第17話 二人の思惑

放課後


特別棟の一室


「見たかい?体育館でのハリーのやつの顔!」

「エレナ様がパーティに加わるとおっしゃった途端、顔を歪めて悔しそうにしてましたね。裏ではあまりいい噂が聞かない腹黒な人なだけに本当に清々しい場面でした」

「あははは!ミア!今日は実にいい日だ。だから特別に僕と踊ること……」

「お断りします」

「ああ……」

 

 ジェフ様とミア様が戯れあっていると、突然エレナ様が叫ぶ。


「納得いかん!どうしてこんなにボロボロなんだ!床も壁も資材も何もかもがボロボロではないか!やっぱりこれはカナトとリナを見下した職員の偏見と独断に基づいた選択に違いない!」

「い、いいですよエレナ様。俺、別にここも悪くないと思うんで」

「いいはずがない!ここは私たちがこれから活動の拠点にする大切な場所だ。私のパパはこの魔法学園にもっとも金を出資している。早速連絡して、あの職員を首に……」

「しなくていいですよ!エレナ様」

 

 俺がエレナ様の怒りを鎮めようと両肩を抑える。


「っ!」


 すると、エレナ様は一瞬びくついて綺麗な青い目で俺を見つめたのち、急に頬を桜色に染めて視線を外す。



「……本当にこんなボロボロなところでいいのか?」


 放課後、早速俺たちはパーティの申請をした。すると、受付の教員が俺とリナを見て鼻で笑い、こんな目立たないところにあるボロボロで広い会議室を割り当ててくれた。


 エレナ様曰く、他のパーティは築浅の煌びやかな建物にあるいいところを与えられるらしい。

 

 ここは魔法学園の創立時に建てられたもので、今や倉庫代わりに使われているとのことだ。なので、この会議室は所々床に傷が入っており、大きな円卓テーブルは湿気をいっぱい含んで一部が腐っていて、黒板にもカビが生えている。


 俺がエレナ様を解放して返事をしようとしたが、リナがとても明るい顔で言う。


「私はここが大好きです!だって、周りに嫌な貴族もいませんし、私たちだけで楽しくやっていける気がします!あと、部室は掃除すれば済む話ですし」


 リナの言葉に3人は目を丸くして少し驚く。


 そして3人の貴族は互いを見つめあい、納得いったように頷く。


「なるほど。そんな考えもあるんだな」


 エレナ様がにこっと笑って返事する。


「リナさん、掃除なら一緒にやりましょう」

「は、はい!ありがとうございます。ミア様」


 ミア様は暖かな笑みを浮かべリナを見て頬を緩ませた。だが、やがてミア様の表情はだんだん暗くなる。


「掃除も大事ですけど、その前にとても大事なことが一つあります」


 ミア様は優雅な動きで人差し指を立てる。


 すると、ジェフ様を除く全員が目を細めて頭を抱えた。


「「パーティ名の変更」」


 俺たちが口を揃えていうと、ジェフ様が言う。


「え?なんで?僕が思いついたウルトラスーパーレジェンドでいいと思わないかい?」




「「却下」」


「……」


 俺たちに全否定されたことでジェフ様はしょんぼりしている。とりあえずパーティ結成のための書類は出したが、名前を決めるのは一週間後という妙なしきたりがあるらしい(大昔、パーティの名前を決めることで大きな争いが発生していたらしい)。


 だからジェフ様が適当に仮のパーティ名(ウルトラスーパーレジェンド)を記入したのである。


「とりあえず新しい名前を考えよう。名前は重要なことだから。いいアイディがある人は躊躇なく言ってくれ」 


 エレナ様が言うと、早速俺を除く3人が手を上げる。


 こんな感じで1時間が過ぎた。


「結局、いい案は出てこなかったですね……ジェフ様、もう書くの辛いです」

「だから僕の考えたウルトラスーパーレジェンドが良いって……」


 俺の家を彷彿とさせるボロボロな会議室で、俺たちは疲労困憊していた。カビが生えた黒板にはパーティの名前候補がぎっしり書かれている。

 

「そういえば、カナトはまだ一言も言ってない気がするけど、どうしたんだ?やっぱり僕の思いついたウルトラ……」

「それはないです」

「……やっぱりカナトも冷たい男だね〜そこに萌えるんだけどな〜あはは〜」


 ジェフ様が急に一人でよがり始める。


「カナトさんのアイディアも聞きたいです」


 ジェフ様を「何やってんだこいつ」みたいな表情で見たのち、ミア様が俺に尋ねた。


 すると、俺は


 ちょっと恥ずかしそうに口を開き


「ファイブスター……はどうですか?」



「「ファイブスター?」」



「えっと、ここには平民もいるし、男爵家、伯爵家、公爵家の方もいらっしゃいます。でも、一人一人に個性があって……それぞれの良さがあって、だから……でもこの世界の価値観とは合わないネーミングセンスだと思うので却下で構いません」


 やっぱり恥ずかしい。


 ファイブスター。つまり、これはみんなが平等であることの表れでもある。いくらこの3人が変わったとはいえ、こんなことは……

 

