第8話
週末明けの学校はどこか浮ついていて、授業にも張りがない。生徒たちは休み時間に集まっておしゃべりをするか、あるいは校庭に出てバレーボールなど女性らしい球技に興じていた。
そんな中で、私はひとり黙々と英文法の勉強をしていた。
一番後の列に座っているから、教室全体がよく見渡せる。窓際から二番目の席で、私は机に向かって教科書とノートを広げている。
ふいに視線を感じて顔を上げると、前の席に座っていた女子生徒と目が合った。彼女は私の方を振り返っていたのだ。
彼女は笑顔を浮かべて、小声で言った。
「お勉強中にごめんなさいね。でも、教えてほしいのよ。あの話」
「どの話?」
「ほら、例の噂よ」
「噂?」
わたしは鉛筆を一度、机に置いた。
「あなたのお姉さまのことよ」
「お姉さま? ……先輩?」
私は首を傾げた。彼女はうなずいて、言った。
「昨日のお昼、先生方に呼び出されたのよ」
らしい、などの推測の語尾もつかない。そんなこと初耳だった。
「知らないわ、そんなこと。先輩は昨日の夕方……、六時頃かしら? お部屋に戻ってきたけれど」
「そうなの。やっぱり、あなたも知らなかったのね。平然としているし」
「でも、どうして?」
「分からない。ただ、噂を流した方が言うには……」彼女は言いかけてから、「まあ、なんてことないことよ。地元で男の方とダブルデートをしていたのですって」
「それこそ嘘でしょう」私は思わず笑ってしまった。
「そう思う?」
「ええ。だって、そんな浮ついたお話、先輩からは……」
言いかけて、言いよどんだ。私はその先の言葉を呑みこんだ。そして、気付いた。私は先輩の地元のことや、学外の交友関係については何も知らないことに。
「どうしたの?」
そもそも、恋愛事に興味がない女学生などは、この学園であっても、もちろん珍しい。私は慌てて「何でもないわ」と誤魔化した。
「ところで、お相手がどんな方なのか聞いたの?」
「いえ、そこまでは……。小春さん、お姉さまに訊いてみないの?」
「うーん、先輩が話したいようでなければ、私は訊かないわ」
私は再びシャープペンシルを手に取った。彼女の話は興味深かったが、これ以上、先輩の話を詮索するつもりもなかった。
「あら、そうなの? 大人な関係ねえ」
「そういうわけじゃないけど……」私は苦笑いして、答えた。
「勉強の邪魔してごめんなさいね」
「いえ、いいのよ、それは……」
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