第6話 ゆ、夕食を是非作ります!
俺の母親は自転車に乗ったまま失踪した。
その日付は.....11月ぐらいだった気がする。
中頃だったと思う。
失踪したのだ。
俺は.....ただ唖然として.....当初は浮気とかを疑ったが。
あの母親にそれは無いと否定した。
行方不明届は出しているが今だに情報は何もない。
そして母親が居なくなって.....俺達は全ての絶望を肌で感じる事になる。
どういう絶望かと言えば。
まず家事とかそういうのだ。
家事は俺も朔子も父さんも脅威を実感した。
「.....馬鹿だよな。本当に」
そんな事を言いながら俺は朔子を見る。
空を見上げながら俺は呟く。
すると朔子は、そんな事ない、と言ってくる。
夜の空を同じ様に見ながら、だ。
「.....こんなの予想出来なかったよ。絶対に」
「.....そうだな。予想出来なかったとは言え。なんで家事を手伝わなかったのか、だよ。.....俺は怠けていたんだなって実感するし」
「.....私もだよ。.....私も怠けていた。.....お母さんに頼りっきりだったから」
「だよな」
「うん」
母さんには、気を付けて、とか。
行ってらっしゃい、としか言ってない。
それが最後の言葉になったから、だ。
俺は盛大に溜息を吐きながら目の前の母さんの通ったと思われる道を見る。
最後に行った道とされている道を。
「.....なあ朔子」
「.....何?にーちゃん」
「.....お前は居なくならないでくれ」
「にーちゃんシスコン?」
「そう。シスコンでも良いから」
「最悪だね」
でもにーちゃんの言うのは理解出来るよ。
私は居なくならない。
これ以上家族が行方不明になるのはゴメンだね、と言いながら。
それから朔子は前を真剣な顔で見つめる。
「.....私ね。.....絶対に居なくならないよ。.....気を付ける。お母さんが戻って来るまで絶対に死なないし行方も不明にならない」
「.....だな。俺もだ」
「.....うん」
それから俺達は自宅に帰りついてから。
そのまま荷物を置いてから。
朔子は、じゃあご飯作るね、と言ってくる。
俺は頷きながら居ると。
インターフォンが鳴った。
「え?」
「.....え?誰だろう。おにーちゃん。ごめん」
「.....ああ。.....えっと.....」
俺は玄関を開ける。
それから目の前を見ると。
そこに.....何故か分からないが美鈴が立っている。
俺は、ど、どうした?、と聞くと。
美鈴は、言い忘れてたの、と言ってくる。
「.....今日ご飯作る」
「.....え?そ、それはどういうこったよ」
「.....私が作りたいから。.....お願い」
それから俺を見てくる美鈴。
そしてその言葉にガッツポーズをする。
俺は???を浮かべながら、じゃ、じゃあ入ってくれ。って言うか門限とか大丈夫なのか、と聞くが。
美鈴は、うん。大丈夫。今日は許可取った、と言ってくる。
「知っていたから。.....全部が.....絶望的だって事。だから救ってあげたいって思っていた」
「.....お前.....」
「.....わ、私は.....その。君が.....かわいそうだって思っているから」
「.....そっか。有難うな。美鈴」
真っ赤になる美鈴。
そしてそのまま上がって駆けて行った。
その様子を俺と朔子は?を浮かべて見る。
そしてリビングに入ると。
エプロンに着替えている美鈴が。
「可愛いな。美鈴」
「あ、有難う!このエプロンお気に入りなの.....!」
「.....って言うかお前作れるのか?料理。聞いてないぞ」
「.....冬瓜の煮込みぐらい作れるよ。えへへ」
「.....マジ?」
「うん」
それから見ていると美鈴は、じゃあ作るからね、と笑みを浮べる。
そして材料を取り出す。
オイオイ。その材料は.....?
思いながら、美鈴。お金払うって。それ買ったんだろ?、と言う。
すると美鈴は首を振った。
「.....要らない。そ、その代わり.....その。.....今度.....一緒に美術館に行ってくれない?一緒に」
「それは.....どういう?」
「おにーちゃん」
背後から朔子の声がした。
そして、おにーちゃんは鈍感だねぇ、と言う。
でもその中身は言わない。
それから荷物を片す。
「.....もうねー。おにーちゃんは女の子の気持ちを考えてね」
「.....意味が分からない.....そもそも美鈴とはそんな.....!?」
「うふふ。そうなの〜?」
「朔子.....お前何を企んでいる?」
「企んでないよ。.....全部美鈴さんが言わないとね」
「.....???」
美鈴は真っ赤になって作業に熱中している。
駄目だ全然分からない。
そもそも2人きりが良いとかどうなっている?
思いながら俺は美鈴とニヤニヤしている朔子を見た。
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