第3話 牛丼の恐ろしさと戦いに飢えた女騎士

「勝負?」

「そうだ。リナの兄はリナをセントラル魔法学院に合格させるだけの賢さと王タコと大王水牛をやっつけられるだけの強さもある」

「……王タコの話はしてませんけど」


 家に入った俺は、これまでリナに集まってくるお邪魔虫を追っ払ってくれたことに感謝して「何かお礼をしなくちゃ……」と口走ったが、急にエレナ様が目を光らせて勝負を持ちかけてきた。


 他ならぬ王国一強い公爵家長女のお願い。


 ここで「それはちょっと……」とか渋ったら一巻の終わりだ。


 よし、ここは自分を見下すスタンスで行こう。


「お、俺は妹以外の人と一度も戦ったことがありません。いわばド素人みたいなものでして、それでもよろしければお受けしますが……」

「よし、早速明日、私の屋敷にくるがいい。いや、私の方から使いを送るとしよう」

「は、はや!」


 俺がびっくりすると、妹のリナがエレナ様の肩を持つ。


「そうですね!明日は休みだから予定はありませんし!」


 と、リナがチラッと俺を見つめてきた。

 

 妹よ、なんでそんなにウキウキしてるの?お兄ちゃんは今絶賛しおしおだよ?


「い、いや……俺、明日は金を稼ぐために出かけないとだし」

「あ、そんなことなら心配いりません!お兄様!」

「え?」


 俺が視線で問うと、妹は急に自分のカバンに手を入れて何かを持ち上げる。


 俺に似せて作られた象牙色の彫刻物。


「今日の美術の授業の時に作ったものですけど、とある男爵家の殿方が金貨10枚で買い取るって言ってました」

「金貨10枚!?」

「はい!」

「お、おう……確かにすごい金額だ。でも、これ、俺だろ?商品価値ある?その男爵家の男ってなんでそんな大金叩いて買おうとするの?」

「なんか、その方、これを見た途端に鼻息を荒げて、興奮してましたね」

「……」


 おい、男爵家の息子め、これを買って何をするつもりだ。


 と、げんなりしながら二人を見ていると、エレナ様が期待に満ちた目で俺を見つめる。

 

 結局、俺は明日、エレナ様と勝負することにした。


 授業で作ったモノを金貨10枚で売れる妹の才能を見て、一瞬いけないことを思いついたが、まあ、妹の学費を含めて生活全般を支えるのは俺の役目だ。


 そう思っていると、



(ぐううう)


 俺以外の3人のお腹が鳴る。


「「……」」


 

「大王水牛を使った牛丼、食べていきませんか?」



X X X


エレナとメイドside


 ボロすぎる家を出て、それぞれ毛並みの良い馬に乗ってゆっくりとしたスピードで走る二人。

 

 この二人は生まれて初めて牛丼という料理を食べた。

 

 もちろん最初こそ断ったが、リナがカナトの料理の素晴らしさを身振り手振りで説明してくれたおかげで二人は食べることにした。出された時は眉唾物のように思って警戒したが、丼から漂ってくる最上級食材である大王水牛肉と醤油などの芳醇な匂いを嗅いだ瞬間、唾液が洪水のように溢れてきた。


 毒が入っているかの確認もしないといけなかったが、カナトが真顔で「そんな心配はいりません」と言ってくれた。嘘偽りなど全く感じられない彼の瞳に圧倒されて、とりあえずメイドが一口食べて問題ないと言ったので、続いてエレナも一口。


 彼女らは天啓にでも打たれたように


 ものすごいスピードで丼を貪っていった。


 気がつけば、おかわりしまくってカナトが持ってきた大王水牛肉は全部無くなってしまった。


「あり得ない……世の中にあんなに美味しいものがあるなんて」

「おっしゃる通りでございます……」

「明日はリナとリナの兄が来るんだ。牛丼代をたっぷり上乗せして払わないとな」

「相当な美食家であられる旦那様もきっとあの牛丼はお気に召すのではないかと」

「間違いない。パパも好きになるに違いない!


 二人が牛丼の恐ろしさを語って余韻に浸っていると、突然メイドが真面目な顔で問う。


「ところでエレナ様。あの男をどう見ますか?」

「リナの兄……」


 手綱を握っているエレナは、悔しそうに顔を顰めて口を開く。


「正直に言って只者ではないな」

「やっぱり……」

「普通の平民なら、私を見ただけでも恐れをなすが、あの男はそれどころか、まるで私を一人の女の子として見ていたぞ。他のあさましい貴族どもがもしそんな態度を取ったらすぐ首が飛ぶ案件だが、不思議と不愉快な感情が感じられたことは一度もなかった」

「狡っからい貴族のように取り入ろうともしませんでしたし」

「ああ。平民でありながら、なんと立派な人間だ」


 と、二人がカナトを思い浮かべて感嘆すると、メイドが目を細めて言う。


「でも、もしあれが全部計算し尽くされた行動なら、エレナ様はどうされますか?」

「ふっ、確かにそんな腹黒な男である可能性が高いだろう。なにせ、あのリナを育てた男だ。心の中では私たちの言動の裏を読んで、不審がられずに私たちに安心感を与えられるような言葉や態度を考えていたに違いない。何かを得るためにな」

「ふふ、確かあの男は私が今まで見た中で最も優秀な平民ではありますが、私の目をごまかすことなどできません」

「ああ、その通りだ。だから、試したい。リナの兄の強さを」

「相手は平民です。手加減はした方がよろしいかと」

「彼は私と同じくレベル5ほどの能力を持っている。模擬戦で私を驚かせたあのリナの兄だ。手加減はしない。そして、

「……どうか屋敷にある闘技場を壊さないでください」


 ため息混じりに言うメイド。


 エレナはセントラル学園に入学させられる前までは、魔王軍を討伐していた。


 戦闘こそが自分の全て。

  

 だが、今は真逆の生活を送っている。


 体が疼く。


 エレナは腰にかかっている自分の剣をさすりながら口の端を上げる。


 馬に乗っているがため、巨大すぎる乳房も一緒に揺れ動く。




 

X X X

 

カナトside



「お兄様の強さが認められる日がもうすぐやってきます!はあ……エレナ様を家に誘ってよかった……」

「……」

「本来であれば、私よりお兄様の方がもっと光を浴びないといけないのに、これでやっと……うう……私、感動で涙が……」

「リナ……」

「はい!」


「しばらくは、一緒にお風呂入るの禁止な」


「ええええええええ!?!?!?!?!?!?!?」




 リナよ……確かに気持ちはわるよ。


 でも、スローライフ送りたいのに、王国一強い人と勝負とはな……



(結局、リナが落ち込みすぎて一緒に風呂に入った)





追記



次回おもろいですw

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