第15話 校則変更と貴族の反応
ベルン・グレアムの邸宅
「クッソ……この俺が……あの貧乏な平民なんかに」
全身に包帯を巻いてベッドに横たわっているベルン。
「平民の分際で!クッソ!!!あっ!!」
あの事件から数日がたつが、カナトによって最低でも二週間は休まないといけない負傷を負ってしまったベルンは横になった状態で暴れるが、まだ癒えてない傷が神経を刺激する。
「痛い!!いたああああ!!!」
肋骨の骨折、臓器の損傷など、結構ひどい傷を負ってしまったが、彼は気味の悪い笑みを浮かべる。
「貴族に楯突くなんて、お前は蜂の巣を突いたぞあははは!!っ!いたああ!」
X X X
ボロすぎる家の浴場
「お兄様」
「うん?」
「本当に私なんかがパーティに加わってもいいですか?」
「もちろん」
「……」
「リナがいてくれないと誰がヒーリングをかけてくれるんだ?」
「でも、私はエレナ様とお兄様に比べたらとても弱い存在です。きっと足手纏いに」
「いや、入学実技試験で学園所属の騎士を簡単に打ちのめして、一年生の中で最も強いと言われているのに何言ってるんだいおい」
「んもう!それだとまるで私が男まさりの化け物みたいじゃないですか!一応……女の子ですよ」
「リナ……」
そう言って、ぶんむくれたリナは俺に体を寄せた。
濡れた柔らかい髪、紅潮した頬、可愛い顔、そしてこの世のものとは思えない真っ白な巨大な二つの果実とバランスのいい体。
俺の妹はエレナ様やルナ様のように品がある感じの女の子じゃない。
どっちかというと、日本で言うアイドルのような感じだ。
不器用だけど、とても明るくて助けてやりたくなる我が妹。
ベルンの言葉を思い出すのはとても嫌だが、彼はリナを今まで見てきた平民の中で最も綺麗だと讃えた。
本当に血さえ繋がってなければやばかったかもな。
まあ、とにかく今日はリナを慰めてあげよう。
リナがセントラル学園でどれほど精神的なストレスを受けているのかよくわかったから。
俺は裸状態のリナの肩を優しく抱いた。
「お兄様……」
妹は力を抜いて、ふう〜と長く息をついて俺に体を委ねる。
信頼によって成り立つこの行為。
リナは目を瞑って気持ちよさそうに微笑んでいる。
妹が癒やされる瞬間だ。
そんな彼女に俺はちょっと申し訳なさそうに口を開く。
「リナ」
「はい」
「俺、頑張る」
「……正直私は貴族なんかに興味はありませんけど、お兄様を侮辱する貴族は殺しても構わないと思います。なので、ケルツ様とアルベルト様の提案は魅力的です。私もお兄様を全力で助けますから。お兄様は貴族に無視されるような人ではありません」
と言って、リナはさらに俺に体をくっつけてきた。
X X X
セントラル魔法学園
「あははは!!!カナト〜君をずっと待っていたんだよ〜」
「心配してました。大丈夫ですか?」
俺がクラスに入るなり、金髪爽やかイケメン・ジェフ様と彼に仕える紫色の髪をした美少女ミア様がタタタっと小走りに走ってやってくる。
他の生徒たちは俺を見てコソコソしていた。
この前みたいな敵意に満ちた言葉は聞こえず、どっちかというと、彼ら彼女らは混乱しているらしい。
まあ、あんな事があったから無理もない。
俺がジェフ様とミア様に笑顔で頷くと、ジェフ様が俺に耳打ちする。
「パーティの件、放課後に届出を出そうと思っているんだ」
「は、はい」
ジェフ様は俺から離れて周りを見回した。
するとクスッと笑っては
「さあ、特別休暇が終わったことへのお祝いとして僕と一曲おど……」
『生徒会から校内にいる生徒たちにお知らせします。もうすぐ校則の変更に伴う説明会が開かれますので、体育館へお集まりください』
「ん?説明会?」
俺がなんぞやと視線でジェフ様とミア様に問うと二人は俺に手を差し伸べる。
「行こうかね」
「行きましょう」
X X X
体育館
「校則が変わるのっていつぶりだろう」
「やっぱり、あの平民の件だよね」
「ベルン様、決闘試合以来、ずっと学校きてないから」
「噂によると風紀委員長を辞めるんだってよ」
「まあ、平民にあんなことされたからね〜」
俺たちが椅子に座って10数分ほど経つと、生徒会メンバーが舞台に上がる。すると、騒然としていた体育館はシーンと静まり返る。
