第4話 勝負は彼女に何をもたらしたのか

フィーベル公爵家の敷地にある闘技場


「お兄様!頑張って!」


 時間はあっという間に過ぎ、俺がリナと朝を食べ終えるとフィーベル家からの従者たちがボロすぎる我が家にやってきた。


 従者さんたちが待っている間、腐った屋根の一部が壊れて落ちてしまったので、貧乏な俺たちを憐れんだ従者さんたちが、直してくれた。


 妹の学費のため無駄な出費は抑えないといけなかったので、俺は頭を下げて感謝の言葉を伝えた。


 まあ、何はともあれ、今の俺は、フィーベル家の邸宅近くにある訓練用闘技場で、エレナ様と向かい合っている。


 彼女は甲冑を身につけており、剣を抜いて、それに魔力を注ぎ込んでいる。おそらく、尖ったところに当たったとしても、肌が切れないようにしているのだろう。


 にしても、本当に綺麗だ。


 甲冑と言っても、アニメや漫画などに出てくるちょっとコスプレっぽいものだから、肌の露出が少々。


 胸当ては彼女のメロン並みの乳房を覆うためにちょっと大きいが、腰とお腹のところは布が引っ付いている。


 完璧と言っていいほどバランスのいい体。


 そして、そんな彼女を見つめる金髪の中年男。


 彼の正体はケルツ公爵。


 フィーベル家の現当主にして、その凄まじい財産と権力ゆえ、王家からも警戒されている男(ソースはギルド会館の冒険者たち)だ。


 そんなど偉い方が、参観しているわけだから、余計緊張してしまう。


「リナの兄、準備はいいか」

「はい……」

「ふむ。ワンドとか、武器などは必要ないのだな」

「えっと、武器なら召喚して使うので」

「なるほど。召喚魔法の使い手……しかもワンドがなくても魔法が使える……だったら心置きなく全力でいかせてもらうぞ!」

「い、一応俺、素人なので、お、お手柔らかに……」


 と、俺が頭を下げると、俺たちの間に立っているメイドさんが口を開く。


「では、はじめ!」


 そう言って早速メイドさんが下がる。


 すると、


 エレナ様は、


 口角を吊り上げて地面を蹴り上げて俺の方に飛んできた。


「なっ!」


 凄まじい速度だ。


 ある程度予測はしたが、実際見るとなると、臨場感がすごい。


 俺は、彼女の剣を避けて、後ろに下がる。


 けど、


 彼女はスキを与えまいと、俺にまた迫ってきた。


「早っ」


 と、俺が条件反射的に口走って、彼女の猛攻撃を躱す。


 続く彼女の剣戟。


 これまで狩ってきたモンスターたちとは比べ物にならないほどの速さと迫力だ。


 どうやら彼女は


 のようだ。


 なので、俺は


「ピストル!」


 彼女の攻撃を避けながら叫んだ。すると、俺に手にされたピストルが現れる。


 俺はピストルを彼女に向かって数発打つ。



 タン!タン!タン!


「はあっ!!」


 彼女は俺が放った弾丸を全部食らって、後ろに勢いよく飛ばされて行く。だが、やがて、地面を踏み締めて、しれっと俺を見つめるエレナ様。


「一度も見たことのない武器だな」

「ま、まあ……」

「飛ばされたのは魔王軍幹部以来だ。懐かしい」

 

 エレナ様は、ありし日に想いを馳せるように懐かしんだが、やがて表情を変え俺に鋭い視線を向けてくる。


 そして、彼女はまた電光石火のごとく、俺にやってくる。


「ライフル!」


 ピストルを消して、されたライフルを召喚した俺は、銃口をエレナ様に向けて引き金を引く。

 

 が、


「ふっ!遅いぞ!」


 自信に満ちたエレナ様が、された魔法弾丸を全部避けて、俺を攻撃した。


 俺はライフルで、彼女の鋭利な攻撃を防ぎ続ける。


 キーン!キーン!


 鉄と鉄とがぶつかり合う音。


 闘技場を轟かせる鋭い音に顔を顰めて彼女の攻撃をひたすら防御すること5分。


 衝撃波は闘技場のレンガに亀裂を生じさせ、下手をすれば、闘技場ごと崩れてしまいそうだ。


 よし。

 

 もうこれで十分だ。


 ここで俺がエレナ様の攻撃を食らって倒れれば丸く収まる。


 正直に言って、俺の力の全てをフィーベル家の人間に見せるつもりはない。


 俺はスローライフを目指してるんだ。

 

 なのに、公爵家の長女と勝負だなんて、どうかしてるとしか思えない。


 だが、俺がここでエレナ様にあっけなく負けたら、兄としての面目が立たない。

  

 かといって、ケルツ様もいらっしゃるわけだから、エレナ様にをかかせるわけにもいかない。


 つまり、俺が負けるなら今だ。


 

 と、俺がわざと動きを鈍らせて、彼女の剣の一撃を受けようとしたが、










 前から急に猛毒が付いた矢がエレナ様に向かって飛んできた。




「っ!!!」


 俺は目を見開いて、早速唱える。


「鉄板!」

 

 現れた鉄板はタイミングよく矢を防いでくれた。


 それと同時に




「スキあり!!」


 暗殺者からの攻撃に気づいていないエレナ様が、ぎこちない動きをした俺に至近距離にまで迫ってきて俺のミゾオチをぶとうした。


 が、


 俺は


 緊急時だから





 ができなくなってしまっている。



 俺は早速エレナ様の剣をライフルで弾き返して、彼女のお腹に右手を添えた。


「なっ!さっきと動きが全然違う……」


 戸惑うエレナ様を無視して俺は


 片手で彼女のを押さえたまま持ち上げて


 地面に向かって



「はあああ!!!」


 思いっきり彼女を叩きつけた。




「ぐあっ!」


 


 エレナside



 今まで自分は負けたことが一度もない。


 幼い頃も、今も。


 戦闘や試合において自分に失敗という単語はなかった。


 戦姫とも呼ばれ、彼女を崇拝する集団をも現れて、彼女を神話に加えろと主張し神殿まで建てるほどの伝説の存在となったエレナ。

 

 だが、

  

 彼女は目の前の平民男にやられた。


 意識が遠のいていく中、エレナは気づくのだ。


 この男にとって自分は、赤ちゃんレベルに過ぎないと。


 これまで、自分は主人を失ったメスのように、長年暴れていた。


 しかし、今、圧倒的強さを持つ雄が自分を完全に支配した。

 

 初めて経験するこの感情に、一瞬恐怖を感じるのだが、


 彼・カナトの雄の顔と強さを目の当たりにして


 彼にしたいと思うメスとしての本性が溢れてきた。


 相変わらず、カナトの手は自分のお腹に添えられている。


 間違いなく自分を初めて負かした男の手だ。



「っ!!」



 エレナののお腹が急に熱を帯び始める。



 だが、それと同時に意識が朦朧としてきて


 

 崩れ落ちていく闘技場を見ながら



 彼女はびくんと背中を反らして



 気を失った。









追記




カナト君、やっちゃいましたね


 








 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る