第8話 Night Dance
ータイムリミットまで6時間30分 PM11:00 福井県小浜市ー
警告音はJ班が司令部を置く支配人室に鳴り響いた。
カン・ミンギュの部下が直ちに報告をあげる。
「報告!敵味方識別圏に反応あり!」
いよいよ来た。と、カン・ミンギュはニヤリと笑いを浮かべる。
「屋上監視班は現認したのか!?」
彼の問いに部下は
「はい、確認しました!黒のSUVです」
カン・ミンギュは迷わず、一言で答えた。
「構わん、撃て」
バルコニーに控えていたJ班の二人は耳元の無線機に入る指令に対応した。
一人の男がソ連製PKM軽機関銃をバルコニーの欄干へ引っ掛け、もう片方は予備の箱型マガジンを用意し、待機する。
PKMの男はホテルへの道へと近づくSUVに中国製の⒎62×54R弾を浴びせかける。
毎分650発の弾がSUVのエンジン、フロントガラスへ突き刺さり、穴を穿ち、ガラスを叩き割る。
緑色の鉄製箱型マガジンからベルト給弾で弾がチャンバーへと注ぎ込まれ、銃口から唸りを上げ吐き出されていく。
静寂を破り、戦闘の火蓋を切ったPKMは、しかしながら突如として沈黙する。
PKM射撃手の喉笛に突き刺さった338ラプアマグナム弾は過剰な暴力をその首へと溢れさせ、筋肉を引き裂き、骨を破壊し、絶命させた。
弾薬装填手は崩れ落ちる同士を見て体を隠そうとしたが、847m/sで飛来する338ラプアマグナム弾は装填手の頭蓋を叩き割り、地面に倒れさせる。
『ツーダウン。LMGクリア。すすめ、ウルフ』
「了解、サンキュー、ドッグ」
九絵はボロボロになったランドクルーザーのキャビンでレベル3ボディアーマーに包まれて待機していた。車体を貫通した7.62×54R弾はアーマーまで到達していたが、貫通はしなかった。
ランドクルーザーはホテルエントランスの柱へぶつかり、停車している。
今度はエントランスの攻撃チームから銃声が響き、車体を容赦なく貫通する。
だが狙撃を恐れてか外にまでは出てこなかった。
九絵にとっての唯一のチャンスはここだった。彼女は抱えていたB&TMP9のストックを展開し、ランドクルーザーの後部ハッチをあけて飛び出る。エントランスからは死角であり、後部ハッチが開いた事以外はわからない。
九絵はホテル壁面までたどり着き、所定の範囲から離れたことを確認した。
「こちらウルフ。パッケージは配達済み。点火する」
『こちらラビット、了解。やって』
ソナの命令で九重は手に持っているデトネイターを2回クリックし、ランドクルーザーに残されたC4を起爆する。
その爆発は支配人室まで届いた。
大きな揺れと、舞う土埃にカン・ミンギュは胸の高鳴りを覚えた。
「敵が仕掛けてきたぞ。個々奮戦せよ。奴らを倒さねば祖国の土を踏めぬと思え」
彼はそう無線機にしゃべるとベッドに横たわるイム・オッキョを一瞥する。
両手足を撃ち抜かれた彼はひどく衰弱しており、助からないことは目に見えていた。
「同志イム・オッキョ中尉。よく頑張った。これをお前に託すぞ」
そう言いながら中国製のマカロフ拳銃を手渡す。
「敵の捕虜になるな。いいな」
オッキョはうつろな眼のまま頷いたように見え、カン・ミンギュは部屋を後にする。
1発の銃声が響いた。
「被害は?」
廊下に控えていた副官にカン・ミンギュは確認をする。
副官はヘッドセットから聞こえてくる各小隊の報告を確認し、口を開く。
「エントランスが崩壊、待機していたソン・ジフン曹長以下3名即死との報告あり。残存はこれで15名です。エントランス付近で戦闘開始。相手は一人。崩壊した入り口から侵入してきているようです」
