7・どこにでも潜む脅威②

「アリス! 仕事だ!!」


 校舎に向けて累が叫ぶと、校舎内の一室──その窓を開け放ち、そこからアリスが外に飛び出した。

 多くの悲鳴と制止の声を背に、美しい白金の長髪を風に舞わせて、アリスはふわりと着地する。


「ルイ、やはりアレは凶悪犯エネミーデス?」

「正体不明の、ね。今は京夜が相手してくれとるから、まだ誰にも被害は出てへんけど……」

「ナニが起こるか分からないカラ、ワタシ達で避難誘導シマスネ?」

「あぁ。僕が校内放送を使って誘導するから、アリスには逃げ道・・・を作って欲しい」

「オーケイ分かったデス、お任せアレアレー」


 頷き合い、ここで累とアリスは二手に分かれた。


(ではルイの指示通り、ワタシの仕事するデスネ)


 アリスは一度深呼吸をした。そして遠くで正体不明の凶悪犯エネミーと戦う京夜を一瞥し、そのしなやかな指を鮮やかに弾いた。

 すると学校敷地内の各所に、七色に輝く光の道・・・が現れる。それはいくつも枝分かれしているものの、最終的には一つの道・一つの場所へと収束しており……それはまさに、迷える人間達を導くいたずら好きな妖精の作る迷路のようだった。


「さて。ワタシは避難する人達の護衛をしマスデスネ」

(──きっと、キョーヤなら一人でオールオッケー。でも……ちょっと心配デスネ)


 体育館で授業を受けていた女子生徒達の避難誘導をしながら、アリスは一抹の不安を抱く。

 その時、機を見計らったかのように校内放送が響いた。


《外の騒ぎに気づいているかと思いますので、単刀直入に申し上げます。校庭にて正体不明の凶悪犯エネミーを一体確認しました。ただ今より避難誘導を開始しますので、皆様慌てず──僕の声に・・・・従ってください・・・・・・・


 いつもの訛りが見る影もない、淡々とした声。累の持つ妖狐の亜人の力で軽い催眠状態に陥った人々は、慌てる事無く避難を開始した。


《そう、そのまま……光が誘うままに進んで。あなた達の事は僕達が守るから》


 誰一人としてその声に従う事を全く疑わない。そんな状況下で、全校生徒と教師陣はがやがやと騒ぎながら、光の道を辿って正確に避難する。


「ふぅ、それじゃあ僕も──……」

「避難誘導はもう少しで終わりマス、ならばワタシも──……」


 役目を終えた累とアリスが、それぞれ違う場所で言葉を同じくする。


「京夜の援護に行かないと!」

「キョーヤの援護に行くデス!」


 今も一人で正体不明の凶悪犯エネミーの相手をする仲間の援護のために、二人は駆け出した。

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