第16話 嘲弄とパーティ

 ハリーの挑発的な言葉によって体育館の雰囲気が徐々に変わり始める。


「そうだ……あの平民は貴族に向かってひどいことをしたぞ!」

「普通に考えるならば首が飛ぶような案件だ!」

「風紀委員長であるベルン先輩にひどいことをして、何呑気にここにきてんだよ!」


 ハリーの意見に追随するように主に男子貴族たちが俺に罵声を浴びせてきた。


「お静かに!」


 突然のとこでルナ様が彼らを阻止しようとするが、むしろ逆効果だった。荒れ始める様子を笑み混じりに見つめるハリーはゆっくりとした足取りで歩き、生徒会役員とルナ様のいる舞台に向かう。実に余裕のある顔だ。


 やがてルナ様の隣にやってくるとまた微笑みながら口を開く。


「ルナちゃん」

「……なんでしょう」

「なぜこの国が平民と貴族の間に壁を作るか教えてやろうか?」

「それは、各々の役割に徹して正しい秩序を作るためではありませんか」

「もちろん、それも当てはまるけど、肝心なことが一つ抜けているよ」

「?」


 ルナ様一同は小首を傾げ視線で続きを問うた。


 すると、これまで穏やかだったハリーの表情が冷たくなり、目を細めて座っている俺を見つめては





が混ざると低い能力を持つ魔法使いしか生まれないから」




 ハリーの言葉を聞いたほとんどの男子は俺を嘲笑うような視線を、女子は苦手なものを見るかのような視線を向けてくる。

 

 彼は遠回りに俺とリナが雑種だと見下した。


 ベルンのやつは短気で非常にわかりやすいが、このハリーという男はとても知能的だ。


 やられっぱなしなのは性に合わないから、どんな言葉で返してやろうかと考えていたら、


 急に目の色の色彩を無くしたリナが立ち上がり、


 ハリーに向けて言葉を発する。






「じゃ、ハリー様の論理が正しければ私のお兄様の足元にも及ばないベルンという理解でよろしいですか?」




「「!!!」」



 一瞬、体育館でどよめきが起こった。


「ちょ、ちょっと!二人とも落ち着きなさい!」


 ルナ様が止めるも、ハリーは続ける。


「あら、かわいい子猫ちゃん。だめだよ。ベルンは僕のパーティに所属している大切な後輩兼仲間だからね。平民なのにそんな生意気な態度ばかり取ると、いつか

 

 血がのぼる。


 俺は我慢ができなかった。





「もし、リナに悪いことをしようとしたら、俺はあなたを許しません。あなただけでなく、あなたが持っているを破壊しますから」


 俺は握り拳を作り、ハリーに向かって言い放った。


 すると、体育館にまたどよめきが走る。

 

 みんな目を大きく開けて呆気に取られていた。

 

 当然だろう。


 今俺は、公爵家の長男の逆鱗に触れるようなことを言っているのだ。


 俺のそばにいるジェフ様とミア様が深刻そうに俺を見つめているが、別に前言撤回する気はさらさらない。


「平民、なかなか面白いことを言うんだね。一つ聞いていい?」

「なんでしょうか」

「なぜこの学園に入学したんだ?」

「パーティを組んで、最もいい成績を出すためです」

「パーティ?最もいい成績?ぷっ!あははは!!」



「「あははははは!!!!!!」」


 俺の言葉を聞いて、ハリーと周りが破顔一笑である。


「パーティ組んで最もいい成績だってよ!」

「この学園舐めてんのかよ。一位のパーティメンバーには国王陛下からの勲章をいただけるだけでなく、陞爵しょうしゃくするための功績にもなるから、みんな死に物狂いで頑張っているのによ!」

「平民二人でいくら努力しても無駄に決まってんだろ?」

「あの男の平民って確か最下位クラスだよな?」

「頭悪そうだし、クエストをクリアする途中、死んじゃうんじゃないの?」

「平民と組んでくれそうな貴族っているわけねーしな」



「あはははははは!!!!!」



 嘲りが飛び交う体育館。


 みんながこれが笑われるような事なのか。

 