九絵はコンクリート柱の裏に隠れ、機会を伺っていた。
柱には先程からかなりの銃撃が加えられ、硝煙と土煙が混じり合っている。
J班のオペレータ二人は徐々に九絵の潜む柱へとにじり寄り、距離を詰めていく。
彼らの履くブーツの足音が銃声の合間合間に大きくなる。
九絵は相手に悟られぬ様、心の中で息を吸い込んだ。
そして彼女は柱から倒れるように床へ滑り込み、J班の前に姿を表した。
一人目の敵が彼女が倒れてくるのを見、北朝鮮製AKを構える前にMP9のトリガーを2回引き絞り9mmFMJ弾が喉笛と下顎を貫通した。
「うっ」
くぐもった声を上げ、一人が倒れる。彼の横に居た兵士は倒れ行く同志には目もくれず、九絵へAKを向けて撃つ。
だが彼女の小柄さと俊敏性を把握しきれていなかった。
銃弾は彼女の一歩後ろへ突き刺さり、彼の首元へKaBarナイフが突き立てられた。
九絵はその大柄なコンバットナイフの柄を横一文字に引き裂き、男の首筋からは大量の血しぶきが吹き上がり、地面にそのまま倒れ込む。
『こちらウルフ。エントランスクリア。ラビット、前進しろ』
「こちらラビット、了解」
ソナとウォンは従業員用の入口に残っていたC4爆薬を仕掛け、待機していた。
「やれ」
ソナの声にウォンはデトネーターのスイッチを入れ、2回クリックする。
爆薬はドアどころか壁ごと従業員出入り口を吹き飛ばし、内側で待ち伏せていたJ班オペレータ二人を細切れにしてしまう。
土煙と埃が舞う中へ二人は入り込んでいった。互いが左右をカバーしあい、慎重かつスピーディに。
「コンタクト!」
ウォンが叫び、Mk18を単発で何度か廊下の奥へと撃ち込む。
J班のオペレータはすぐさま身を引き、遮蔽物となる厨房の冷蔵庫裏に身を隠した。
「ウォン・ジョンハ、そのまま牽制しろ!突っ込むぞ!」
ソナはウォンの肩に左手を置き、スリングでK2ライフルを下げたまま右手にピンを抜いた手榴弾を握り込む。
ウォンは短い頷きを返し、Mk18をセミオートのまま冷蔵庫に向けて撃ち続け、J班のオペレータに反撃のすきを与えない。銃声に気づいた増援が来るまで後がない、そうソナが判断したのはウォンが15発目の弾を撃ち出したときだった。
彼女はウォンの肩を後ろに引き、右手に握った手榴弾のレバーを親指で弾き、手榴弾を厨房へと投げ込む。
二人は一気にかがみ込み、手榴弾は厨房に転がり込むと1秒もせず起爆する。
炸裂から2秒、二人は再び立ち上がり、バディ体制のまま厨房へ歩を進める。砂煙が舞う厨房を突き進みながら冷蔵庫裏をチェックすると、直撃を受けたオペレータが体から臓器をはみ出したまま絶命していた。血溜まりは白い湯気を立てている。
「クリア」
「進め」
前方の狭い通路は、事前に調達した青写真のままであればエントランスにつながっている。
二人は九絵と合流を予定していた。だが、その間に二階へつながる階段が続いていることも把握していた。
「こちらラビット。RVポイント到着。ウルフ、どうか」
『こちらウルフ。向かう』
通路の反対側に小柄な影が現れる。
「ここまでは順調だけど、ここから先には平壌並みの警備がある」
ソナはこれまでの経験上、北の工作員が徹底抗戦をして玉砕する戦法を好むことを知っていたし、ここは完全なまでの背水の陣。
奴らが生き残るには自分たちを撃滅する他ない。
「ドッグ、こちらウルフ。攻撃開始」
ラブホテル対岸のパチンコ店。ここはラブホテル周辺と違い民間人が普通に闊歩する街の中。その屋上には先程使用されたL115が置かれ、その横に大型の対物ライフルダネルNTW20が据えられ、ユウキがそのグリップを握り込んで腹ばいになっていた。
