12.桜

「治くん、林檎剥こうか」

「食べる」

 何回目の入院だろう。私も彼も数えるのを止めた。例によっての未遂事故。また留年。

「卯羅もよく付き合うよね」

「だって治くん居ないと寂しいもん」

 ずっと一緒の幼馴染。それだけじゃない、今となっては、一番大切な異性。

「今年も一緒にお花見したいね」

「そうだねぇ……あと、二回」

 二回?私は首を傾げた。もっと見たって善いじゃない。

「二回。そうしたら、私の気も済むかもしれない」

「やめて」治くんが居ないなんて考えられない。考えたくない。幼稚園から一緒なんだもの。もう、私は彼無しじゃ居られないの。「治くんのお家から、お醤油回収しておかなきゃ」

「意外としんどかったなぁ……一升瓶重いし、しょっぱいし」

「お馬鹿さん」

「あと二回。尾崎の名字を冠する君と、だったらどうする?」

「その後の、私の名字は?」

 にっこり笑った。それを意味するところを考えたら。少し恥ずかしいけれど、本当にそうなら嬉しい。

「この恋は呪いに近いね。卯羅が居ないと、辛いという呪い」

「私は魔法に思えるけど?」

 治くんと居れば何でも素敵に思える。雪の日だって、嵐の日だって。一緒に「雪だね~」って窓の外を眺めてるだけで善いの。

「早く退院してね」

「する。可愛い彼女が泣くと骨に滲みたよ」

「遅い」

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