 俺が悔しそうにみんなを見回すと、




「僕はカナトと組むんだけど?」

「私もです」



 いつしかジェフ様とミア様が俺にくっついて、周りを見ながら笑っていた。しかし、ジェフ様の足元は微かに震えている。そんなジェフ様の気持ちを察したように、ミア様がジェフ様の手をぎゅっと握っていた。


「あははは!!!平民と組む僕、格好いい〜」

「はい!ジェフ様は格好いいです!」


 ジェフ様は誤魔化そうとふんぞり返り、殊更に大仰に振る舞う。


 そして、

 

 リナが俺の方へとかけてきては、腕に抱きついた。


 彼女の巨大なマシュマロが当たるが、この柔らかさが逆に俺に安らぎを与える。


「ほお、確か君はグレアム伯爵家の長男・ジェフ君だっけ」


 ハリーが冷めた表情でジェフ様を睨んでくる。


「あはは!覚えてくださっていたんですね、これはこれは恐悦至極に存じます」


 ジェフ様は頭を下げ、貴族の挨拶をする。


「ああ、知ってるよ。貴族としてのプライドなんかとっくに捨てて、金儲けにしか興味を示さないコウモリのような貴族であることをな」

「人聞が悪いですね。合理的な考えに基づいて行動するのが僕の家のモットですので」

「後悔するよ。ただでさえ上流貴族社会で認められてない君の家に泥を塗りつけることになるからね」

「言ったじゃありませんか。合理的な考えに基づいて行動するのが僕の家のモットですって」




「ぷっ!あはははははははは!!!!!!面白い!実に面白い。一年生の平民と最下位クラスのごろつきやろうどもがいくら頑張ったって、結果は見え見えだ!つまりさ……」


 ハリーは急に静かになり、また生ごみを見るように俺たちを見つめては




「あまりにも愚かすぎて僕が直接手を下すまでもない。お前らはいずれ自滅することになるからな!!!ははははは!!!」




「「ははははは!!」」




 またハリーの笑いに合わせて体育館にいる生徒たちが笑う。


 軽蔑、侮蔑、侮辱のよう感情が込められているように思える彼ら彼女らの笑い。


 それらを掻き分けて一人の美少女が姿を現した。


 金髪を靡かせ、深海より深い青い瞳には一点の曇りもなく、リナに負けず劣らずの巨乳と引き締まった体は異彩を放っている。そして、腰には自分の分身のような剣が一つ。


 その美少女は俺たちのところへとやってきた。


 そしてターンと踵を返し、ハリーに向けて言う。



「ハリー先輩、私ものパーティに入ります」



「「っ!!」」



 エレナ様の言葉はここにいる全員の耳に届いたらしく、みんなは目を見開き口をポカンと開けている。


 


 ルナ様は戸惑いを覚えつつ、ハリーと俺たちを交互に見つめていた。



 俺が緊張しながらハリーを睨んでいると、ふと誰かが震える声で呟いた。




「王族とのつながりがかなり深いハリー様のパーシー公爵家と、いつも中立を保ちここハルケギニア王国の行政と司法に多大な影響を及ぼしているルナ様のレノックス公爵家、そして常識に囚われないやり方で莫大な富を築き、幾つもの戦争に参加し領土拡大に貢献したエレナ様のフィーベル公爵家……一体どうなるんだよこれは……」



「え、エレナ……一体これは……」

 



 ハリーは




 これまでずっと余裕をかましマウントを取って上から目線だったハリーは



 今、




 身震いしながら必死に怒りを隠している。


 イケメン顔が台無しだな。

 

 ここまで人が変わるなんて




追記



ご指摘いただいた誤字は全部直した!(ありがとうございます!)


★と♡くれると作者が大いに喜びます。



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