「ここまででかいのは初めてだ」
対物ライフルの中では最大級とも呼べる20mm×82弾を使用するNTWに、彼女はフランス製の榴弾を装填する。
スコープの中にはホテルの2F部分が映し出され、窓際は狙撃防止の為何かが貼られて見えないようにされていたが彼女には全く関係のない話であった。
J班オペレータ達は窓際に鉄板を貼り付け、狙撃されぬよう徹底していた。
更に1Fから上がれる唯一の階段前にRPKとPKM機銃を設置した上、人員6名を配置。
通常の外部攻撃に対しては十分すぎるほどの防御を敷き、待っていた。
だが彼らはまさか航空機関砲の砲弾で攻撃を受けることを想定できていなかった。
1発の榴弾は鉄板に着弾すると同時にその鉄板を吹き飛ばした。
ユウキは吹き飛ぶのを確認すると残り2発の弾丸も同じように吹き飛ばしていった。
装弾数3発のマガジンを撃ち切ると新しいマガジンを装填し、ボルトを押して砲弾を装填する。
J班オペレータ達は何に攻撃されているのかわからず、最初はヘリコプターか何かから攻撃を受けていると勘違いするほどだった。
「窓際から離れろ!窓際からー」
壁面の鉄板が全て引き剥がされ、1発の榴弾が声を出していた下士官の腕をねじ切り、着発信管が作動した。
炸裂した榴弾は下士官の上半身を破裂させ、付近に居たオペレータ達に血しぶきと破片の雨を降らせる。
「畜生!これは狙撃だぞ!?」
誰かが叫ぶ。だが絶え間なく砲弾は室内に着弾し続けた。
その火力によるリンチは合計12発の着弾を最後に終わることになる。
『こちらドッグ。室内に動きを確認できなくなった。左肩が痛い。以上』
あんな銃を撃てば無理はない、と九絵は笑った。
「了解、休んでて。こっちはエントリーする」
3人のチームは階段を上がりきり、ウォンが扉を慎重に開けた。中からは血なまぐさい臭いが漂ってくる。ソナの目配せで扉を開け、一気に突入する。
「・・・しばらく肉料理は食えないな」
ソナのつぶやきには九絵も同調せざるを得なかった。
「生存者、いるのか・・・?」
ウォンの言葉にソナは
「まぁ・・・虫の息なら」
と答えながら下肢が吹き飛び、地面で自分の血溜まりに溺れているJ班オペレータを引き起こす。
「おい、カン・ミンギュはいるのか」
オペレータはもはや焦点の合わぬ目で目の前の彼女を見ていた。
「・・・ユン・ソナ?お前が・・・」
彼はそれだけいうと事切れてしまった。
「前進しよう、中尉」
「わかっている。行こう」
ソナが立ち上がった瞬間、通路一番奥の暗闇で閃光が光った。
九絵はとっさに飛び退き、ソナは地面に伏せ込む。
ロケット弾が3人を飛び越え、後ろの壁で爆発を起こす。
「RPG!」
ウォンは着弾の衝撃でグラグラする頭をたたきながらMk18を通路奥へと撃ち続けた。
ソナも伏せたままK2を同じ位置へ掃射し
「九絵!カバーする、突っ込め!」
と怒鳴った。
九絵はMP9をスリングで背後に回し込み、HKVP9を腰のホルスターから抜き出す。
「突っ込め!」
ウォン、ソナの銃撃にあわせ彼女は走った。
通路奥には敵が3人ほどいる。RPGチームだ。そう九絵は判断した。
一人がRPG、二人が護衛。その二人が九絵を殺そうと銃を撃ってくる。
恐怖、そして興奮が彼女を包み込む。
声にならぬ叫びが口からこぼれ、彼女は突貫する。
一人がウォン、ソナどちらかの銃撃で倒れもうひとりが構わず撃ち続けた。
九絵はとっさにスライディングし、ブーツのグリップで急ブレーキをかけながらVP9を撃った。弾は護衛の左肩に命中し、姿勢が崩れる。彼女は再び走り出し護衛に向けて弾を撃ち続けた。護衛に複数の弾がめり込み、彼から射撃が止まる。その時、RPG射手が装填を終えて再びその発射機を構えようとしていた。
