二章
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二章
自己紹介をし合った後、私はすぐに体調を崩し、椅子から転げ落ちるようにして倒れてしまった。2日ほど高熱で倒れている間、クロスという少年は付きっきりで私の世話をしてくれた。その間も、ぽつりぽつりと色々なことを話した。
曰く、「この世界の全ての国のどこかに、“ねじ”がある」らしい。
オルゴールや子供の玩具などについている、あの“ねじ”だ。それを巻くと、オルゴールや玩具が動く。それが世界中の国に存在するという。
出現したのは四年前で、誰がなんのために作ったのかは分からないーーーーことはない。これを作り出した張本人は、自殺したというクロスの師匠・モルドールだという。
大魔法使いと呼ばれたモルドールは、ある日この世界に命を賭した魔法で“ねじ”を出現させた。しかもタチの悪いことに、この“ねじ”は簡単には発見することが出来ず、選ばれた救世主にしか見つける事ができないという。
「なら、どうしてそんなものがあるとわかったの?」
2日後の夜、ベッドから起き上がることが出来た私は、久しぶりの食事を摂りながらテーブルの向かい側に座るクロスに訊ねた。シチューにパンを浸して口に運ぶ。なかなか美味である。
「それはね、師匠が僕に話したからだね。それを元に、滅んだ国を僕が見に行ったら、本当にあった」
モルドールはクロスにだけ、“ねじ”の話をしたという。“ねじ”は国のどこかに存在しており、あるだけでは何も起こらないという。しかし、ひとたびそれが回り出すと、国は崩壊していくのだ。
戦争や内戦、疫病、自然災害、どのようにして国が滅ぶのかは定まっていない。しかし確実に国は滅んでしまう。
「国が国としてある内は、その“ねじ”に特殊な結界が張られているみたいでね。僕も自力で探してみたんだけど、結局見つけられなくてさ。
変化が起こったのは2年前だね。この時期から滅ぶ国が増えたんだ。地球に比べたら遥かにこの世界は広いからね。いくつか滅んだところで、全体的には大したことないんだけども」
そうして滅んだ国に、クロスは単身赴き、国内を捜索して回ったそうだ。そして、地面に刺さった“ねじ”を見つけた。恐らく、“ねじ”の魔力は国が滅んだら潰えてしまうのだろう。
国の崩壊を事前に食止めるため、“ねじ”を発見して魔力を止める能力を持つ人間が、私だという。
「またまたぁ。そんなできた話がありますかね」
「知らんけど。少なくとも師匠が“ねじ”を出現させた時期と、君が処女を思わぬ形で失ってしまった時期は完全に同時期だよ」
「........たしかに四年前だけど、正確な時期は違うでしょ」
「そう思うのは自由だけどね。僕も関係性はよく分からないけど、師匠は君のことを知っていたし、僕に君の様子を時々見るようにって言ってた」
なんだそれ。気持ち悪いぞ。なんだって異世界の人からストーカー紛いのことをされなきゃならんのだ。クロスはそんなことを言われて、なんの疑問も持たなかったのか。
「まぁ、それはとりあえずいいや。ところで、なんでモルドールさんはそんなものを作ったの?」
「さぁ?知らんよ僕も。きっと師匠なりの深い考えがあると思うんだけどね」
知らんのかぁ。教えても貰えなかったのか。クロスはキョトンとした顔で私を見ている。キョトンとしたいのは私のほうだ。どうも、彼もそこまで詳しいとは言えないようだが、当事者ではないので仕方ないのだろう。完全に全てを理解するためには、死んだモルドールを生き返らせるしかない。
「師匠のこの魔法は、恐らく師匠の命と引き換えに成立したものだと思う。
師匠はまず、世界に“ねじ”を出現させた後、特殊な呪術式を施した。その呪術式を発動させるトリガーが、恐らく、いやほぼ確実に師匠の死なんだろう」
「難しい話は分からん。クロスの師匠が何かを思って、世界を滅ぼしたいと願ったのだけはわかった」
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