第18話 最高の組み合わせと最高の組み合わせ
数日後
昼間
ファイブスターの本拠地
「これでファイブスターの本部にふさわしい内装になったかな」
エレナ様が満足げに呟く。
「そうですね。ソファも円卓テーブルも新調して、前と比べるとまるで別の空間みたいです。エレナ様とジェフ様のおかげですね」
俺は柔らかそうなソファに飛び込んでかわいい熊のぬいぐるみを抱きしめているリナと、隣でリナの頭をなでなでするミア様をみながら返事をした。
俺が金がないので、こんな高級そうな家具などは全部エレナ様とジェフ様が用意してくれた。
ここは日本と違って、パーティー活動においてはこういったものは自前で用意しておかなければならない。
ただでさえ学費高すぎるから学校側が用意してくれても良かろうに。
とまあ、俺たちは綺麗になった会議室(拠点)をみて喜びつつ、円卓テーブルの椅子に座り、買ってきた昼食を楽しんだ。
相変わらず妹は貴族らしくない食べ方だから、ところどころミア様が優しく指摘をしつつ、正しい食べ方を教えてくれた。
毎度のことながらミア様には申し訳ない。だが、ジェフ様が複雑な表情の俺をみて、サムズアップしてくれる。
穏やかな雰囲気の中で食事を終えた俺たちはミア様が入れてくれたお茶を飲みながら和んでいた。
日差しが窓越しに入ってきて、円卓テーブルを照らす。周りには埃の粒子が煌めいていて、あたかも俺たちを微睡へと誘うかのようで、俺たち5人のそれぞれの小さな息遣いが漏れ聞こえる。
すると、
不覚にも俺の頭には一つ疑問が浮かび上がった。
なのでそれを口にする。
「そういえばジェフ様とミア様ってどんな魔法が得意ですか?」
そう。
俺はこの二人についてあまりよく知らない。
ジェフ様はケルツ様が大切にしているアルベルト様の息子で、ミア様はそのケルツ様が当主を務めるフィーベル公爵家に仕えるハンナ様の妹であることくらいかな。
だからこの際、もっと知っておく必要があるだろう。
が、
興味本位で聞いたつもりだが、二人は急に暗い表情になった。
それを隠すようにジェフ様が咳払いをし、口を開く。
「僕は防御魔法が得意だよ。あまり使わないけど」
「え?なんで使わないんですか?」
俺が問うと、彼は俺から目を背けて言う。
「その表情を見ると、わからないみたいだな」
「え?」
「この国ではヒーラーや攻撃魔法を持っているものだけが優遇されるんだ」
「……」
彼の話を聞いて、上位クラスの生徒たちの会話を小耳に挟んでことを思い出した。
『防御魔法ってなんで存在するんだ?』
『防御力って体を鍛えたりいい防具や魔道具を買えば簡単に手に入るもんだよな?だったら、高い防御力を持っていて、なおかつ攻撃魔法がうまい人を目指すべきだろ?』
『あはは!防御魔法がうまいやつってかわいそうだな。最下位クラスにはそんなやついるって聞いたけど』
『あ、防御魔法ついでに、中途半端な強化魔法もマジでいらないんだよな』
『ああ!強化魔法って、ただ単に攻撃魔法使いに媚びる寄生虫でパーティーになんの貢献もしない役立たずだからな!』
『やっぱり目指すは圧倒的に強い攻撃魔法使いだぜ!』
彼らの会話から察するにおそらくミア様も……
「私は、強化魔法が得意です……」
まるで罪人にでもなったかのように、リナに礼儀作法を教えた時の優雅な雰囲気はもうない。
「ジェフ!ミア!気にするなとこの前言っただろ?君たちの価値を決めるのは魔法なんかじゃない!」
エレナ様が円卓テーブルを叩くと、二人は作り笑いを浮かべる。
なるほど。
つまり、二人が最下位クラスにいるのは、それぞれが持つ魔法の特性が原因だというわけだ。
二人とも理論試験の成績自体は上位クラスの人ほどいいと聞く。
謎が解けた瞬間だ。
そして、もう一つの気づきも。
この国の人たちは
魔法というものをなめていやがる。
俺は落ち込んでいる二人に向けて、興奮した様子で言う。
「実に素晴らしい組み合わせです」
「「え?」」
エレナ様とリナ、そしてジェフ様とミア様が同時に聞き返してきた。
なので俺は、なるべく興奮を抑えつつ
「エレナ様は剣をお使いになるから接近戦に長けているし、ジェフ様は防御魔法がうまい。それにリナはヒールが得意で、ミア様は強化魔法でサポートが出来ます。そこへ俺の遠距離攻撃魔法までもが加わると……」
一旦切って、切ない表情を向けてくる二人に俺はまたいう。
「ジェフ様とミア様の能力は絶対必要です」
俺の瞳を穴が開くほど見つめるジェフ様とミア様。
「やれやれ、平民に慰められるなんて。カナト、今日のところは僕の負けだ。でも、次は絶対勝つからね〜」
「え?これ勝負だったんですか?」
いつもの調子を取り戻したジェフ様が急にバレリーナ張に回り始めた。
彼の姿を見て安堵すると
急に校内アナウンスが鳴り響く。
『緊急クエスト!緊急クエスト!王宮からの依頼です。パーティーを組んでいる生徒たちのうち、レベル5ほどの実力を有しているものは直ちに生徒会室までお越しください。繰り返します……』
どうやらチャンスが訪れたようだ。
X X X
ベルンside
ベルン・グレアムの部屋
パーシー家の長男であるハリーが学園を休んで王宮での仕事を済ませ、ベルンの家にやってきた。
「申し訳ございません。ハリー様」
「ううん。君はよくやってくれたよ。むしろ降参しなかったベルン君の意地に感心した」
「あの平民は、いつか必ず俺の手で殺します」
「ベルン」
「はい」
以前よりだいぶ回復したベルンの顔を見て、ハリーは目力を込めて言う。
「僕も積極的に協力してあげる。あの平民、あまりにも無知だから最初は無視しようと思ったけど、気が変わった」
「それは、とても心強いですね。あはは!!」
薄気味悪い笑みを混ぜながら答えたベルン。だが、ハリーの不自然なところに気が付く。
頸あたりの古傷。
「ところでハリー様。いつも気になっていたことなんですけど」
「何?」
「その首にある傷ってなんですか?」
「あ、これ?」
ハリーは自分の手で傷を優しくさすりながら返答する。
「昔、かわいい子猫ちゃんに噛まれてね」
「ほお、それはいけない子ですね。二度と歯向かえないように徹底的に仕込んでやらねば!でもイケメンのハリー様のことですし、用済みですよね」
「ふふ、それがまだなんだよな〜まあ、いずれあの子は死ぬからそれまでにちょっと遊んでやろうかな。僕、強いから」
「婚約者もいらっしゃるのに、いけないじゃありませんか。あはは」
「意地悪なやつだ。君は」
「滅相もございません。いつも女はイケメンに目がなくて、お金と権力を見せると、媚びて何でも許しちゃう単純なペットだとおっしゃるハリー様の腹黒さと比べたら、俺なんか取るに足りない存在です」
「ベルン」
「なんでしょう」
「やっぱりあの平民娘ちゃんは君といた方が幸せかもね」
二人は数秒間
静かに笑いあった。
追記
最高の組み合わせですな
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