第14話 彼らの提案

「ななな、なんて味だあああ!!こんなに美味しい鶏肉の料理が世の中に存在するなんて……しかもこの猪肉入りのスープも凄い……これをカナト君が作ったのかい?」

「は、はい」

「食後、このアルベルトが君を思いっきり抱きしめてあげよう!」

「いいえ……結構です」


 ジェフ様の父であるアルベルト様が唐揚げ定食を食べた後、感嘆したように目を光らせ俺を褒めちぎってくれた。


 エレナ様の父であるケルツ様とそのメイドであるハンナ様に至ってはすでに涙を流して俺の作った唐揚げ定食を堪能中である。


 ジェフ様の父アルベルト様が頬を優しくさすりながらケルツ様に言う。


「ケルツ様、これは金になります。王都にこの料理を提供する貴族専用のレストランを開業すればガッポガッポうははなわけですよ〜」

 

 ケルツ様は涙を流しながら返事をした。


「ばっかやろう!そんなことすれば、他のレストランが潰れて妬まれるぞ!お前、ただでさえ評判悪いから」

「あっはは!そうですね!まあ、それほど美味しいってことだよ。カナト君!」


 アルベルト様は俺に向かってガッツポーズを取りサムズアップした。


「とにかく食べましょうか」


 俺は苦笑いを浮かべ食事を再開した。


 ちなみにリナは現在フィーベル家でエレナ様と一緒に鍛錬中で遅れて帰るらしい。


 ケルツ様曰く、自分が普段食べる豪華絢爛たる夕食をリナに与えたとのことだった。


 うん……


 なんかこっちはボロい家でこんな地味な唐揚げ定食しか提供できないことに若干の良心の呵責を覚えるが、まあ、3人とも嬉しそうに食べるからこっちも食が進むものだ。


 公爵様と伯爵様、そして男爵家の子女と平民が同じ食卓を囲い日本の料理を食べている。


 すごくシュールだ。


 結局俺が持ってきたアイアンドラゴンの尻尾肉と大王猪肉は全部なくなってしまった。

 

 リナよ、ごめんよ。


 この3人の食欲がマジでやばい。


「こんなに食べたことは初めてです。あはは!」

「ふむ。カナト君の料理は俺の折り紙付きだから」


 満足げに談話を交わす公爵様と伯爵様。


 皿洗いを済ませたハンナ様が持ってきた最上級のお茶を入れてそれぞれに渡し終えたところで会話が始まる。


「カナト君、俺の娘から話はよく聞いた。君が特別休暇をもらった理由をな」

「僕も愚息から毎日毎日君の話を聞いてる」

「……」


 俺は何も返事ができなかった。


 気に食わない貴族野郎に聞かれたならば何の躊躇いなく俺のしたことを言ってやったはずだが、


 二人とも俺が作ってくれる料理をほど俺を信用してくれる人たちだ。


 俺が毒を入れる可能性もあろうに。


 つまり、ある目的を達成するために俺への信頼を示したのではなかろうか。


 俺が困ったように視線を外すとケルツ様とアルベルト様は互いを見つめあってから俺を見て明るく笑う。


「よくやった!」

「よくやった!」


「はい?」


 斜め上すぎる返事に俺は間抜けた声で返してしまう。 


 すると、ケルツ様がお茶を一口飲んで俺に問うてきた。


「カナト君。お前はこのハルケギニア王国についてどう思うのかね」

「この国のことですか?」


 俺はしばし考えをする。

 

「……正直平民にはあまり優しくない国ではありますね」

「お前の言う通りだ。異様に高い税率、厳しすぎる法律、そして魔法を使えるにもかかわらず貴族になれない理不尽な爵位制度」

「……爵位制度なら一代限りの下級兵士があるんじゃないですか」


 俺は反論すると、アルベルト様が人差し指を動かして返答する。


「カナト君、違うよ。あれは隣国に指摘されてたから仕方なく作っただけの制度だから」

「なるほど。そうですか」


 つまり形ばかりの何の実態もない制度ってことか。


 俺がこの国の暗いところを知ってため息をついていると、ケルツ様が続ける。


「俺は今まで様々な人間に出会ってきた。中にはこんな商魂逞しいアルベルトもいて、ビジネスにおいて非常に助かっていて、俺は莫大な富みを築くことができた。だが……」


 彼は一旦切って寂しい表情をしたのちまた言う。


「100人のうち99人は鼻持ちならないほどの人格の持ち主だった。彼らのほとんどが平民を他の国より見下している」

「そう……ですか」


 俺は平民しかいないど田舎出身だから今まで貴族との接触はあまりなかったが、やっぱりそういうことか。


 ベルンの言動も納得だ。


「特にカナト君のような魔法が使える平民は毛嫌いしていてだな。なぜだかわかるか?」

「なぜですか」




「彼らは怖がっているんだ。自分達が今まで築いてきた既得権益が奪われるかもしれない恐怖に。本来、貴族という制度ができたのは、魔法が使える人とそうじゃない人を区別する動きに起因しているのにな。なんて皮肉な話だ」

「……」


 真顔で俺を見つめるケルツ様。


 すると、アルベルト様が言う。


「一時期は才能のある平民たちは隣国に移民したけど、今は魔法が使える平民は他国への移民が固く禁じられている」

「……」

「腫れ物扱いだけど、それを他の奴らにあげるのは勿体無い」

「ひどい話だ」


 ケルツさんが咳払いが聞こえた。

 

