3-4
「量産品も一応見てきましたが、気に入らなくて。あれは持ち手が硬いし、形が美しくない」
「........なかなかわかるじゃないか」
「どうも」
男性は青い瞳をキラリと光らせ、初めて私の顔を真っ直ぐに見た。何故かハッとした表情になったが、直後には無表情に戻っていた。
「叔父さん、お願い。ミミお姉ちゃんにナイフをあげてほしいの」
「いや........でもそれは失敗作だから........」
と言いつつ、彼の視線は私の足元に落ちた。そしてゆっくりと膝から腰、上半身へと上がっていき、また顔をチラリと見て目を逸らした。........なるほど、そういうことか。呆れた。
「マルト」少女頭に手を置き、ゆっくり撫でた。「ちょっと外で待っててもらえる?頑張って説得してみるから」
「わかった!お姉ちゃん頑張ってね!」
真剣に私を見上げるマルトの姿に、少し心が痛んだ。だが、私はこのナイフが欲しいのだ。しっかりした理由はないが、とにかくこのナイフに心惹かれる、それだけなのだ。
マルトが玄関から出たあと、私は戸の鍵を閉めた。男性を振り返ると、彼はオドオドした様子で椅子から立ち上がる所だった。
「あの、申し訳ない。別にそういうつもりでは無いのだが、ーー3年前に妻を亡くして以来、その、全く」
「あなたが元々邪な人ではないのはわかります。安心してください、私があなたを都合よく利用しようとしてるだけです。あなたは悪くない」
後ずさる男性との距離を詰めながら、私はシャツのボタンを外していった。彼が息を飲むのがわかった。
「どうぞ。好きにしていただいて構いませんので、あのナイフを私にください」
「いや、もういい、ナイフならあげるから。だからそんなことしないでくれ」
赤らめた顔を背ける彼の目には、涙が浮かんでいるように見えた。
「ナイフは戴きます。でも、あなたが悲しそうな顔をしてるので、どうぞ」
「................」
と、両手を広げてみせた。ボタンを全て外したシャツの下は、薄い布を胸に巻いて隠しているだけで他は何も着けていない。男性は顔を背けながらも、視線はしっかりと胸元を見ていた。
「私が奥さんに似てるんですね」
「ああ。........少しだけ」
そうか。やはりこの人はいい人だ。きっと、私のような汚い人間が近寄ってはならないほどに、いい人だ。マルトも、マルトの両親も、この町の人達も。........ーーきっとクロスも。
男性は私に亡き妻の面影を見て、諦めていた感情と欲望が再燃した。私はそれを自分の目的のために利用するのだ。
そんなことで、私の心は傷つかない。全然平気だ。
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