第6話 おふr
あの騒ぎから数日が経った。
今のところケルツ様やエレナ様の情報は入っておらず、おそらく俺たちの関係は自然消滅したのだろう。
望むところだ。
俺の目的はただ一つ。
スローライフを送ること。
もう一度いうが、転生前の俺は塾講師をやっていて、働きすぎで過労死してしまった。
過去の反省を活かして今の人生を満喫しようではないか。
出世とかお金持ちとか正直どうでもいい。
俺には贅沢言わなければなんとか食っていけるだけのスキルがある。
ふむ。
とりあえず今はモンスターをやっつけよう。
ここのところずっとつよつよモンスターしか狩ってないからそろそろ懐事情がやばくなりつつあるんだよな。
いや、
かああああああああなりやばい。
次に払う学費、前の2倍以上あるからな。
「はあ……」
俺は深々とため息をついてから俺は誰もいない平野で手頃なモンスターを次から次へと倒して行った。
数時間に及ぶ戦闘。
ゴブリンもスライムも狼も巨大植物も巨大猪も
俺の武器の前ではなすすべなし。
だが
「全然足りない。借金でもした方がいいのかな」
X X X
ボロすぎる我が家
今日はカツ丼を作るべく、巨大猪肉を多めに持ってきた。この間倒した大王水牛のようにすぐになくなることはもうないだろう。
「ただいま!もうすぐご飯作るから待っててね!」
と、明るい表情で言うと、
「ほお、カナト君。今日は何を作る予定かね」
「は?」
居間の扉からひょこんと顔を出してきたのは、とても品のある金髪の中年男性だった。
続いて美しい制服姿の頬が美少女が顔を出し、さらにその後ろには紫色の髪をしたメイドさんが俺にジト目を向けてきた。
エレナ様、元気そうで何よりだ。
あとは、
「お、お兄様……おかえり」
メイドさんの後ろから現れたリナがあははと笑いながら困ったように俺を見つめる。
「……」
肉すぐ無くなりそう。
X X X
「な、なああああああんだ!!!!この料理は!!!豚肉にパン粉をまぶして揚げただけで、こおおおおおおんなに美味しいのか!!!!」
「旦那様。それだけではありません。何か特別なソースがかけてあります!」
「……リナの兄よ、お変わりを頼むぞ」
「お兄様、私も」
「……」
米もすぐ無くなりそうだ。
結局俺は20人前のカツ丼を作る羽目になった。ていうかフィーベル家の人たち、意外とめっちゃ食べるんだな。
ご飯を食べ終えた俺たちは、ボロすぎるリビングで車座になっている。すると、突然天井が一部壊れ、俺たちに落ちてしまった。
埃をかぶっている俺たち。
「こんな狭苦しいところにわざわざお出ましくださいまして本当にすみません……」
俺が頭を下げて言うと、ケルツ様がドヤ顔で何かを上着の内ポケットから取り出してそれを俺に渡した。
「これをもらってくれ」
「え?」
流れで受け取った俺が確認して見ると、
フィーベル家を象徴する徽章ととても複雑な模様が施された紙。
「なんでしょうか?これは?」
「白地小切手だね」
「白地小切手?」
「その空欄に数字を書けば、その分の金額を我がフィーベル家が支払う義務を負うことになる」
「ま、マジかよ……」
俺は開いた口が塞がらなかった。
これがあればリナの学費の心配は無用である。それにこんな埃まみれのボロボロな家ともおさらばできる。
手が震えてきた。
でも、
「受け取れません」
俺は丁重に断り、白地小切手をケルツ様に渡した。
すると、彼は
「あはははは!!!一体俺をどれだけ試せば気が済むのかね」
「え?」
「もしかしてカナト君が望むのは、この王国全てか?」
「い、いや!なにをおっしゃるんですか」
「何か欲しいものがあればなんでも言うがいい」
「いや別に俺は」
「もしや、この俺を食い逃げする下賎で卑しい貴族にしたてあげたいか?それは、死より辛いことだぞ」
これは絶対引かないやつだな。
「リナの兄、正直に言って欲しい。あなたには見返りを受ける資格がある。この私が保証しよう」
「お兄様……」
みんなに見つめられる俺。
まあ、正直に言いましょうか。
「リナの学費分のお金が必要です。俺の身分じゃやっぱり限界がありますので」
「ほお、なるほど。なら一つ提案してもいいか」
「はい?」」
「我がフィーベル家が後ろ盾になるから、今すぐセントラル魔法学園に編入しろ。だったら君の学費とリナ君の学費は全部俺が負担しよう」
「お、俺も……魔法学園に?」
と聞き返した瞬間、急にリナが俺に飛びついてきた。
「お兄様!!!この上ないいい条件です!!お、お兄様と私が同じ学園で……はあ……考えただけでも武者震いが……」
俺が興奮気味の妹を落ち着かせながらケルツ様を見ると、また彼は続ける。
「それだけじゃないんだ。カナト君には学校が終わったら、我が娘を指導してくれ。リナ君のようにな。指導料はたっぷり払わせてもらうぞ」
「え?俺、ど素人で妹以外の人に指導したことないんですけど、いいですか?」
「我が娘に圧倒的強さで勝っておいてなにを言う」
俺は口を半開きにしてエレナ様を見つめる。
すると、彼女はモジモジしながら言葉を紡いだ。
「リナの兄となら、きっと私は強くなれるだろう。だから、私はもっとあなたと闘いたいんだ。そこでしか得られない気持ちもあるから」
「……」
俺が無言のままでいると、メイドさんがリナの肩を優しく触りながらフォローを入れる。
「平民であるリナさんをセントラル魔法学園に合格させるだけの指導力。きっと誰もが知らない秘密訓練みたいなものがあるのでしょう」
すると、リナが優しい口調で答える。
「普通に戦ったり勉強させられたり、美味しいものを食べたり……別に大したことは……あ!あった!毎晩お兄様とおふr ……ううううっ!」
俺は光のスピードでリナの口を塞いだ。
「あはは!ケルツ様!条件を呑みます!」
「ふむ。よろしい。それでは早速入学手続きをしよう」
「ちょっと仕事が早過ぎじゃありませんか」
「早いに越したことはない」
さすが公爵様。抜かりない。
俺がげんなりしていると、意味ありげな視線を俺に送り続けるエレナ様が聞こえない程度の小声で何かを呟く。
「おふr?さて、私も毎晩リナの兄とおふr?をしたらもっと強くなれるのか?」
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