第11話 決闘試合

 俺はジェフ様とミア様に誘われて食堂へとやってきた。


 最初は転生前の高校時代のようにトイレで食べようと思ったのだが、俺はこの二人の優しさに甘えることにした。


「いや〜今日も本当にいい天気だね。僕の心のような暖かい太陽の光が美しいミアを照らしているぞ〜もちろんカナトもね」


 なんだか俺と踊ってから機嫌が良くなったらしく、彼の足取りは実に軽い。


 それにしても本当に豪華絢爛たる学園だな。


 ゴージャスな中世の教会みたいな建物から出た俺たちを歓迎してくれるのは、大理石や高い石材でできた東屋のような小さな休憩施設に職人が作ったと思われるテーブル。


 そして色とりどりの花は太陽を向いており、使用人らしき人たちが水をやっている。


 やがて食堂にたどりついた俺。


 すると、見慣れた二人が手を振ってきた。


「お兄様!!」


 大声で俺を呼んでいるリナと淑やかな感じで俺たちを見つめるエレナ様。


 俺は安堵のため息をついた。


 俺たち3人は席に座る。


 すると、なぜか周が騒々しいくなる。


「見てみて……平民兄妹がエレナ様たちと食事をとっているよ」

「リナはずっと一人でご飯を食べたのに、私たちも近づくさえ出来ない高貴な方々と一緒……」

「ああいうのはあまり良くないんじゃないの?」

「マジで何者?」

「リナって子、ちょっと胸が大きくて可愛いからって調子乗ってない?」


 リナには主に女子たちが攻撃的な視線を送ってくるし、俺に限ってはほぼ全員が睨みつけてくる。


 こんな状態だと昼飯食べても味しなそう。

 

 俺たちを見下す声はエレナ様の耳にも入ったらしく、彼女が殺気立つ視線をみんなに向けると、シーンと静まり返ったのちそれぞれ食事を再開する。


 俺は気を紛らそうと、適当に話題を振った。


「えっと、ジェフ様はエレナ様と知り合いだったんですね」


 すると、エレナ様が答える。


「ジェフの父は伯爵でありながら常識にとらわれないやり方でいくつもの事業を運営するなかなかの敏腕家だ。私の父も頼りにしている」


 なるほど。


 親も親なら子も子ってわけか。


「でも、こうやって学校で食事を共にするのは初めてですよね。あはは」


 ジェフ様が明るく付け足すと隣のミア様がふむふむと頷く。


 だとしたら、なぜここに集まったんだろう。


 自然とそんな疑問が浮かんできた。


 きっとなんらかの目的があるはず。


 そう勘繰っていたら美味しそうな料理をワゴンに乗せた使用人らしき人がやってきてテーブルに料理を運ぶ。


 見るからに美味しそうな組み合わせだ。


 とりあえず食べるとしよう。

 

 たくさん食べて力をつけることは大事だから。


 俺たちはそれぞれいただきますを言ってから食事を始める。

 