九絵は拳銃のトリガーを引いたが、撃針は無を叩く。
スライドが下がりきっているのを見た九絵はそのまま突っ込む。
RPGの弾が発射され、それは彼女の横をすり抜けていく。
射手は迫る九絵にホルスターから白頭山拳銃を抜いて撃とうとしたが、彼女はもう眼前にまで走ってきていた。
撃ちきったVP9を射手の顔面に突き込むと鋭い悲鳴が上がった。
九絵はそのまま何度も拳銃を顔面に突き続ける。
射手はたまらず拳銃を落とし、九絵はそれを拾って胸にめがけて撃ち込む。
「・・・クリア!」
『ウルフ、戻って!』
ソナの声は悲しげであった。
「いい活躍だったよ。九絵ちゃん」
ウォンは苦しそうに声を吐く。
彼の左足は爆発でねじ切れ、おびただしい血が流れている。
「RPGが近すぎてね・・・気にするな。トロかった俺の責任だ」
「九絵ちゃん、彼をお願いできない?」
ソナはそう言いながら腰のIFAKポーチからCATバンドと止血剤、鎮痛剤を取り出す。
「いいですけどソナさんは・・・?」
「カン・ミンギュが居ない。上にいるはず。彼が私の夫と子供を手に掛けたことがわかってる。だから殺す。それだけよ」
「・・・わかった。ウォンさんは任せて」
そう言いながら九絵はウォンの大腿にCATを巻きつけて締め上げ、止血剤をふりかけて包帯を巻く。
-タイムリミットまで5時間30分 AM0時 東京都練馬区朝霞駐屯地-
「作戦は順調だ、マイルズ」
何杯目かわからないコーヒーをすする野並は内心安心していた。
ここからならまだ米軍が出張るまでもない。
「・・・そうとも限らないみたいだ、カナエ」
「・・・?」
マイルズは指揮所の入り口に顎をしゃくる。すると予言のように扉が開き、彼女の直属の上司である飯井一佐が入ってくる。
「野並二尉。まずいことになった・・・おい、CIAが何故ここに」
「一佐、私が希望したんです。それよりまずいこととは?」
それよりもという言葉に飯井は引っかかったが、それどころではなかった。
「5分前、日本海領海に接近してきた韓国海軍の巡洋艦を海自のP1が発見。上空を旋回中、その巡洋艦の影に北朝鮮の工作船を視認したため韓国海軍艦艇に問い合わせを行ったところ工作船から地対空ミサイルを撃たれた」
マイルズは立ち上がり、外へ飛び出ていく。
「哨戒機は?」
「幸いフレアで空域を離脱した。首相官邸はすでに九州のときと同じ対応を取ろうとしているぞ。こっちの動きを官邸に察知されればお前の首どころでは済まない。連中の救助部隊だろこうれは」
野並は舌打ちした。あまりにも武闘派すぎる。北の指導者はたしかに意欲的であるが父親ほどではない。
「子飼いの部隊に早く北の工作員を殲滅しろと伝えろ。総理が気づく前に」
飯井はそう言い残すと部屋を後にし、入れ替わるようにマイルズが戻ってくる。
「カナエ、悪いニュースだ。
「馬鹿な、もう相手を確保できる」
マイルズは首を振る。
「違う、これはもはや政治的な行動だ。
決定的打撃だ。いくら韓国に非があるとは言え、それを察知できず放置した上アメリカに尻拭いをさせたとなれば野並の腹切だけでは済まない。
「当たり前だ・・・!」
「ならカン・ミンギュを生け捕りにさせろ。ユン・ソナが殺す前に。背後関係を”公的”に明らかにすれば我々は退く」
ユン・ソナは3Fに入った。あたりは静まり、誰も居ないように見える。
だが、その奥に支配人室があるのはわかっていた。彼女は思わず叫んでいた。
「カン・ミンギュ!居るのはわかっているんだ。話をしよう!」
「話?中尉、今話といったか?