 視線を向けると


「だから俺は考えたのだ。魔法が使える平民にも貴族になれるチャンスを与えようとな。一代限りではなく、俺たちのように。だが……」


 ケルツ様急に暗い表情をしては


「俺はそれをやろうとした。その結果、王家や他の貴族連中に警戒されておる」


 この前、ギルド会館の連中もフィーベル家は王家に警戒されていると言っていた。きっと権力の肥大化による警戒だと思ったが、まさかこんな事情があるとは。

 

 俺が不思議そうにケルツ様を見ていると、アルベルト様が口を開く。


「ケルツ様は努力を惜しまなかった。でも、権力と金にものを言わせて押し付けても、貴族たちは表面上は従うフリをするだけで、心はそのまま」


 すごくわかる。


 人間の嫌なところだ。


 俺が小さく頷いていると、アルベルト様はまた目を細めて口角を吊り上げてから挑発するようにいう。




「だから、が必要だよ。上から圧力をかけるんじゃなくて、下から上へと攻めるのさ」


 彼の言葉は抽象的だ。 


 もちろん俺は全部理解することができたが、ケルツ様がとてもわかりやすく説明してくれる。


「セントラル魔法学園は国内どころか、国外からも優秀な貴族たちが集う場だ。そこで、カナト君が我が娘とジェフとミアとパーティを組んで、最も優秀な成績を出して一位になれば王家と貴族社会にものすごい衝撃を与えることができる。そしたら、魔法が使える平民を無視することはできなくなる。無言のプレッシャーというやつだ」

「……なるほど」


 お茶を飲むことを忘れて俺をじっと見るケルツ様に圧倒されていたら、アルベルト様が俺に質問を投げかける。


「カナト君」

「はい」

「もし、魔法が使える平民が恵まれてない人たちを扇動して、クーデターを起こしてこの王国を乗っ取ったらどうなると思うかい?楽園になると思うかい?」


 まるで俺を試すような口ぶり。


 だがアルベルト様の質問は、俺の前世での人生に当てはめることができる。


 俺が過労死した理由。




 そんな辛い経験があるから俺は自信を持っていうことができる。





「きっと地獄絵図でしょうね」




「カナト君とは長い付き合いになれそうだ。ふふ」


 アルベルト様とケルツ様は安堵したように胸を撫で下ろす。


 ハンナさんはまだ、緊張したように表情が固い。


 ケルツ様が頬を緩めて口を開いた。


「君は我が娘を倒した男だ。好きなだけ暴れるがいい。は俺とアルベルトでやるから」

「……」


 俺は考える。

 

 果たして彼らの提案が俺とリナにとって利があるのか。


『まあ、お前に唯一長所があるとするならば、それはリナの兄と言うことだ。リナは俺といた方が幸せだよ。お前は平民だからお金もないし権力もない。男として一番惨めなんだよ!!クッソ貧乏平民が!リナは俺の

『あははは!!いいぞ!まだ汚されていないリナの純真無垢な心が真っ黒に染まる姿を見るのが楽しみで楽しみでたまらない!』

『クッソが……お前は、一生平民のままだ。俺みたいな貴族にはなれないぞ。あはははっ、ゲホ!』




 こんな奴が100人のうち99人もいるのか。


 俺の他に魔法が使える平民はちょっと気になるんだが



 


「あの、パーティに妹入れていいですか?」


 

 俺がそういうと、




「もおおおおおちろんだよ〜」


「具体的に何をやればいいかは分かりませんが、やらせていただきます」


 俺が真剣な眼差しを向けるとアルベルト様が急に俺の両腕を掴んできた。


「あはは!今日はとても気分がいいね。やっぱり息子が見込んだ男だ!さあ、踊りましょう!」

「ちょ、ちょっと!!」



 アルベルト様がいきなりハイテンションになって猛烈な勢いで踊り出す。


「あ、アルベルト様!!俺、踊れないんですよ!」

「あはは!!あはははは!!!パーティ組むのはいいけど、ジェフと仲良くなりすぎると、ミアちゃんが嫉妬しちゃうよ〜」

「お、俺の話を聞いてくっああ!」


 ダンスの反動で、天井から埃が落ちてきてお茶の中に入りまくりだ。でも、アルベルト様が全く聞くそぶりを見せない。


「あはははは!!あははははははははは!あははっヴェ!!」


 そこへ、ハンナさんのチョップがアルベルト様の頭上にクリティカルヒットする。


 アルベルト様は釣ったばかりの魚のようにバタバタしていた。


「アルベルト様、カナトが困っています」

「うう……ごめん。でも、ハンナちゃんの鋭いチョップ、久しぶりい〜」



「……」


 俺は無言のまま「何やってんだこいつら」みたいな視線を向ける。


「もしこの場に葡萄酒が有れば、誰もアルベルトを止めることはできないだろう」

「おっしゃる通りです」


 ケルツ様とハンナ様が苦笑いを浮かべる。


 ということで早くもパーティメンバーが決まった。


 正直、平民である俺と組んでくれる人っていないとばかり思っていたがな。







追記




敵はクズであればあるほど燃えますね


ベルンがどう出るか


(日間総合2位になりました!全部読者様のお陰です!嬉しいいいいいいいい!!!!!)


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