 俺を軽蔑するのではないだろうか。







 さっきの貴族らみたいに。


 ふと、そんな不安が押し寄せてきた。




「実にカナトらしいネーミングセンスだ」

「奇遇ですね。僕もエレナ様と同じことを考えました」

「私もです」

「え、えっと!私も!」


 4人は俺に微笑んでくれた。


 エレナ様は孤高な存在にして十分強いにもかかわらず更なる上を目指す努力家だ。


 ジェフ様はなかなか濃いキャラではあるが、俺がちゃんとこの学園に慣れるように手伝ってくれている。


 ミア様はリナにいろんなことを教えてくれる実に面倒見のいい人だ。


 そして、リナは言うまでもない。


 4人はドヤ顔を浮かべ


 頷いてくれた。


 それと同時に、俺の心がすごく満たされる感覚を味わった。


 パーティ名が正式に決まるのは一週間後だが、


 俺たち


 いや、


 ファイブスターとしてのライフはすでに始まったのだった。


「えっと……掃除はいつやりますか?」


 妹のツッコミに俺たちはいそいそと掃除を始める。



X X X

  

アルベルト、ケルツside


フィーベル家

二人きりで


「すまない、アルベルト。急に呼び出して」

「ケルツ様!大事なことって一体なんのことですか?今日はとても大事な商談があったのに……」

「まあまあ、そんな落ち込むな」

「あはは〜僕は落ち込んでなどいません。だって、ケルツ様が今回の商談以上の価値のある情報をくれると信じているから」

「ふふ、生意気な奴め。まあ、君の予想は間違ってないけどな」

「どんな内容ですか?」


 ジェフの父アルベルトが真面目な顔で聞くと、ケルツは怒りを募らせながら言う。




「俺の家に潜入したスパイと暗殺者の正体がわかった」


「なっ!」


 ケルツは周囲を見回して盗聴魔法がかかってないかを念入りに確認したのち話す。


「数日間にわたる拷問の末、やっと口を割ってくれた」

「一体誰が送ったんですか?王家?それとも他の国から?」

「どっちも違う」

「じゃ、どこから……」




「パーシー家からだ」




「っ!パーシー家って長男が最近第二王女様と婚約したと言うあのパーシー家で間違いないですか?」

「左様」

「フィーベル家の監視とエレナ様の暗殺……これは

「ああ。でも、奴らは狡猾で、王家との信頼も深い。だからむやみに動いたら返って逆効果だ。今でもパーシー家の人たちは王家の方々に俺のことを悪く言って自分らの基盤を固めているところだ」

「だとしたら何をどうなさるおつもりで?」

「簡単な話だ」

「簡単な話?」


 握り拳を作り、怒りを必死に我慢するケルツから漂う威厳に圧倒されたアルベルトは、視線だけで続きを問う。



「お前が言ったように、パーシー家の長男ハリーと言う男は第二女王様と婚約関係だ。正直、第二王女様はとても純粋で良い方だ。ハリーのやつには勿体無すぎる女性とも言えよう」


「確か、あのハリーという男って、以前エレナ様の美しさに惚れていた時期がありましたね」


「ああ。でも、あいつは一線を越えようとして、俺の娘から一生消えない傷を負ってしまった」

「一方的に付き纏われただけでしたよね〜」

「娘は自分より強い男でないと異性として認識しないからな」

「ふふ、それであの男と王女様がどうしたんですか〜?」

「ふむ、第二女王様は俺が運営する商会で取り扱う最上級のレア麝香が入った香水しか使わないことを知っているか?」

「は、はあ。以前ケルツ様が教えてくださいましたよね。他の香水を使えば、アレルギー反応が出るから」





「そこでお前に頼みがある」

「頼み?」

「お前が指揮をとってレアジャコウジカを全部捕まえてレッドドラゴンの巣の近くに隠してくれ。莫大なお金を投入し、お前が無事に仕事ができるよう全力でサポートする」

「れ、レッドドラゴン!?レベル5の強さをもつものが連携して取り組まないと倒せないあの強力なドラゴン……まあ、最上級の魔道具を使えば移動させること事態は可能ですが、そんなことをしたら香水の製造ができなくなって王女様はお怒りになるのでは!?」

「大丈夫。セントラル魔法学園のパーティメンバーにクエストを出させて、カナト君が見つければ済む話だ」




「あは〜なるほど。要するに、カナトの強さを王家の人たちに見せつけて大波乱を起こす。あわよくば、もありですね」



「理解が早いなアルベルト。まあ、成功させるには、色んな準備がいるんだが、お俺はカナトに賭けてみようと思っているんだ」


「ふふ、僕も積極的に協力させて頂きます。でも、婚約破棄だけで事足りますか?」


「あくまでこれは序の口だ。パーシー家は魔法が使える平民が貴族になれない仕組みを王家を利用して確立させた存在だ。きっかけが必要だったんだ。だからむしろありがたい。パーシー家を理由を自ら俺に与えてくれたから」


「捕まったスパイたちはどうするんですか?」


「俺の駒として再利用してもらうぞ。そのための準備はすでに整った」


「さすがケルツ様。僕はただただ感嘆します」


「でも、主役はあの5人だから。俺たちは陰で一生懸命支えればいい」


「はい。最善を尽くします」



 ケルツとアルベルトは口角を吊り上げて笑い合った。


 魔法が使える平民を貴族にしたいケルツ。

 

 そして、ずっと上流貴族社会から無視されてきたアルベルト。


 二人の思惑は、


 完全に一致した。



 


追記




やっぱり婚約破棄は大事







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