2-5

 得意げに両手を腰に当て、胸を張って見せるクロス。「とりあえず町から見えない辺りまで移動して、そこから町まで徒歩で行こう。自慢じゃないが、僕は体力がない」と、そんなことを堂々と言われても、なんと反応すべきか悩むだけだが。まぁたしかに、普段からこの小屋に住み、ほとんど出歩かなかったというのだから、体力がないのは仕方の無いことなのだろう。


 もしかして、先日魔法で私の死ぬ直前で時間を止めていた時、最終的に嘔吐したのはそのせいもあるのだろうか?魔法というものが使う本人の体力にも作用するのならば、彼はこれから先魔法を使う度に体調を崩すのではないか。



「それは魔法によりけりだよ。魔法のレベルに合わせて、何を消費するのか変わってくるからね。

 ま、どちらにしろ僕は体力を付けないといけないね」



 腕まくりをして、小枝のような腕で力こぶを作ろうとしながら、快活にそんなことを言う。変に卑屈にならずに、前向きに考えて努力をしようというクロスの様子は、見ていて気持ちがいい。感化されてこちらまで暗くならずに済む。


「ごめんね」と事ある事に繰り返し、悲しげな顔で私を見つめてばかりの母を思い出す。彼女は自分の策略で私を父にあてがったとはいえ、多少の良心の呵責はあったように思える。だからか、時には意図して、弟よりも私のほうに優しくしていた様子のときもあった。何も出来なくてごめんね、助けなくてごめんね、押し付けてごめんね。そう謝ってばかりで、謝られる側の私は始終気が滅入っていた。やがてそれは麻痺し、全てがガラスの向こう側、外の世界の出来事のように感じるようになるまで、彼女は謝罪し続けた。



 改めて、私は今までの生活から解放されたのだと思えた。

 やっと、自由に生きていけるのだと。



「えっと、手を繋いでもらえる?移動するから」


「了解」



 小屋から出てすぐ、クロスがこちらに手を差し出してきた。言われた通りにその手を握ると、指が触れた瞬間クロスは一瞬たじろいだ。しかしすぐしっかりと私の手を握った。




「クロスちゃん、女の子と初めて手を繋いだからって大袈裟に反応しないでくれる?」


「仕方ないだろ、童貞なんだから」


「開き直るの早くない?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る