3-2

満面の笑みでそう言うと、マルトは私が抱える袋の一つを私から受け取った。袋自体は服しか入ってないので重くはないのだが、少々心配ではあったので比較的軽い方を渡した。「お手伝いするもん!」........ああ、なにこの子。天使だ。私もいつかこういう子を産んで育てたいくらいだ。欲しい。



「にしても、旅人さんなのにどうして服とか道具を持ち歩いてないの?」



いい子な上に、微妙に聡いのはちょっとやりにくいが。



「泥棒に持ってかれちゃって。でもよかったよ、盗まれただけで殺されたりとかはしなかったんだし」


「大変なんだねぇ、旅人って。

........そうだ、うちの町に住みなよ!」


「そうだね、旅の目的が果たせたら、ここに戻ってくるよ」



目的は何?と訊きたそうな顔をしていたが、実際にらそうしなかった。そこまで訊いていいのか迷っているみたいだ。年齢の割にそういう遠慮を知っている。親が働く姿を、たくさん見てきたのだろう。



さて、買う物と言ったら本当は服だけでもよかったのだが(必要な道具は、クロスのカバンに全部入っている)、マルトの手前それだけで納得するのかどうか心配になった。そもそも、これは当たり前なのだが私は本格的な旅をしたことが無い。旅行程度なら多少あるが、それとは訳が違う。と、ここでマルトが偶然にもありがたいことを言ってくれた。



「お姉ちゃん、次はどうする?ここにはキャンプ道具とかは売ってないから、それは他の町で買った方がいいね」


「そうか、じゃあ後は身を守る物が欲しいかな。今回はそれだけでいいや」


「身を守るもの........?戦車とか?」


「戦車か........。それも欲しいけど、そんなに予算が無いからナイフとかでいいや」



身を守る、という言葉から戦車が出てくるマルトの感覚を少し追求したくもあるが、まぁ子供だからなのだろう。



「ナイフ........それなら、私の叔父さんのお店がいいよ!」


「叔父さんのお店?」


「うん!武器屋さんではないんだけど、ナイフとか包丁とかを作って売ってるの」


「ふーん。それじゃ、そこに案内してほしいな」



赤毛を揺らし、マルトは楽しそうにニッコリ笑った。





1度、宿屋に荷物を置きに戻ってから、マルトの叔父の家に向かった。クロスは相変わらず寝ていたが、寝ながらも手を伸ばしてベッド脇のクッキーを一つ掴んでいた。

その手からクッキーを奪って口に放り込んで、皿を窓際のローテーブルの上に移動させた。もしかすると寝ながら起き上がって歩くかもしれない。実験してみよう。



ウキウキと歩き出すマルトの案内で、私達は町の外れの方まで来た。町に入るために上ってきた階段のある場所から、一番離れた場所だ。崖側には岩がゴロゴロとしていたが、奥の方には森があった。



「随分と離れた場所にあるのね」


「叔父さんは一人が好きなんだってさ。それに、“神様”を守ってるんだって」



「神様?」大きく頷き、マルトはある方向を指さした。森のある方向、生えている木々の中で一際大きい樹木があった。そして何故か、その樹木の幹には大きな岩が乗っているように見えた。遠目からなので、見間違えかもしれない。



「あれがこの町の“神様”だよ!ナイフ買ったあと、見せてあげるね!ーーあ、先がいい?」


「んー、先にナイフ見に行きたいかな」






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