日本だったら静かになるまでXX秒かかりましたみたいなことを言うほど喋るのをやめなかっただろう。
だが、真ん中に立っているルナ様が漂わせる美しくて知的なオーラは体育館にいるみんなを圧倒した。
「本日はこのようにお集まりいただきありがとうございます」
彼女の透き通った声がみんなの耳に入る。
「本来であれば、校則の変更は各々のクラスを受け持つ担任に伝えて周知させますが、今回の例外です。なぜなのかは知っているはずでしょう」
『……』
「では早速変更された校則をお伝えします」
ルナ様はそう言って目をつぶり、手を上げて上に向かって魔法をかけた。
すると、舞台の上に大きな光の文字が現れた。
ーーーー
セントラル魔法学園校則
変更前
第1編『総則』
第二章『生徒との関係』
第一条
セントラル魔法学園に在籍する生徒は国籍、『爵位』、レベル、性別関係なく平等でありお互い切磋琢磨し、自らの魔法や学問の知識の向上に向けて邁進しなければならない。
変更後
第1編『総則』
第二章『生徒との関係』
第一条
セントラル魔法学園に在籍する生徒は国籍、『身分』、レベル、性別関係なく平等でありお互い切磋琢磨し、自らの魔法や学問の知識の向上に向けて邁進しなければならない。
ーーーー
「爵位が身分に変わっているぞ!」
「な、なに!?」
「こんなの、あり得ない……」
「馬鹿な……」
体育館にどよめきが走る。
爵位は貴族を包含するが、身分は平民や奴隷までも含む単語だ。
つまり、魔法が使える平民を毛嫌いする貴族たちにとってあまり美味しくない話である。
だが、誰もルナ様に反論ができずにいた。
小声で不平不満を言うだけだ。
ルナ様は暗い顔の生徒たちを見て強圧的な態度で口を開いた。
「校則はセントラル魔法学園をよりよくするための仕組み。カナトさんがベルンさんより強いことは決闘試合によって既に証明されました。より強いものは評価され、より優れたものはそれ相応の待遇を受ける。セントラル魔法学園の創立理念です。しかし、平民は例外だなんて。ここには他国から来た優秀な生徒もたくさんいます。その生徒たちがこんな矛盾を目の当たりにして一体何を思うのでしょう」
彼女の言葉を聞いた生徒たちは、悔しそうに唇を噛み締める。
自分の行動を反省する悔しさではなく、平民と自分達が同じ扱いを受けることへの悔しさ。
そこへルナ様が追い討ちをかける。
「公正という価値観を重んじるセントラル魔法学園に泥を塗りつけるようなことがあれば、私は許しません」
これは、俺を庇うための言葉では決してない。
あくまで、セントラル魔法学園を思っての言葉だ。
何事においても生徒会長としての役目を果たし、自分の信念を貫く。
とても立派な人だ。
この前、こんなことやっても無駄とか彼女に言ってたが、気が咎める。
俺がぼーっとなってルナ様を見つめていたら、
彼女もまた
俺をみていた。
その視線は非常に冷たく感情を感じさせない鋭さがある。
しかし
「あはははははは!!!!」
誰かが大声で笑う。
なんぞとみんな視線を声がした方へ向けると、
「ルナちゃん!やっぱり君は素晴らしい。その強い意志も知的で美しい美貌もまさしく生徒会長にふさわしい器だ」
灰色の髪をした男がそう言って立ち上がる。
「ハリー様だ!」
「レベル5であの有名なパーシー公爵家の長男だろ!?」
「確か、第2王女様と婚姻関係だよな?」
「きゃああ!格好いい!」
「男の俺がみても美男子だ。うう……悔しい!天は二物を与えないとか言ってるけえど嘘だろ」
周りが騒然とする中、ルナ様は戸惑っている様子を浮かべる。
すると、ハリー様が優しい表情で、諭すように言い始める。
「でも、そんなルナちゃんだからこそ間違いを指摘してやらないとな」
「え?ハリー先輩、それは一体……」
「僕はこの変更案に反対かな。だって、虫ケラにダイアモンドの指輪をプレゼントしても、何の意味もないでしょ?」
と、ハリーのやつは俺の方に視線を向けてきた。
まるで生ゴミでも見るかのような表情。
灰色の髪をしていて、イケメンで背は俺と似たりよったりだが、
彼の漂わせる雰囲気を察知した俺は思うのだ。
この男は只者ではないと。
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