第6話

 その週末、先輩は地元へ遊びに行ったようだった。

 私は寮室で一人過ごすのも退屈で、午前九時頃には勉強道具を持って図書室へと向かった。窓からの木漏れ日は心地よく、勉強はひどく捗った。勉強はわりあい好きな方で、成績も良い。されど、この学園で四年制以上の学校へ進学する生徒は半分に満たない。


 昼になると食堂へ行き、カレーライスとサラダを頼んで、席に着く。スプーンを手に取って一口食べる。週末の食堂では人影はまばらで、寮生や、部活動を行う生徒が端々に散らばっている。

 食べ終えると、食後のミルクコーヒーを買って、ぼんやりと窓の外を眺める。木漏れ日は図書室からみたものの方が綺麗だった。

 午後は図書室で数学に励んで、いくらかの関数や確率の問題を検討した。夕方になって、寮へ戻る頃にはすっかりと辺りは暗くなっていた。

 今夜、先輩は地元の友人の家に泊ると言っていたから、私は一人きりだった。一人で夕食を食べて、シャワーを浴びて寝ることにした。明日は日曜日なのだけれど、特に予定はない。


 翌日、土曜日はまぶしいほどの日が差していた。私は六時よりも前に起き出して、部屋の掃除をした。本棚を整理したり、机の上を片づけたりする。

 七時過ぎ、(先輩の帰りはいつだろう)と考えながら、食堂へと降りて行った。今朝は隣室の凜子さんという同級生と食事を供にした。彼女のルームメイトである三年生の先輩も昨日から出かけているようであった。

「葉月お姉さま、オープンキャンパスへ行ったそうよ」

 葉月というのは凜子さんのルームメイトの先輩の名であった。私は「そうなんだ」と答えてから、オニオンスープを口に運んだ。

「小春さんも、夏休みにどこかへ行くの?」

「考えてもいなかった。お母さまとお父さまに相談してみなくっちゃ」

「あら、そうなの」

 彼女はふぅん、と言いつつ、サラダのレタスをフォークで刺した。

「女子大?」

「いえ……どうかしら」

「私はね、絶対に共学がいい。そこで将来の結婚相手を探したいの」

「自由恋愛って感じね。素敵だわ」

「ありがとう。お見合いなんて前時代的だと思うのよ。ショーワよ」

「そうね、今は平成時代だわ」

「私、小春さんのことは昔から目にかけていたの。頭が良くって、それに視野が広くって先進的。だから、あなたはきっと良い大人になれる。良い女とか、妻とかじゃなくってね」

「それは褒めすぎじゃない?」

「そんなことないって。――あ、そうだ。ねえ、聞いてくれる?」

私は「もちろん」と答えた。

「私、東京の大学へ行きたいのよ。親は……反対してるけど。でもね、夏休みに東京の叔母夫婦の家に行くから大学を見学しに行こうと思って」

「東京へ? すごい」

「でしょう。ねえ、一緒に来てくれる?」

「あら、私も行って良いの?」

「大丈夫よ、叔母はそういうことに理解があるの。部屋も余っているし、一泊や二泊くらいへっちゃらよ」

 彼女はそう言って笑った。

 朝食を終えて、凜子さんと一緒に部屋に戻った。

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