第15話

 けれども私は「その事件」について先輩に尋ねることは無かった。先輩もそれについて話さなかったし、話して貰ったとしても、聞いてあげたいとも思わなかった。

 先輩は先輩で、私は私だ。

 知らないままを通して先輩の卒業を待つことが、美しいのだと、そう考えた。


 先輩は、少なくとも寮の部屋では普段通りの振舞をしていた。

 今までの異性交遊を私に悟られなかったのだから(私が恐らく鈍いとはいえ)、至極当然のことであるが。私は相変わらず、勉学にのみ精を出しているし、先輩も受験生らしく、机に向かう時間が伸びた。

 特別に変わったことといえば、先輩の外泊や外出が、あの呼び出しの日から一度も行われていないということだった。思い返してみれば、先輩が学外へ出かける回数は、他の生徒と比べて多かった。それはつまり、異性との交際の機会が多かったということだったのだろう。

 しかし先輩はもう三年生である。受験勉強に専念しなければならない時期だし、どうせ来年には好きに振舞える。外泊やら何やらは、もう終わりなのかもしれなかった。

 それにしても先輩はいつの間にか、「恋人」を作っていたのだろうか。その点に関しては全く気がつかなかった。もしかすると、私の知らないところで、誰かが異性と交際に及んでいるということは意外に多いのかもしれない。心のなかで靄のかかっていた感情は、いつの間にかに「感心」に変わっていた。

 いずれにせよ、校則違反も異性交遊も、私には関係のないことだ。私は変わらず、何事もなく学校生活を送るだけなのだ。

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