃を終えたマッスルマン顔負けの男は満足げに笑い、口を開く。


「あははは!こんなもんかな」


 と、ふんぞり返る彼を見て同僚たちは笑う。


「おい〜俺が活躍する分、残してくれてもよかっただろ?」

「つまんない」

「さっさと麝香鹿を探すわよ」


 彼ら彼女らは興醒めしたように苦笑いし、歩調を早めた。


 俺はそんなやつらの後ろ姿を見て、







 頭を抱えた。




「お兄様?どうかしましたか?」



「みんな、」



「「?」」










 その瞬間、ものすごい音と共に地面が大きく揺れ出した。



「「っ!!!」」






(一人でカナトたちを後をつけてきた銀髪女の子も戸惑う)






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