第12話

「ごちそうさまでした」

私が食べ終わるころには藤宮さんもほとんど終わっていた。

「それでは」と言って、席を立つ。食器の乗ったトレーを持ち上げて返却口に持っていこうとすると、「待ってください」と呼び止められる。振り返ると、藤宮さんが立っていた。

「なんでしょう?」

「また、お話しできますか?」

「……そうね。面白いことは言えないけれど」

「よかった」

「いつも同じ時間にご飯を食べるの?」

私が聞くと、「はい!」と元気の良い返事があった。

「じゃあ、また会いましょう」「約束です」そう言って、私たちは別れた。

私は自室に戻り、部屋着に着替えてベッドに寝転んだ。天井を見上げながら、さきほどの会話を思い出す。藤宮さんは少し刺激のある人だった。

「小春さん」と私を呼ぶ声が耳に残っていた。その響きが意外と心地良かった。私はその感情に戸惑った。

けれども、静かな足音が聞こえて私の意識はそちらにすぐ取られてしまう。先輩だ。私は身体を起こして、先輩を迎えた。

「お帰りなさい、先輩」

「ただいま。さっきの子はお友達? 中等部の子よね」

「そうです」これは殆ど嘘であった。「図書室で何度か会ったことがありまして」これは嘘だった。

「そうなのね」先輩はそう言って微笑むと、脱ぎっぱなしになっていた制服をハンガーにかけてクローゼットにしまった。「あの子、綺麗な目をしていたわね」

「そうですね」

「あなたにお似合いよ」先輩は冗談めかして笑った。その笑顔がどこか寂しそうに見えたので、私は胸のあたりがちりちと疼いた。

「……先輩」

「なあに?」

「いえ、なんでもありません」

私は言いかけた言葉を飲み込み、学校の鞄から数学のプリントを取り出した。課題は出されたその日にやることを決めている。私は勉強机の椅子に腰を掛けた。

「あら、夕飯を食べた後にすぐ勉強に取り組むだなんて、模範的で真面目な子」

「真面目は、いけませんか?」

「幸せになれないわよ」

「そんなこと」

 私は椅子を引いて、先輩を振り返る。

「先輩に言われる筋合いはありません」

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