変態レベル3 彼女の放尿音は天使の歌声のようでした

 積手つんでレナノさんの家に向かいながら、ボクは告白のことばかり考えていた。


(オシッコする姿を晒したんだぞ。これ以上の恥辱がどこにある。きっと変態レベルはマックスに達したに違いない。さあ告白するんだ。勇気を出せ神也)


 だができなかった。どんなに頑張っても「好きです。付き合ってください」の言葉が言えなかった。

 まだ恥ずかしさが足りないのだ。変態レベルが足りないのだ。レベルを上げるにはさらなるボクの痴態を晒す必要がある。それは何だ。一体何をすればいいのだ。

 悶々と悩むボクに並んでパウチパックのゼリーを飲みながら積手つんでレナノさんが歩いている。この無頓着さが逆に魅力的ではある。


「着いたぞ」


 彼女の家はなかなかの豪邸だった。体に合わせて家まででかいようだ。


「お邪魔します」


 玄関で声を掛けたが返事がない。代わりに積手つんでレナノさんが答えてくれた。


「ウチは共働きだ。一人っ子だから今は誰もいない」


 つまりこの家にいるのはボクと彼女のふたりだけってことか。思わず頬が火照ってしまう。この状況、ちょっと出来過ぎじゃないか。


「さて、さっそくやろうか。トイレはこっちだ」


 荷物を玄関に置いて廊下を歩く彼女。さすがにドキドキしてきた。いいのか、本当に見てもいいのか。女子中学生の放尿シーンだぞ。


「ひとつ訊いてもいいか、羽仁」

「どうぞ」

「おまえ、あたしに対して変態的なことばかりしてくるよな。どうしてだ」

「変態を極めたいから、かな」

「だったらあたしでなくてもいいだろう」

積手つんでさんじゃなきゃダメなんだ。他の女子に軽蔑されてもさほど恥ずかしさは感じない。でも積手つんでさんの冷たい視線を浴びると感じる恥ずかしさは通常の10倍くらいになるんだ。ボクにとっては特別な存在なんだ、たぶん」


 彼女の足が止まった。宇宙人でも見るような眼差しでボクを見下ろしている。


「変なヤツだな、おまえ。変態の変人ってことか」


 それからは無言で歩いた。やがてトイレに着いた。よくある洋式のウォッシュレットだが広い。一坪くらいありそうな個室だ。


「一緒に中へ入るか」

「いや、ボクは外から拝見するよ」

「そうか。じゃあ」


 積手つんでレナノさんが便器の前に立った。スカートの中に手を入れてパンツを下ろそうとする。思わず声が出た。


「ま、待って」

「なんだ、どうした」

「やっぱりいけないよ、こんなこと。オシッコする姿を人に見られて恥ずかしくないの?」

「別に。誰でも毎日していることだろ。オシッコしない人間なんか存在しないわけだし」

「だからと言って人に見せるのは公衆道徳に反していると思うよ」

「自分のチンコを見せておいてよく言えるな。いいから黙ってそこで見ていろ」


 ずり下げたパンツがスカートの下に出現した。恥ずかしい。大好きな女子のパンツを見ただけで全身から火が噴き出しそうなほど恥ずかしい。この恥ずかしさにはとても耐えられない。


「ごめん。これ以上は無理だ」


 ボクはトイレのドアを閉めて外側から押さえた。外開きのドアでよかった。


「はあはあ」


 息が乱れている。額に脂汗がにじみ出ている。そして立っていられないくらい恥ずかしい。幼稚園のお漏らしや今日の放尿なんか比較にならないくらいの超ド級の恥ずかしさだ。


「どういうつもりだ。ドアを開けろ」


 中から積手つんでレナノさんの声が聞こえてきた。少し怒りがこもっている。


「勘弁してよ。女子の放尿シーンを見るなんてはしたない行為、ボクにはとてもできないよ」

「しょうがないな。なら音だけでも聞いておけ」


 しばらくして豪快な放尿音が聞こえてきた。ああ、これが意中の彼女のオシッコの音なのか。なんという麗しい音色。そして恥辱を感じさせる響き。羞恥心が全身を駆け巡る。変態レベルが上昇するのを感じた。


「そうか、自分だけでなく他人の恥ずかしさでもレベルは上がるんだ」


 ボクは悟った。彼女の恥ずかしい姿を味わう、それは自分が恥を晒すよりも遥かに大きな羞恥心をもたらしてくれるのだ。そう、これは共感性羞恥心。スベった芸人を見ていたたまれない気持ちになるのと同じ。彼女の恥ずかしい姿を見ると自分まで恥ずかしくなってしまうのだ。レベル上げの新しい手段を発見できた。これからは積手つんでレナノさんの痴態をどんどん発掘していくことにしよう。


「ふうスッキリした。おい、音は聞こえたか」

「うん、しっかり聞かせてもらったよ。ドア、開けるね」


 ボクはトイレのドアを開けると喜びに震えながら頭を下げた。


「極上のご褒美ありがとう。おかげで変態レベル上げの新たな可能性を見つけ出すことができたよ。そこでお願いなんだけど」

「なんだ」

「ボクの変態を極める手伝いをしてほしいんだ。君がいれば卒業までに変態レベルを最大にすることも夢ではないと思うから」

「やれやれ。おまえは底なしの変態野郎だな」


 積手つんでレナノさんは洗った手をタオルで拭いながら呆れたように言った。


「だが何かを極めようとするヤツは嫌いじゃない。そこまで言うなら手を貸してやろう。あたしも少々変態チックな性癖があるからな」

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」

「そうだ。知り合いにも変態な女子がいるぞ。カワイイのに変態な女子小学生とか頭脳明晰なのに変態な女子高生とか。あたしから頼んでやろうか」

「うん。お願いするよ」


 ああ、今日はなんて幸福な日なんだ。もうボクはひとりじゃない。変態仲間が3人もいるのだ。この4人で力を合わせれば変態レベルを最大にすることくらい朝飯前だろう。そしてそれが達成された時、積手つんでレナノさんに告白してボクの恋は成就するんだ。

 さあ、頑張ろう。もっと恥ずかしい姿を見せよう。もっと恥ずかしい姿を見せてもらおう。その恥ずかしさの先にはボクらふたりのラブラブな日々が待っているのだから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女に告白したいのでレベル上げ頑張ります! 沢田和早 @123456789

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