3章

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三章




マルトに案内された宿の一室は、話通りベッドは1つのみで、しかもシングルサイズだった。窓際には花瓶を乗せたローテーブルと、2人がけ位の大きさのソファが設置されている。さすがにヘトヘトに疲れた人にソファで寝るように言うのは気が引けたので、部屋に入ってすぐベッドに飛び込んだクロスのことは咎めなかった。



「マルトが一緒に買い物に付き合ってくれるらしいから、デートしてくるね」


「あっそう........。僕は寝てるから、もし帰ってきてベッドで寝たかったらなるべく優しく移動させてね」



そう呟いて、ゆっくりと目を閉じるクロス。ベッドから下ろされる事については拒否しないんだな。

少年はすぐに静かな寝息を立てはじめた。靴を履いたままだったので、何とかそれを脱がせ、布団を被せてやった。


こうして寝顔を見ると、普段以上に人形のようだった。#睫毛__まつげ__#長いな、なんかムカつくから引き抜いてしまおうか。

そんなクロスの荷物を勝手に探り、お金の入った巾着を取り出す自分の下衆さに少し嫌悪感を覚えながらも、なんとか自分に言い聞かせた。服や道具を買うために、別にお金は受け取っている。だが仕方ない。これは仕方ないのだ。足りなくなるかもしれないし、うん。ざまぁみろ。



こいつ、放っておいたら甘い物をどんどん買ってしまいそうだからな。さっきだって、客室に行く途中マルトに「外にまで香ってきた、出来たてのお菓子を全部買いたい」と言っていたのだ。節操がない。そんなに甘い物がほしいというならば、こいつの為に氷砂糖か角砂糖でも買っといてやろう。贅沢はさせてやらない。






「お兄ちゃんは大丈夫?」



客室のドアの隙間から顔を覗かせて、マルトが心配そうに聞いてきた。彼女は両手にお皿を持っており、その上には形の綺麗なクッキーが盛られていた。「食べたそうにしてたから、お母さんに言ってもらってきたよ」........いい子だ。抱きしめたい。


健気な少女から皿を受け取り、ベッドの脇のテーブルに置いた。



「大丈夫。この人は弱っちいだけだから」





………………











寝ているクロスを残し、私はマルトと共に町を散策しつつ、必要なものを買い揃えに出た。町並みは決して大きなものでは無いし、都会とは言い難いが、とてつもない田舎でもない。のんびりと時間が流れているような#長閑__のどか__#さがあり、住人も穏やかだ。よくわからない“ねじ”を探す旅が終わったら、是非ここに住みたい。



「ねえねえ、そういえばお姉ちゃんたちはどこから来たの?」



服屋で適当な服と下着を買い、大きな袋を二つ抱えて出てきた私に、外で近所の犬と遊びながら待っていたマルトが駆け寄ってきた。



「山の上から、魔法で来たよ」



ちょっとした出来心、というか。マルトやマルトの両親、服屋の店主の女性。この国の人間、いやこの町の人間があまりにも優しい人ばかりなので、本当に魔法使いを嫌っている国であるという実感が無かった。あくまで試すような気持ちで、あえて冗談めかして私はそう答えた。



「えっ........?」途端にマルトの顔が曇り、私から大きく一歩離れた。恐怖や嫌悪、怒りや憎しみ、様々な感情が#綯__な__#い#交__ま__#ぜになった顔付きで私を見上げている。これはやばいと分かったので、私は即座に訂正する方向に話を続けた。



「本当にごめん。ほんの冗談のつもりだったんだ。

私達、他の国から来てるから、この国の事情をよくわかってないの」


「なんだぁ........。ダメなんだよ、そんなこと言ったら」


「ごめんね。もしよかったら、私に色々教えてくれないかな?何で魔法はダメなのか」



少し半信半疑という感じではあったが、マルトは安心したように一歩、先程離れたぶんの距離を詰めてきた。


「いいよ!お買い物がおわって落ち着いたらお話してあげる!」


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