第5話 潔く去る兄妹を公爵様はどう思うのか

フィーベル家の貴賓用応接室


 エレナ様は俺から攻撃を受けて気絶した。


 そして


 肋骨6本骨折

 臓器破裂

 脊椎損傷

 などなど……

 

 

 俺は公爵という爵位を継ぐ存在にやっちゃいけないことをしてしまったのである。


「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい」


 椅子に座ったまま頭を抱えている俺を見て妹のリナが俺の背中を優しくさする。


「大丈夫ですよ。私が治療魔法をかけたので休んだら治ります」

「いや、そういう問題じゃない」


 そう。


 リナが応急処置のための治療魔法をかけてくれたおかげでなんとか事なきを得たが、俺は彼女に危害を加えまくってしまった。


 それだけでも首が飛ぶ案件なわけだが、どうやら妹のリナは今置かれた状況にまだ気づいてないらしい。


 いくらエレナ様を助けたとはいえ、臓器破裂、肋骨6本骨折、脊椎損傷するほど叩きつたら、俺が親でもキレるわい。


 これから俺は罰を受けるのか……


 いやだ。


 俺の大切なリナの学費は一体誰が稼ぐだ……


 と、絶望していると、ドアが開いて、フィーベル家の当主であるケルツ様がお馴染みのメイドさんを連れて入ってきた。

 

 ケルツさんは黄金色の髭を触りながら、俺を見つめてくる。

 

 ものすごい威厳だ。


「カナト君」

「はい!」

「一つ聞きたいことがあるが」

「なんでしょうか?」


 うん、不安しかないけど。


 俺が、緊張した面持ちでいると、


「さっき、我が娘を暗殺しようとした者についてだが」

「は、はい」


 ケルツ様はとても真面目な顔で俺に問う。


「まだ屋敷に残っている可能性が極めて高い。何か情報はあるのかね」

「あ、」


 どうやら俺がエレナ様をボコボコにした件は後回しのようだ。


 だとしたら俺が首を落とされずに済む方法はあるかもしれない。


 俺は慎重に口を開く。


「あります」

「ぜひ頼む」

「えっと、その前に、この屋敷に勤める執事さんを全員集めていただけませんか?」

「ぜ、全員?」

「はい!」

「ほお、なかなか面白いことを言うんだな。よし、エレナを倒した君の強さを信頼して、執事をみんな集めさせよう」

「ありがとうございます」


 ケルツ様は俺のお願い通り、執事を全員広場に集めてくれた。


 数十人ほどの執事。

 

 急に呼ばれて戸惑っているのか、どよめきが走る。


 ケルツ様と妹、メイドさんと並んで立っている俺は、執事たちを見て、早速唱える。


「ピストル」


 されてない拳銃を握りしめて、俺は迷いなく一人を打った。


ターン!!


「あっ!!」


 足を打たれた執事はそのまま血を流しながら倒れた。


 すると周りがパニック状態になる。


 それと同時に、


 二人の執事が急に逃げ出す。


 凄まじいスピードで逃げるが、


 俺は、


「スナイパーライフル!」


 そう唱えると、今度は改造されていないスナイパーライフルが現れた。


 俺は早速スコープに顔を近づけて、


 二人の足を狙って


 二発打つ。


 ターン!

 ターン!


