第11話 負ける訳にはいかない

その日の放課後。

カナールが一緒に帰りたいと言ったが。

訳を話してから俺は幼馴染と一緒に帰る事になった。

電車内での事だ。


「ねえ。昭仁」


「.....何だ?」


「その。カナールさんとまたお付き合いしたいって思うの?」


「.....いきなり物凄い話をしてくるなお前。.....カナールとは確かに恋人だったが.....」


再びお付き合い.....か。

俺は揺れる体を感じながら。

車窓から外を見る。

そして首を振ってからミクを見る。

今は付き合う気はないな、と。


「.....夢に向かって歩きたいから。今は付き合うのは無しかな」


「.....昭仁の夢って何?」


「.....今の所はそれなりの専門職を希望している感じだな。それは何でかって言えば手に職を持った方が良いと思うし。国家資格狙いだな」


「.....格好いいね。昭仁」


「格好良くは無いよ。当然の事だ。今の日本じゃな」


「私も昭仁と同じ大学に行きたいな」


それはどういう意味だ?、と俺は目を丸くして聞くと。

内緒、と幼馴染は答えた。

それから人差し指を唇に添える。

俺は?と思いながらも追求は避けた。


「.....でもそうか。お前の好きな様にしたら良いじゃないか。でも.....一緒の大学ってそれはお前の意思とは反するんじゃ」


「.....昭仁の夢を当ててあげようか?」


「.....?」


「.....昭仁は先生とか目指しているんでしょ?」


「.....そうだな.....よく分かったな」


「私も先生は好き。.....だから一緒の大学で良いの」


そうしているといきなり列車が急ブレーキを踏んだ。

それからよろめいてミクが俺の胸にすっぽり収まってくる。

俺は、は?、と思いながらミクを見る。

ミクも、ふぇ?、と言いながら俺を見て真っ赤になる。


「.....ご、ごめん!」


「い、いや。仕方が無いだろ。急ブレーキが掛かるなんて」


俺は思いながらそのままミクを引き剥がそうとしたのだが。

ミクは人混みの中。

俺の胸に収まったまま動こうとしなかった。

心臓の音が聞こえる。

高鳴っている。


「.....み、ミク。どうした。離れてくれ。恥ずかしいんだが.....」


「.....ねえ。.....昭仁ってさ」


「.....は、はい」


「ファーストキスの事。覚えてる?」


「.....幼い頃にしたやつだよな?.....あれはファーストキスのカウントにならないだろ。お互いにふざけてやった.....」


「私はふざけてやってないよ」


「.....え?それは.....どういう.....」


なんでもいうこときく券発動だね、と言ってくるミク。

そして俺の胸に収まってから。

私は、貴方が好きです、と呟いて.....は、は!!!!?

俺は真っ赤になりながらミクを見る。

どう.....いう事だ!?


「私は貴方が好きです。.....貴方に対して行ったキスは本物。.....偽りなくファーストです」


「.....!!!!?」


「何か美鈴さんを見ていて私も影響受けちゃった。我慢出来なくなった。だから告白した」


「でもお前.....それじゃ何で俺を止めなかったんだ?カナールと付き合うの」


「.....それはカナールさんが先に告白したから、だよ」


そして俺の胸に手を添えるミク。

小さな身長から俺の顔を真っ直ぐに見据えてくる。

俺は真っ赤になりながら目を逸らした。


キス出来そうだ。

こんな場所でキスなんぞ、と思っていると。

電車が動いた。

そして人混みがまたザワザワし始めた時。

幼馴染が周りを見て背伸びした。


「.....昭仁」


「.....え?」


一瞬の隙だった。

壁際だったのもあって。

俺は呼ばれて前を見てから。

頬を掴まれてそのまま唇と唇でキスをされた.....。

俺は愕然として、お前!?、と唖然とする。


「.....昭仁へのお礼だよ。それも兼ねて」


「お礼って.....?」


「今までの分のお礼。だからキスをした。.....これからも宜しくね」


「.....!」


ミクは笑みを浮かべながら俺を見てくる。

そしてそのタイミングで人混みがちょうど良い感じで捌けた。

ミクは離れてから、エヘヘ、と言う。

2人だけの内緒だね、とも。


「.....電車でキスたぁ.....うーん」


「良いじゃん。内緒のキスだよ」


「.....」


この困ったちゃんは全く。

思いながら俺はまた赤くなる。

それから苦笑しながらミクを見る。

ミクは柔和な顔をしていた。


「2回目だね。これで」


「.....そうだな.....まあ.....うん」


「私が勝っているね。今の段階では」


「.....まあそうだが.....」


「私が昭仁の隣になる。.....負けないから」


正直言ってめっちゃ恥ずい。

どうしたものか、と思いながらミクを見る。

ミクも胸に手を添えて震えていた。

つまり恥ずかしいのだろうけど.....だったら何故した、って感じだが.....。

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