 周りからの視線が気になってあまり気が進進まないが俺はサンドイッチを口に入れると、リナもモグモグとサラダを頬張る。


 するとリナの口元にドレッシングがついた。それをみたミア様が素早くナプキンで妹の口を拭いてくれた。


「リナさん、その食べ方はいけません」

「ふ、ふぇ?」

「料理は逃げません。ゆっくり食べましょう」

「ふぁい。んぐ。ありがとうございます。えっと……」

「ミアです」

「ミア様……」


 男爵家のお嬢様が平民である俺の妹の口を拭いてくれた。


 リナはミア様に憧れの視線を送る。


 これはなかなかシュールな光景。


 エレナ様はというと、ミア様とリナを交互に見ては満足げに頷いて食事を続けた。


「すみません、ミア様。俺が礼儀作法をちゃんと教えるべきでしたが……」

「仕方ないことです。気にしないでください」


 ミア様は優しくリナに微笑みながら答える。


 それから俺たちは食事を済ませティータイムを楽しんだ。


 すると話は自然と本題に入るわけで。


「リナの兄」

「はい」

「知りたいだろ?」


 エレナ様は意味ありげな視線を俺に向けてくる。


「……はい」


「私があなたたちを集めたのは他でもない。この学校ではク……」


 彼女がわけを話そうとしたが急に誰かが割り込んで遮る。


「エレナ様!これは一体どういうことですか!?」


 ブラウン色の髪をした男が、俺を軽蔑するような視線を送ってから眉間に皺を寄せて抗議してくる。


 ブラウン色の髪の男を見たジェフ様は目を細めて冷たい声音で言った。


「ほお、確か君はセントラル魔法学園風紀委員長のベルン・グレアムじゃないのかい?」


 すると、ベルンという男は握り拳を作り、


「ジェフ・エルギン……金儲けにしか興味がなくて貴族としてのプライドのかけらもないあの伯爵家の長男か」


 ベルンという男が煽るような口調でいうと、今度はミア様が立ち上がって冷め切った態度で言う。


「ベルン様。お口を慎んでいただけませんか?ジェフ様とエルギン家の方々はあなたが見下していい相手ではありませんので」

「こんな汚い平民引き連れて食事なんかしているだろ?自分の評判を自ら下げるなんて、実にエルギン家らしい考え方だな。あははは!!」


 ベルンという男は目力を込めて思いっきりジェフ様を煽る。


 それから


「エレナ様。あなたはこの王国においてなくてはならない高貴な存在です。その美しさと強さ、そして聡明さは国内だけでなくあらゆる諸国と異種族さえも知り尽くしております。そんなあなたが、こんな平民なんかと一緒にいるなんて……風紀どころか、学園の基盤を揺るがしかねないことです!」


 コメカミ当たりに血管が浮いていて熱弁を振るうベルンという男が時々送るリナへのが俺を非常に苛立たせた。


 エレナ様はというと目を瞑って何も言わないまま、息を深く吸って吐くのみだ。


 そこへジェフ様が言う


「ベルン、君は一つ勘違いをしている」

「はあ?」

「それはただ単に君が思い込んでいるだけだぜ〜この平民のことを何も知らないで、浅はかな言葉を吐き続けるなんて……グレアム家が成り下がった理由がよーくわかった〜」

「んだと!?弱い平民は我々貴族が支配して、役割を与えてこそ意味を成す生き物なんだよ!まぐれで平民の一年生が一位になったくらいで知ったかぶるんじゃね!」


 と、興奮気味反駁するベルン。


 リナの表情は次第に暗くなり、悔しそうにブルブル体を震わせて顔を俯かせる。


 すると、


 やっとエレナ様が口を開いた。


「確かに大多数の平民は魔法が使えない弱い存在だ。リナも風紀委員長である君には勝てないだろう」

「おっしゃる通りです。聡明で美しいエレナ様らしいお言葉ですね」


 自分の意見が肯定されたことで腕を組んで喜んでいるベルンにエレナ様は表情を変え、



「だが、今君を睨んでいるこのカナトという男は例外だ。君はカナトの足元にも及ばない」

「は、はい?」


 と、間抜けた声を出して俺を見つめるベルン。


「ぷっ!!あはは!!こんな貧乏そうな平民風情に俺が?エレナ様、一体何おっしゃるのですか?」


「君は勝てない」


「っ!!」


 ベルンは半分切れた様子で、俺に近寄ってくる。


「おいお前、風紀委員長でもうじきにレベル4になるはずの俺に勝てるとでも思ってんのか!?あは!?」


 低い声、それにゴミでも見るかのような眼差し。

 

 だが、今はそんなのどうでもいい。


「あの、ベルン様」

「あ?」

「ちょっと謝ってほしいことがありますけど」

「謝る?俺が?」

「はい。だって、」


 一旦切って、俺は興奮を最大限抑えて口を開く。




「俺の妹をエッチな目で見てましたから」


 彼は俺の言葉に口角を吊り上げて


「お前の妹は、確か今まで見てきた平民のなかで最も美しい外見の持ち主だ。だから何?俺は伯爵家の次男だ。むしろ


 俺はベルンを殺す勢いで睨みつけた。


「なんなんだその表情は。平民風情が。決闘試合がしたいか?だったら大歓迎だ。無様に負けたお前が見てる前で、悪くないな」



 俺と彼は放課後に決闘試合をすることにした。



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