第2話 ボロすぎる家に見慣れぬ存在

翌日


 俺は大王水牛が生息すると言われるとある平野へとやってきた。大王水牛はレベル5の騎士や魔法使いじゃないと基本倒せない。ちなみに、この世界では強さによってランクが割り振られ、最弱がレベル1、最強がレベル5である。


 ちなみに昨日リナが言及したエレナと言う人はレベル5で、その中でもトップクラスだ。


 でも、今はそんなこと考えている暇はない。



「ヴアアアアア!!!!!!」

 


 俺に向かってものすごいスピードで走ってくる大王水牛。


 立派な筋肉に、ダイアモンドより堅そうな丈夫なツノ。その全てが俺を獲物と捉えて殺そうとしている。


 俺は


 地面を蹴り上げて高く飛んだ。10Mほどは跳ねたと思うが、物足りなさを感じて俺は唱える。


「ドローン!」


 すると、俺の靴の下から巨大なドローンが現れ、俺をさらに上へと運んだ。500メートル上空に達した頃には、大王水牛が点のように映る。


「よし!弾道ミサイル!」


 と俺が叫ぶと、数キロメートルさらに上に下向きになっている弾道ミサイルが現れた。先端には大王水牛を確実に仕留めるために、俺が魔力で作った弾頭がついている。


「食らえ!!!」


 俺の号令と共に、燃焼して、ものすごい勢いで大王水牛めがけて一直線に進む弾道ミサイル。


 おそらく重力加速度も加わってマッハ10は超えそうだ。


 弾道ミサイルはあっという間に水牛の頭に落ちた。




「ギュエエエエエエ!!!!」



(ものすごい爆発音と光)



 ドローンに乗っている俺は安堵のため息をついて、下を見下ろす。


「これで村が襲撃される恐れはないな」

 

 そう。

 

 この間、ギルド会館に行ったら、大王水牛が村を襲って甚大な被害を与えているが、強すぎて王国が重い腰をあげないと絶対倒せないと聞いたので、こうやって俺が来て、処理しているわけである。


 地面に降りた俺は、大王水牛が死んでいることを確認して、物憂げな顔をする。


「はあ……このツノさえ売ればリナの学費の足しにできるのにな……」


 俺はさらに続ける。


「でも、俺平民だからレベル5しか狩れない大王水牛のツノなんかどっかに売れば、絶対怪しまれて尋問受けるんだよな。似たような経験は今まで散々やってきたし」


 と、俺はため息をついて、大王水牛の千切られた足を見る。


 確か、大王水中の肉は美味しいことで有名だ。


 現に、あの霜がたっぷり降った肉を見ると、日本の和牛を思い出す。筋肉まみれの足にあんなに脂肪があるなんて、本当に不思議だな。



「今日はリナが大好きな牛丼にするか」

 

 俺はエクボができるほど口の端を上げて、大王水牛の霜降り肉を大量の担いで家路につく。



X X X


ボロすぎる我が家


 我が家は王都からちょっと離れた住宅街の隅っこに存在する。


 もちろん、王都の一等地の豪華なマンションを借りてリノにはいい環境下で勉学に励んでもらおうとしてたが、俺は平民で金がない。


 リナよ、こんなだらしない俺を許してくれ。


 そう心の中で呟きつつ玄関ドアを開けた。


 照明がついているからおそらくリナが先に帰ってきたのだろう。


「ただいま!リナ!今日は牛丼だよ!」

「ぎゅ、牛丼!?!?やった!!!お兄様の牛丼大好き!!」


 中からリナの明るい声が聞こえてくる。


 本当に聞いているだけでも、和んでしまう。


 早く我が妹の顔を見たいものだ。

 

 日本だとキモいシスコン呼ばわりされるだろうけど、今日の俺はキモくていい。


 顔をぴょこんと出して目を光らせる妹を見た俺は、つい妹に自慢したくなる気持ちを抑えられず、俺は空気を思いっきり吸って、


「今日は大王水牛をやっつけたんだ。肉いっぱい持ってきたから、お腹いっぱいになるまで食べようぜ!おかわりも自由だうよ!」


 そう言って、俺がサムズアップして水牛の肉をリナに見せると、彼女が急に後ろを振り向いた。


私のお兄様は大王水牛を簡単に倒せるほど強力な方ですわ!」

「え?」


 妹の反応が理解できず小首を傾げていると、妹の後ろから長い金髪を靡かせ、品のある雰囲気を漂わせる制服姿の美少女がやってきた。


 彫刻のような美しい顔。何もかも吸い込んでしまいそうな青い瞳。そして、大玉のメロン二つを彷彿とさせる巨大な膨らみ。あと、腰には剣が一つ。


 その全てがあまりにも美しすぎて俺は言葉を失った。


 それと同時にものすごい威厳が感じられた。


 この威厳は彼女が高貴な上流貴族であることを物語っているだけでなく、数々の強い敵を殺してきたことを証明するような殺気が含まれているようだ。


「貴殿がリナの兄なのか」

「は、はい……」

「急に邪魔してすまない。私は、エレナ・デ・フィーベルだ」

「カナトと申します」


 エレナ・デ・フィーベル。


 平民だろうが貴族だろうが、この王国で彼女の名を知らない人はいないだろう。


 この王国に存在する3大公爵家のうち最も権威のある公爵家の長女である。


 あまりにも強い魔力と剣術のおかげで、人間兵器扱いされ、幼い頃は隣国との戦争に参加して、敵国の強い魔法使いや騎士らを片っ端から殺して、長年続いた戦争を終結させた救国の英雄である。


 戦争が終わってからは、国際同盟を結成して、魔王軍討伐のための国際軍のトップを数年間務めた。


 だけど、あまりにも強くなりすぎるのを恐れた王家が彼女をセントラル魔法学園に入学させたという噂が流れている。


 とにかくひとことで言うと、めっちゃつよつよな人である。

 

 そんな人が


 こんなボロすぎる家にいるのはあまりにも不自然な感じがしてならない。


「な、なんのようでしょうか」



「リナから貴殿の話を聞いた。だから。さっきの大王水牛の件も含めて」


「……」

 

 俺が冷や汗をかいていると、さらにエレナ様の後ろからいかにも仕事ができそうなメイドさんが俺に試すよな視線を送ってくる。


 やべ……

 

 どうなるんだこれ……


 俺が緊張していると、ボロすぎる天井からホコリが少し落ちて、エレナ様とメイドさんの頭に落ちた。

 

 





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