第3話

「おはようございます、小春さん」

 朝のHR前の騒々しさの中、一足先に登校していたらしい深山美由紀さんに声をかけられた。生徒会の一員でもある彼女は礼儀正しく、しかし気さくで朗らかだ。

 今日も艶やかな黒髪はとても綺麗にまとめられていて、思わず見惚れてしまいそうになるほど似合っている。

「おはようございます、美由紀さん。今日も早いのね」

 彼女は日直でもないのに、毎朝早くに登校して、カーテンと窓を開いて換気を行うと、軽く教室を掃除し、花瓶の水を取り替え、加湿器に水を足す。

「えぇ…………なんだかもう習慣になってしまいましたもの」

「相変わらずしっかりされてますわね」

 私は感心し、尊敬の念すら抱く。美由紀さんはなんてことないことだ、という顔を作っており、驕りも謙遜もしない。

 彼女のそういうところを、私はとても好ましく思っていた。そして同時に憧れてもいた。けれども、彼女のような、完璧な人になりたいとはあまり思わない。

 わたしは美由紀さんのなかに一種の息苦しさを感じ取っていて、それは彼女がしばしば零す父親の横暴や、母親の束縛に補強されていた(美由紀さんは自宅通学生だ)。

「高等部からは寮生になればよかったのに」

 わたしがそう返すと彼女は決って首を振った。肉親を容易く見切れるほど、彼女の精神面は発達していないのかもしれない、とわたしは考えている。礼儀正しいということが、大人びていることに直結しないものだ。世間をよく知っている女生徒というのは素知らぬ顔をしていても不良な行為に身を染めるから。

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