第13話

 曇天の広がる窓の外。湿度の高い教室には、興味を惹かない授業が響いている。

 この学校に入学して三年、まだ半分だ。先輩は今年でいなくなるから、後輩の知らない子といずれ相部屋になる。

(こんなところに六年もいたら、頭も可笑しくなるのではないか?)

 例えば、地元で友人と男性二人とダブルデートをするだとか。……なにも、可笑しいことではないのか。

 問題なのは、校則を破ることだ。もしくは、異性交遊を禁じる校則が下らないのか。

下らない校則だとしても、きっと私が破ることは、ない。

 板書されていく古文をノートに書き落とす。伊勢物語。一千年前だとしても人間は恋というものに狂ってきたのであれば、色恋を禁じられたこの箱庭は、退屈と言えるはずだ。

私は教科書を開いて、現代語訳を見る。先生の解説を聞き流しながら読み進めていく。

 都へ行ったきり音信不通の恋人を諦め、主人公が他の男との結婚を決めたところで、恋人が戻ってくる。他の男との結婚を知った恋人は「新しい恋人を愛しなさい」というようなことを言って、都へと帰っていく。

 主人公の女を不憫に思うか、都へ行った恋人を不憫に思うか、もしくは新しい恋人を不憫に思うかは、それぞれ読者によって異なるだろう。

 私もきっと、恋人が音信不通になったら、相手を信じず新しい相手を探してしまうだろう。人間だなんていくらでもいる。見た目のいい異性に拘らなければ猶更。

 私は目を瞑った。瞼の裏に浮かぶのは先輩の顔だ。……何故だか、憎い。

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