第8話 秘密の特訓
「さ、最下位!?」
いきなり最下位クラス宣言されて俺はあっけらかんと聞き返すと教員はイキりながら返事する。
「確かに実技テストでは君は満点を取った。そのことに関しては賞賛に値するだろう。でも、筆記試験どうだ」
「筆記試験?ちゃんと答えを書いたつもりですけど」
「あれが答えだと?」
教員は手でコメカミ抑え、俺を残念ななやつを見るかのように見ては、俺が作成したと思われる答案用紙を持ってきて、
「円周率が3.14159...って一体どういうことだ!?舐めてんのか!?3.15だろ!どうやら君には常識が欠けているようだな」
「い、いや……円周率は無理数だから3.15じゃないんですけど……」
「何馬鹿なことを言っているんだ!?どこで学んだか知らんが、円周率は3.15だ。他の科目も似たような回答ばかりだったから、全部バツだ。だから君には最下位クラスでみっちり勉強してもらうぞ」
「……」
おいマジかよ。
この教員、メガネかけ直して俺のことめっちゃ馬鹿にしてんだけど。
俺、転生前は先端技術溢れる日本で、数千年前から偉大な人たちが発見して築き上げてきた学問を丸ごと吸収してきたんだけど。
それが全部バツだなんて。
まあ無理もない。
この前も言ったようにこの世界の学問レベルは中学ほどのものだから、当然と言っちゃ当然だ。
でも、実際面と向かって言われると、気が滅入るぜ。
「セントラル魔法学園は、実技も大事だが、理論や学問を学ぶことも極めて重要だ。偏った能力を持った生徒は問答無用で最下位クラスだ!!!!」
「……」
「さあああいいいいかああああいいいいいだああああああ!!!!」
この人、他人を見下して喜ぶやつだ。
性格わるー
X X X
フィーベル家
ひどい仕打ちを受けた俺がフィーベル家の屋敷に入った頃にはすでに夜で、妹のリナも訓練のため、俺を待っていた。
いつもボロすぎる家で埃を被りながらリナのために料理を作るのが俺の日課だったけど、まさかこんな立派な大邸宅でリナとエレナ様を指導することになるとは。
そう思いながら紫色の髪をしたメイド・ハンナさんに案内されてケルツ様の執務室へと向かう。
「旦那様、カナト様が学園から帰ってきました」
「入れ」
「かしこまりました」
ハンナさんは気をつけながらドアをゆっくり開けて、俺に目で合図した。
俺は頷き一人で入る。
「ふむ。よくきてくれた。それで、どうだったか?セントラル魔法学園での一日は?」
「そ、それはですね……」
「顔色が悪いな。何があったのか俺に言ってくれ。絶対何かあっただろ?」
ケルツ様は真剣な眼差しを向けてきた。
まるで、俺に何が起きたかを全部知っているかのような顔だ。
さすが公爵様。
敵じゃないことに感謝する。
結局俺はことの顛末をケルツ様に話した。もちろん俺は転生した話はしても信じてくれるはずがないから、筆記試験に関しては俺が自ら発見したものの方が正しいと踏んで書いたら全部バツだったということにした。
数学や科学において偉大なる発見をした転生前の世界の偉人や学者たちよ、ごめんなさい。俺は罪人です。でも仕方ないから……
「なるほど。そういうことがあったか」
「はい」
「カナト君を殺そうとした物分かりの悪い騎士がセントラル魔法学園にいたら、いずれ評判はダダ下がりだ。よし。直ちにその騎士とやらの称号を剥奪し、平民からも蔑まれる存在になるようにしてあげよう」
「い、いや!そこまでしなくていいですよ!」
「ふ、そう言うと思った」
「え?」
ケルツ様は目を細めて、俺を試す口調で言う。
「俺が手を下すほどの相手でもない。カナト君にとってもな」
「……」
やっぱり鋭すぎる。
「カナト君は本当に最下位クラスに所属していいのか。なんならセントラル魔法学園で学問を教える先生たちをかき集めて討論会を開いてやっても全然いいんだが」
「大丈夫です!まあ、最初はちょっとがっかりしましたけど、考えてみれば、最下位ってあまり目立たないし、リナをサポートする意味でもいいかなって思ったので、アリですね」
「君は不思議な男だ」
「俺が?」
急になんの脈略もなく不思議君宣言されて俺は小首をかしげる。