どこからともなく聞こえる北訛りの強い朝鮮語。
相手は北の工作員で南訛りも習得しているだろうから”わざと”だとユン・ソナは感じた。
「そうだ、カン・ミンギュ大尉!お前と話すのに10人は殺してきたぞ!」
「中尉、あんたの家族を殺したのは確かに俺たちだが”俺たち”ではない。あんたの上だ」
カン・ミンギュは支配人室から外にパラコードを垂らし、壁を伝って逃げる算段を組んでいた。風で思うようにコードが下にたれず、難儀しながらユン・ソナに答える。
「お互いに軍人だ、理解しよう。仕事だ。そう、殺人ではない、仕事だ。元はと言えば、お前が殺した工作員がうちのおエライさんの子息だったのが原因。お前が原因だ」
支配人室のドアに何かがぶち当たる音がした。
ユン・ソナは全力でドアに体当たりをしているらしい。
「そうだ、私が原因だ!であれば私が死ぬべきだったのに、なぜそうしなかった!」
「家族を失う悲しみを味合わせるのが目的だった」
カン・ミンギュはようやくコードが下に届いたのを確認し、腰につけてある降下用のフックに取り付けた。
「だがな、中尉。お前は死ぬぞ。いつか。今でなくて残念だが」
そういいながらカン・ミンギュは外へと降下した。
わずか数秒で地面に着地した彼は先に脱出していたJ班の生き残り3人が乗ったアルファードに乗り込む。
「大尉、迎えから連絡です。後1時間で合流地点に到着。ここからは所定どおり行けば30分で到着します」
「なんとかなるな。狙撃手は?」
「裏側をカバーできない位置のようです、我々が出たときは撃たれませんでした」
「長居無用だ。行くぞ」
『すまない、九絵。逃した』
その一報を受けたとき、九絵はウォンを敵が残したアルファードに乗せているときだった。
「了解、追尾行動に・・・」
そう答えかけたとき、ユン・ソナの無線がかき消され上塗りのように”サベッジ”から無線が入った。
『チェアマン、こちらサベッジ。聞いている。連中はUAVで追跡している』
「了解、ではその情報をこちらに」
『チェアマン、中尉に追跡をさせるな。彼女は連中を殺し尽くす。状況が変わった。CIAは南の部隊全員が北に内通していると”故意”に理解した。CIAのパラミリが嘉手納を離陸してあと一時間もしないうちにそちらに到達する。連中に介入される前に北の連中を確保しろ、いいな』
「・・・サベッジ、私達は人手不足。中尉にはきてもらう。殺しはさせない」
野並は九絵がここまで強く主張するのを初めて見た。
一瞬、逡巡した。
『・・・わかった。だが時間はない。端末に情報を送った。追跡を開始しろ。永田町が勘付き始めた。気取られたら私ではお前たちを守れなくなる』
「了解。現地にメディカルチームを要請。ウォン・ジョンハが重傷だ」
『了解、待機していたクリーニングチームと一緒に向かわせる。九絵、頼んだぞ』
交信を終え、九絵は手元のタブレットにUAVから送られてくる敵の位置情報が受信されているのを確認した。
「九絵、いつでも行けるぞ」
ユウキはもう一台残っていた敵のアルファードにブービートラップがないか確認し、エンジンを掛けた。
「ユウキ、聞いていたとおり。CIAのパラミリがすぐに到着する。奴らが銃を撃つ前にこちらで確保する」
「わかってるよ。行こう」
そこにソナが走って現れた。
「九絵ちゃん、置いて行かないで」
その声はいつものソナの声ではなく、弱く、か細い声だった。
「理由はなんとなく、察している」
「ソナさん、あなたがカン・ミンギュを殺すことでアメリカが日本国内で軍事作戦を行う。我々はその事態を避けなくちゃいけない。だから、置いていかないけど、殺さないで。約束して」
ソナは一瞬息を吸ったような動作をみせた。
「・・・わかった」
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