第12話 衝突

 初登校。そして初の決闘試合。


 どうやら俺の学校生活は前途多難のようだ。


 俺とベルンの会話は周りに漏れていて噂はあっという間に広がり、試合場の観覧席には生徒たちで溢れかえっている。


「転入生の平民がベルン様と戦うんだってよ」

「ベルン様ってあの風紀委員長?」

「土の魔法がうまいことで有名だよな」

「本当に愚かな平民だな」

「リナちゃんはかわいいから男からモテるんだけど、男の平民はね〜」


 みたいな会話が聞こえてきた。


 別に無視されるのは構わない。

 

 だが、


「おい平民。本当に戦う気か?」

「ああ。リナと俺に謝らない限り、お前を倒す」

「伯爵家の次男に向かってタメ口だと?気でも違ったのか?無礼者があ!!」

「ジェフ様から聞いたんだ。お前、妹いるんだってな」

「それがどうしたって言うんだよ!」


 キレ気味のベルンに俺はほぼ無表情で言う。


「俺がもしお前に勝ったら、お前の妹をいただいてもいいか?」


 と、俺の口から放たれた言葉はベルンの耳に入り、彼は一瞬血の気が引いた顔で俺を見つめたのち、


 急に目力を込めて叫ぶ。


「身の程弁えろ!!!!!!!!くそがあああ!!!!!」


 ベルンは怒り狂った様子で審判を睨んできた。すると、その審判は大急ぎで口を開く。


「で、では始め!!」


 審判の声が俺たちの耳に届いた途端ベルンはワンドを持ち出して呪文を唱える。


「大地の精霊よ、この土を肉体とする堅牢なる生命を我に与えよ!ゴーレム!」


 すると、土が蠢き一つの大きいな塊となって巨大なゴーレムとなった。おそらく身長は5メートルほどだ。


「グアアアアア!!」

 

「ゴーレムよ!あの大罪を犯した下賤な平民に裁きの鉄槌を下せ!!」


 ゴーレムは彼の命令を聞いた途端に地面を蹴り上げ、俺の方に突進してきた。

 

「っ!」


 大きさの割にはものすごいスピード。

 

 ゴーレムとは戦ったことはあるけど、人が召喚するゴーレムは初めてだ。


 自由意志による動きと、命令による動き。


 全く違う。

 

 その違いが俺を戸惑わせた。


「あははは!!ドブネズミのように逃げ回っても無駄だああ!」


 彼がワンドを持ち、ゴーレムに魔法をかけた。


 すると、ゴーレムは光を放ち、動きがだんだんはやくなる。


「グアア!!」


 ゴーレムは暴れながら俺を的確に責め続ける。


 固くて大きな拳が地面にぶつかるたびに亀裂が生じ、破片が俺の皮膚を抉る勢いで飛んでくる。


「惨めだな。早速、ベルン様に自分の敗北を認めます〜と言ったら、お前は無傷のまま妹が奪われるだけで済むのにな。あはは!!もっとやれ!ゴーレム!」


「グアアアアア!」


 俺はベルンの気持ち悪い笑い声を聞きながら手ぶら状態でゴーレムの攻撃から逃げ続ける。


 だが、


 いつまでもやられっぱなしと言うわけにはいかない。


 なので俺は拳を上げて、俺を殺す勢いで攻撃してくるゴーレムの拳を打とうとした


 が、


「おい平民、どこ見てんだよ」


 ベルンが俺の至近距離にまで迫ってきては、石でできた大きなナックルで俺の頭を殴ろうとした。


「なっ!」

 

 ものすごいパワーで打たれた俺は30メートルほど飛ばされてしまった。


「……」


 相当なダメージだ。


 幸いなことに手で防御したので直接的に被害を受けたわけではないが、エレナ様との試合と比べたらなかなか新鮮だ。


「ほお、俺の攻撃を受けておいて無事だなんて、どうやらサンドバックとしての役割はちゃんと果たせそうだな。貴族である俺がお前に存在意義を与えてやろう。貴様は俺に殴られるだけのサンドバックになれ」

