第9話

 推薦の条件は品行方正であることだ。

 先輩の異性交遊が大学の推薦に響かなければいいけれど……、そんなことを考えたが、私が心配することでもないと思い直す。放課後になると、私はすぐに帰宅することにした。部活にも委員会にも所属していないので、授業が終わると家に帰るだけだ。

 学校指定の革鞄は教科書を詰められてみしみしと言っている。教室を出ると、廊下は騒々しい声に包まれていた。部活動に向かう生徒たちだ。今日は夕方から薙刀部で練習試合があるらしく、見学で行く生徒がぞろぞろと塊になっており、私もその流れに乗って歩き出す。玄関ホールまで辿り着くと、ちょうど下駄箱の前で立ち止まった。

 きっと学校側がわたしのような特徴も問題もない生徒に用事なんてあるわけもないのに、玄関前の掲示物に目を通す。

 私の所属する高等部一年に向けたものから、――三年生まで。すると、掲示物のなかに、先輩を呼び出すものがあった。今日の日付が記してある。

(まるで見せしめだわ)

 男女交際に厳しいことはこの学園における、職員あるいは外部の人間たちにとっての、利点だ。

 ささめき声が聞こえて振り返る。二年生の生徒が"私"をみてこそこそと話していた。先輩の異性交遊は、お嬢様たちにとっても大事件なのだ。私は気づかなかったふりをして靴を履き替えた。

 本音を言えば学校側の態度が馬鹿馬鹿しいのと同じように、先輩も愚かなことをしたと私は思っていた。

 先輩は確かに美しい。しかし、それだけの人だとも思った。先輩の美しさは、その美しさによってもたらされるものではなく、彼女が生来持ち合わせているものだ。そして、先輩は、その美貌を内心では誇っている。

 だからこそ、あの人はいつも余裕のある表情を作れるのだ。先輩はきっと、自分の容姿や周囲が感じ取る彼女の雰囲気についてよく知っている。だから、ああいうことをしても許されると思っているに違いない。

(私ってこんなに嫌な娘だった? ……いえ、こんなにつまらないひとだったかしら)

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