「戦姫とも言われる我が娘に余裕で勝つほどの力を持っているのに、なぜそれを隠す?」
「それはですね……」
いつか言われると思ったが、ちょっと展開が早い気がしなくもない。
ただ単に前世で過労死したから、今回の人生はもっとのんびりしようって決めただけだが。
それを言えるはずもなく
「えっと……俺、あまり出世欲とかありませんし、妹と両親が幸せになればそれで十分ですよ」
と、俺が作り笑いして答えたら、ケルツ様が頬を緩めて、俺の肩に自分の手をそっと乗せて言う。
「もちろん、家族が幸せになることはとても大事だ。でも、一つだけ言って行こう」
「……」
「運命は強い者を放っておかないものだぞ。君と俺が出会ったように」
「いや、俺全然強いと思いませんし、ど素人なので」
「はは、君とはいつか深い話ができそうだ」
ケルツ様は俺の瞳を見つめてふむと満足げに顔を頷ける。
なんで気に入られてんだ……
俺のスローライフはいずこへ。
X X X
フィーベル家の屋敷にある訓練場
「はあ、はあ、お兄しゃま……もう無理」
「私……また負けた……この私が、リナの兄に……っ!」
「今日の訓練はこれで終わりです」
ケルツ様と談話を交わした後、俺は早速妹と貴賓室で夕飯を食べ、エレナ様も入れて二人まとめで指導することにした。その方が時間も節約できるし、リナも自分より強いエレナ様と一緒に指導を受けるわけだから、もっと早く上達できる。
今はリナとエレナ様が完全に戦闘不能状態で息を切らしている。
ちょっとやりすぎたのかと反省しつつ、俺は二人に皮でできた水筒を渡した。
すると、リナが起き上がってうんくうんくと一気飲みしてから、気持ち良さそうに口を開いた。
「ぷはっ!お兄様、そろそろ家に帰りましょう!えっと、アレがありますから」
「あれ?」
俺が視線で問うと、リナが恥ずかしそうにモジモジしながら返答する。
「あれですよあれ。私の強さを維持させる上で絶対必要なあれ」
「強さ……維持……あ、それか。今日はここで適当に別々で良くない?許可は貰ってるから」
「お兄様……なにをおっしゃるのですか?あれは私のメンタルを支える巨大な柱ですよ。一日でもかけたら私、ダメになっちゃうから」
おいなに急にヤンデレ目になってんだよ。
リナよ。目の色紫だからヤンデレになると余計怖くなるからね?
と、俺がやれやれとばかりにため息をついてエレナ様に別れの挨拶をしようとしたら、
急にエレナ様が起き上がって俺に迫ってきた。
やがて至近距離にまで来たエレナ様が青い目を光らせて言う。
「やっぱり秘密は存在していたのか!」
「え?」
「平民であるリナが一年生の中で飛び抜けた才能を発揮できることの裏にはやっぱり秘密の特訓が存在したのな!やはり、私の予想は正しかった!リナの兄!私にもそのアレをしてくれ!」
「ちょ、ちょっと!エレナ様!落ち着いてください!いくらなんでも、アレはダメですよ」
「なんでリナにはできて私にはダメだ?」
「そ、それは……」
「私は強くなるためならなんだってしてみせる。その特訓という名のアレを私にも教えて欲しい」
「……」
エレナ様が前のめり気味に攻め続ける。
おかげでエレナ様の口から発せられた甘い息と汗の匂いとフェロモンが俺の鼻腔をくすぐって通り抜けて行く。
防具をつけているが近くで見ると顔綺麗すぎてちょっと戸惑ってしまう。すると、妹が俺にフォローを入れてきた。
「エレナ様は公爵家の長女です。どうしてもと言うのなら、仕方ありませんけど、あまりおすすめはしません」
「一向に構わん!私を成長させることができれば、安いものだ」
「「……」」
X X X
フィーベル家の貴賓用浴室
「お兄様、目がエッチですよ」
「ち、違う!俺は決してそんな……」
「ううう……これが……これが強さと関係があるのか?」
タオル一枚纏った俺たちは、広い湯船に浸かっていた。
もちろん俺、全力で止めたよ。でも、エレナ様頑なだったから。
これからどうなることやら……
追記
ふむ。
程よいサービスシーンは機械における潤滑剤。
もちろんストーリーもちゃんと進みます。
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