「……」


 俺が無言のままベルンを睨め付けていると、彼がまた俺を小馬鹿にするように言ってくる。


「哀れなやつだ。このセントラル魔法学園に入学せず下っ端人生を、負け組人生を歩んていれば、このようにみんなの前で恥くをかくこともなかろうに」

「……」

「まあ、お前に唯一長所があるとするならば、それはリナの兄と言うことだ。リナは俺といた方が幸せだよ。お前は平民だからお金もないし権力もない。男として一番惨めなんだよ!!クッソ貧乏平民が!リナは俺の


 俺が握り拳を作り、こいつを確実にヤれるための武器を召喚しようとしたら、



「お兄様!!私はお兄様と一緒にいる時が一番幸せです!!いつも私のために学費を稼いで、美味しい料理を作って、慰めてくれるお兄様が私は大好きです!!!!ちなみにあんな気持ち悪いベルンという男性は大っ嫌いですから!!!」


「リナ……」


 リナの声が俺の心を落ち着かせた。


 なので、俺はやつを殺すための武器を召喚することを忘れて、ベルンを見つめる。


「あははは!!いいぞ!まだ汚されていないリナの純真無垢な心が真っ黒に染まる姿を見るのが楽しみで楽しみでたまらない!あはは……あ、」


 俺はやつに飛び込んでお腹のところにパンチを喰らわせて。


 すると、彼は壁に飛ばされて大きな音とともにばたっと倒れる。


「な、なああにいいこれは……」


 ベルンがうめき声を上げていると、ゴーレムは形を変え、土になってしまう。


 俺はお腹を抑えているベルンのところへ行き、話しかけた。


「降参しろ」

「は、はあ?」

「あのゴーレムには自由意志が存在しない。つまり、お前の操り人形だ。だからお前に直接攻撃して召喚魔法に集中できなくなるほどの物理的ダメージを与えれば、お前とゴーレムは戦闘ができなくなる。それに、お前のスタイルや動きも把握済みだ。だから、

「あ、あはっけほ!けほ!ふざけんな!土の精霊よ……」


 また呪文を唱えるベルン。


 俺は彼の胸ぐらを掴んで地面に叩きつける。



「ヴアッ!」


「降参しろ」


 だが、彼は


「土……精霊……」


 性懲りも無くまた詠唱を唱えたので俺は再び彼の胸ぐらを掴んで


 今度はちょっと力を入れて叩きつけた。


「ハア!!ん……」


 ベルンは顔を歪ませ、血反吐を吐く。


 その姿を見て、周りが騒然となった。


「な、なんで降参しないの?」

「あの平民一体何者?」

「このままだとベルン様死んじゃうよ!」

「平民に負けを認めるのはプライドが許さないんだろ」

「どうなっちゃうの!?」


 俺は彼ら彼女らの反応を無視してまたベルンに話しかける。


「もう一度言う。負けを認めろ。じゃないと取り返しのつかないことになってしまう」


 俺の冷たい言葉を聞いたベルンは


 反省の色を見せるどころか


 血まみれになった自分を顔を拭うことも忘れて



「クッソが……お前は、一生平民のままだ。俺みたいな貴族にはなれないぞ。あはははっ、ゲホ!」


 俺はまたもや彼の胸ぐらをつかんだ。


 そして、今度はちょっと強めに叩きつけようとしたら






 誰かが俺の首に剣を突きつけてくる。

 

「やめなさい。もう十分でしょ」


 サラサラした銀髪、エメラルド色の瞳、整った目鼻立ち。そしてエレナ様やリナほどではないが、結構ある胸。

 

 外見だけならか弱い美少女だが、


 エメラルドのような綺麗な目からは、エレナ様とは一味違う威厳を感じさせる謎の視線が放たれて俺を捉えていた。


 彼女はまたいう。


「この不思議な武器、風紀委員長には使用しなかったですね。なぜですか」

「他の生徒たちが怪我をする恐れがあります」

「ふん〜」


 彼女の剣は首筋を狙っている。


 それと同時に、


 俺が召喚した本物のピストルの銃口も




 彼女を頭を狙っていた。







「せ、生徒会長のルナ様だ!」

「マジかよ……生徒会長が直接止めに入るとは」


 なるほど。


 この人はこの学園で生徒会長をやっているルナという人か。

 

「まずあのベルンという男を解放してください」

「……」


 彼女の言葉に釣られて俺に胸ぐらを捕まえられてるベルンを見ると、


 すでに彼は気絶していた。


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