第14話
その一つ一つがまるで独立した生き物の様に優雅に揺れる。
それには尾があった九つの尾が。
金色の毛並みは離れた位置からでも容易に、その美しさを目にとることが出来た。
金色の獣、金色の狐。
その通ったマズル、首、身体と続く造詣は不思議と艶めかしく獣の身でありながら性的であった。
目元には黒のレースが巻かれその瞳を見ることは出来ないが、金色の毛並みにその黒が良く映えていた。
コンと一鳴き
それがきっかけか場の空気が元に戻る。リブラはハッと我に返ると「そこまで!!」と声を張り上げた。それはとても良く響いた。普段は五月蠅い位のその場にあったのはただただ静寂だったのだ、それをリブラの声が引き裂いた。
「そこまでだ!!この勝負ヤコウの勝ちだ!」
聞いていた名前を口にする、当然その勝敗に異論を唱える者などいない。当然だ、ドートレスは勿論の事、彼らを囲んでいた者達は膝を着き、離れて訓練をしていただろう者達の中にすら苦しそうな顔をしている者が数名見て取れるのだ。
「メリル悪いな、手の空いてる奴等を連れてきてくれ」
メリルはリブラを見ると頷き、駆けていく。メリルに戦闘系のスキルがないのは幸いであった、それらがあればあのように動けるはずがなかった。そんなメリルを見送り再び訓練所に目をやると、九つの尾を持つ狐は目を細めヤコウに撫でられているのが目に入る。その光景に気が抜けたのかリブラは並ぶ椅子の一つに腰掛け、そこで膝が笑っている事に気が付くと震えを抑える様に手を置いた。
「召喚士か……」
あの時感じた空気の違和感、一つある心当たり。それは召喚士等が高位の存在を呼び出す際に起こる事がある、場の魔力量の急激な低下、それにより起こった魔力の流れの一時的な混乱。以前、召喚された高位モンスターと対峙した時に感じたものと同じだった。現役からブランクがあるとしても、あの時感じたそれより、今の方が酷い気がしてならない、だとしたらあれは……
「化け物だ」
あの時対峙した、多くの犠牲を払って討伐したそれより今あそこで目を細めているあれは……
何よりも、そんなものを一人で呼んだヤコウ、あいつこそが化け物なのか。
リブラは大きくため息をつく、既に手の空いていた者達がやってきて具合の悪そうな奴らに手を貸している。小さく「よし」と口にだし、両膝を軽く叩き立ち上がると膝の震えは止まっていた。
ヤコウにトウカ、そしてリブラ、メリル、セラはギルドの解体場に居た。
ここも先程の訓練所と同じでギルド内の扉から出れるが直接繋がっている訳ではなく街の外に造られている。ヤコウが魔物の買い取りを希望している事を聞いていたリブラがギルドマスターの権限で開けさせた広い一角。『クオリア』の面々が「広い場所を用意した方がいい」と別れ際に言った為、そこはドラゴン種等の巨大な魔物や、魔物の大量発生の時等に使われるそれであった。
そしてそれは正解であった、積まれる魔物の山。多くのゴブリンにオーク、そして狼。しかも今リブラの目の前にあるそれらはゴブリンでもクジャラートゴブリンと呼ばれるクジャラート大森林に生息するゴブリンで、その危険度はただゴブリンと呼ばれるものより高い。それはオーク、そして狼、ファングと呼ばれるそれらもゴブリンと同様で一様に危険度は増すものであった。
―― あれと一緒なら可能か……
リブラはそう納得すると解体部の職員に増員を指示した。
「すまない。少し時間がかかりそうだヤコウ」
「かまいませんよ、リブラさん」
「そうか……それで」
リブラはヤコウの隣で大人しく座るトウカに視線をやると、ヤコウは「かわいいでしょ」と撫でトウカはヤコウに顔を寄せる。気持ちよさそうに目を細めるその姿に、毒でも抜かれた様に肩の力が抜ける。
「あぁ、そろそろ登録証も出来上がってるだろうから、そこに入金しておく。とりあえずは予想買取金額の一部をいれておく」
「それはありがたい。なんせこちらのお金を持ち合わせていなかったので、このままではリブラさんのお宅に無理にでもお世話になるところだった」
「いや、なんでだよ。勝手に連れて行ったら嫁になんて言われるか」
「なんと、それは残念」と軽口を交わしていると「リブラ殿の奥様はとても可愛いい方なんですよ」とヤコウの後ろに控えていたセラがからかう様に口を開く、それに興味津津といった様子でヤコウは「なんと、そうなのか」とリブラに視線を向ける。
「えぇ、もうそれはリブラ様がベタ惚れで」
「ほうほう、それでそれで」
「二人並ぶ姿は美女と野獣、いえ幼女と野獣。お二人の事を知らぬ方達から何度通報されたか。それに」
「おい!セラやめろ!まじでやめろ! じゃねえとお前の事も」
その言葉にセラは一歩スッと下がると「出過ぎた真似をいたしました」と頭を下げた。リブラは呆れた様にため息をつくとメリルを呼び「早く登録証と宿の紹介をしてやってくれ」と声をかけた。
メリルに連れられ解体場を後にするヤコウ達の後ろ姿を見ながらため息をつくと、解体の責任者がリブラをよんでいる。
「どうした、なにか問題が」
「この量だ、問題が無いわけないだろ。魔石だけでもかなりの額だぞこれは」
解体の責任者、年老いた犬の獣人のルドルフが呆れたと言わんばかりにそう言うと「しかし、残念だな」と小さく呟く。
「どういうことだ」
「どうもこう……まともに使えるのは魔石と肉くらいだな。ファングの毛皮なんぞ殆ど取れんぞ」
持ち上げたファングの体は爪で引き裂いた様にボロボロであり「殆どこんな感じだ」と山に戻す。
「まぁ、それでも魔石と肉はとれる。ほれ、リブラよ、魔術師ギルドと商工ギルドに早う連絡せい。さっさと引き取って貰わんと狭くてかなわんわ」
「はいはい、分かった分かった」
「分かったなら、さっさと出ていけ。こんなでかいのに居られたら邪魔じゃ」
「それは悪かったな」とリブラは解体場を後にし、ルドルフは「ほれ!さっさと始めんと朝になっちまうぞ」と檄を飛ばしながら自らも作業に戻るのだった。
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