 弾丸は、二人の膝に命中し、そのまま呻き声を上げて力なく倒れる。


 さっき逃げた二人は執事とは思えないほどの動きをしていた。


 まるで長年仕込まれたプロのスパイや暗殺者のような動きである。


 だが、いくら早くても弾丸の方がが遥かに早いことを彼らはまだ知らない。


 現代兵器万々歳。


 ケルツ様は、倒れている3人を深刻そうな顔で見て大声で言う。


「倒れている3人を早く捕らえろ!!」


X X X


応接室


「カナト君」

「はい」

「まだ拷問にかけてないから決まったわけじゃないが、俺の長年の経験から察するに、君が捕まえた3人はスパイである可能性が極めて高い」

「間違いなくあの3人はスパイです」

「ほお、どうやってそんなこと断言できんだ?」

「そ、それは……」


 俺がエレナ様を守るために鉄板を召喚した時、ついでに盗聴器を暗殺者の服の中に仕込んであったからな。


 暗殺に失敗したやつが慌ててグルである二人の執事のところに行って裏事情と個人情報を全部話したのだ。


 だから、彼らの名前を知った俺はこっそり他のメイドさんに聞いて彼らの顔を特定したわけだ。


 でも、そんなことケルツ様に言えるわけがないんだよな。


 俺が言い渋ると、ケイル様がとても真剣な顔で言う。


「言えない事情でもあるのか。わざと威力を大幅に下げた武器で我が娘と戦った時のように」

「っ、あはは……」


 ば、バレちゃったか……


 さすがは公爵様。見る目が違う。


「それより、エレナ様の容態はどうですか?」

「ふむ。エレナなら大丈夫だ。リナ君が早速治癒魔法をかけてくれたし、薬師や専門医たちも問題ないと言っておる」

「よかった……」


 俺が胸を撫で下ろして、ふあっと深く息を吐くと、リナがえっへんと偉そうに言う。


「私に治癒魔法を教えたのはお兄様ですわ!」

「り、りな……ちょっと態度がでかいぞ」


 俺がリナの頭にチョップをすると、ケルツ様が頬を緩めて言葉をかける。


「実に仲良い兄妹だ」


 急に和んできた。


 よし、ケルツ様の機嫌がいい今がチャンス。 


 正直、気が気じゃないんだよな。


「えっと、俺たちそろそろお暇させていただきます」

「え?もう行くのか?」

「はい……用事がありまして」

「よ、用事とな?」


 ケルツ様が当惑したような様子で問うと、急にリナがしゅんとした顔で言う。


「お兄様、またモンスターを狩に行くんですか?」

「ま、まあな。今夜ギルド会館行くし」

「すみません……私の学費を稼ぐためにいつも頑張ってくれてるのに、余計なことしちゃって」

「ううん。そんなことないよ。んじゃ、行こっか」

「はい」


 と、俺はケルツ様とメイドさんにアイコンタクトして頭を下げてから応接室を出ようとするが



「ちょっと待った!!!!」


 ケルツ様が俺を呼び止めた。


「本当に、それでいいのか?!」

「はい?」

「帰るのは全く構わん。でも、俺に何も言わないまま帰ってもいいか聞いておる!」

「……」


 やっぱり、怒ってる……


 この人、確かにすごい敏腕家だが親バカな印象あるからな。


 なので、俺は口を開く。



「エレナ様に酷いことをしちゃって本当に申し訳ございませんでした」




「「っ!!!!!!!」」





 俺は二人の顔を見ずに頭を上げてリナの手を繋いで足速に歩く。



X X X


ケルツandメイドside


 カナトが去ってから数分が経過したというのに、ケルツとメイドはまだ応接室にいる。


「なんて素晴らしい平民だあ!!!!!!!」

「私も大変感動いたしました」

「敗北を知らない我が娘に限界というものを教え、暗殺者から救い、そして屋敷に潜んでおるスパイや暗殺者を捕らえ、俺になんの対価も求めずに去っていった……」

「リナさんの学費を稼ぐために潔く去ってしまいました。平民で家もボロボロなのに……」


 メイドは感極まったように涙を流す。


「普通は、恩着せがましく俺に取り入ろうとし、財貨や権力を欲するものだが、あの男ときたら……」

「むしろエレナ様の心配をしてました」

「ああ。自分の命が狙われていることも知らずに、戦闘狂のように突っ込んでとんだ失態を晒した我が娘を……実に恐ろしい男だ。きっと何かしらの目的があるだろう。もしや……エレナの命を救っても、なんの見返りも与えない我がフィーベル家を大衆の前で貶そうとするんじゃあるまいな!?」

「っ!あのはとても賢いです。恐らくそれも考えているのでは」

「あははは……このフィーベル家の当主をなめおって、実に生意気な男だ。どれだけ俺を試せば気が済むんだ」


 ケルツは悔しそうに握り拳を作り、メイドを見つめる。


「ハンナ!」

「はい。旦那様」



「ぜっっっっっっっっっっっっっったいあの二人を逃しちゃだめだ。特にカナトという平民は必ず我がフィーベル家が確保しないといけない人材だ」

「おっしゃる通りでございます」

「王国中にいる愚かな貴族や王族やらがあの男の強さを知らない事を祈るばかりだ」

「知る前に必ず……」

「ふむ。ところで、ハンナはあの二人の家に行ったことがあるのだな」

「はい」

「どうだったか?」

 

 問われたハンナは、急に顔を赤らめて、恥ずかしそうに言う。




「牛丼というものがとっっっても美味しかったです……」



「ぎゅ、牛丼はなんぞ!?これまで山海の珍味を集めた料理を食べ尽くしてきた俺も初耳だ。



X X X


エレナの部屋


「ん……雄であるカナトにメスである私が……負けた……んにゃ……自然の摂理……ふふ」


 エレナは寝言を言いながら寝返りを打つ。





追記





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