第10話 最下位クラスを侮ってはならない

「こちらはカナトくんだ。リナくんの兄と言った方が理解が早いかな?自己紹介をしてくれ」

「あ、えっとカナトです。よろしくお願いします」


 簡単に自己紹介を済ませると、みんながコソコソなにやらしゃべっている。


「平民か」

「舐められたモンだな。この学園も」

「いや、一年生で最も優秀なリナの兄だぞ」

「それでも所詮平民」

「平民風情が」


 やっぱり平民は上流社会で生きるのきつい。


 リナがどれほどのプレッシャーを感じて学園生活を過ごしているのか垣間見えた気がする。


 後でたっぷり甘やかそう。


 いくら最下位クラスでもここに座っている男子女子は全員いいところのお坊ちゃまとお嬢様たちだ。


 そんな既得権益が出来上がっているところに異物が入ったら誰もが排斥しようとするのは世の常だ。


 入学1日にしてやる気が失せたどうも俺です。


 でも、俺が学校をやめたら莫大な学費を稼がなきゃいけなくなる。


 みんなにバレないようにため息をつこうとしたが


 突然爽やかイケメンの金髪男が立ち上がり大声でクラスのみんなに言う。


「カナトはフィーベル家からお墨付きをもらった男だぜ〜そんなに敵視したら、あまりいいこと起きないんじゃないのかい〜」


 ふんぞりかえるように胸を反らす金髪男を見たみんなは目を丸くし、またコソコソ話し始める。


「ま、マジかよ」

「ってことは一年生のリナもフィーベル家と関わりがあるってことか」

「マジで何者?」

「やべ……さっきの話聞こえてないだろ?」


 いや全部聞こえたから。


「カナト君、あそこに空いている席があるから座ってくれ」

「は、はい」


 先生に示されたところに視線を送ると、一番後ろの席が目に入る。そこ目掛けて歩くと、俺の席の前に座っている紫色の髪をした美少女と偶然目があった。

 

「……」


 その人は、俺を見て小さく頭を下げた。


 ん……この紫色の髪はどこかで見覚えがあるけなどな。


 席に座ると、早速授業が始まった。


X X X


 午前の授業が終わった。


 中学レベルだから、正直簡単すぎた。


 今度の試験には転生前の世界の情報を書くんじゃなくて、この世界の常識に則った答えを記入するとしよう。

 

 俺が席から立ち上がると、二人が俺の方へとやってきた。


「カナト、僕は君をずっと待っていたんだぞ〜」

「ジェフ様、初対面の方にその言い方はどうかと」


 さっき俺を庇ってくれたイキイキしている爽やか金髪イケメンと紫色の髪を持つ淑やかな感じの美少女。


 女の子に止められてもジェフ様はびくともしない。

 

 ジェフ様は前のめり気味に身を乗り出して目をキラキラさせた。


 そして俺の手をガッツリ掴んで


「これは運命の出会いだよ。カナト。君に会えて嬉しい」

「……」

「ジェフ様、カナトさんが困っています。まず自己紹介をしたらどうですか」

「ほお。そうだ。僕、あまりにもしちゃって、伯爵家としてあるまじき行動をしてしまった〜」


 ジェフ様はしゅぼぼぼっと勢いよく俺から離れてガッツポーズを取り口を開く。


「僕はジェフ・エルギン。エルギン伯爵家の長男だぜ〜よろしくう!」

「私はミア・クラネルです。男爵家の四女でジェフ様に仕えております」


「は、はい。よ、よろしくお願いします」


 俺は深く頭を下げた。すると二人が手をブンブン振って微笑んでくれる。


 ジェフ様はともかく、ミア様は誰かに似ている気がしてならないが。


「カナトさん?」

「あ、ミア様!すみません!」


 ついじっと見てしまった。


 無礼者だと思われないだろうか。

 

 ハラハラしながら俺が遠慮がちに彼女を見ていると、



「ハンナお姉様は元気ですか?」

「ハンナお姉様?」




「私のお姉様です」




 あ、やっぱり。


 つまりミア様の家族はフィーベル家と関わりがあるということか。


 おそらく、ジェフ様もさっきの俺を庇った時の表情といい、おそらくフィーベル家の人間と知り合いである可能性は高い。


 とりあえず感謝の言葉を伝えておこう。


「ジェフ様」

「ん?」

「さっきはありがとうございました。庇ってくれて」

「おやおや?僕はただ事実を言っただけだぞ?」

「俺、平民なんでそんなお気遣い、すごく助かります」

「ふん〜」


 ジェフ様は口をキリリとひきむすんで俺に近寄ってきた。やがて至近距離にまで迫ってきた彼は急に俺の両手を握って笑顔のまま口を開いた。


「それじゃ、僕とダンスを踊ろうか?」

「え!?だ、ダンス!?」

「ほれ!」


 ジェフ様は俺の両手を引っ張って踊り始める。


 い、いや……何やってんだよこの人。


 全く行動が読めない人だ。


 悪い人ではないが。


 俺が戸惑いながらジェフさんとダンスを踊っていると、周りから笑い声が聞こえる。


「あははは!見てみて!ジェフ様と平民が踊ってるぞ」

「ジェフのやつ、本当に変わり者なんだから」

「あの平民、相当苦労するんだろうな」

「面白い!」


 さっきまで俺を軽蔑するような雰囲気が流れていたのに対し、今はみんな明るい表情で笑いさざめく。


「あははは!あははははは〜」

「ちょ、ちょっとジェフ様!これ、早すぎます」


 だんだん動きが早まるジェフ様についていけず俺が抗議してみるが、彼は聞く耳を持っていない。


「あはははは!あははははは!あははは……ヴェエエ!!!」


 そんなジェフ様の頭に紫色の髪が印象的なミア様のチョップが炸裂した。


 ジェフ様はそのまま倒れて魚のようにビクビクしている。


「カナトさんが困っていますよ」

「お、おお……すまなかった」


 相変わらずビクビクしているジェフさん。


 その瞬間、彼のズボンのポケットから白い彫刻物が落ちてきた。


 俺に似た彫刻物。


 これもまたどこかで見覚えのあるような……


 ま、まさか……


「あ!!僕の宝物が!リナちゃんに金貨10枚払って買った僕の宝物があ!」


  

 あんただったのかよ!



「カナトさん……あの……すみません」

「あはは……ミア様もなかなか苦労なさってますね」

「うう……」


 ミア様は急に涙を流してそれを指で拭う仕草をする。


 最下位クラス。


 侮るなかれ。


(彫刻を頬ですりすりしながら喜ぶシェフ)




追記



次回敵(?)登場するかも

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