13.血
「卯羅……?」
風呂に行った卯羅が戻ってこない。流るる水の音だけが聞こえる。彼女が動いて、何かを動かしてるような気配は無い。「開けるよ」
鏡の前に立ち、微動だにせず、頭から湯を浴び続けている。まずい。以前も何度かあった。此方へ来てからは初めてだ。だからこそ余計にまずい。
「卯羅!」頭へ近付く手を握る。花は霧散した。後ろから抱き締めて、名前を呼び続ける。何も考える隙を与えない為に。落ち着いたのか、状況を把握したのか、嗚咽が聞こえてきた。
「ごめん……な、さい……ごめん、なさい……」
謝罪の言葉を延々と口にする彼女を抱きながら、湯を止め、風呂場から連れ出す。濡れた身体を拭いてやりながら、声を掛ける。「もう謝らないでよ」
「治さん、私……私、また……」
泣き続ける彼女に、何と云えば善いのか解らなかった。待っていて、と声をかけて、私も濡れた服を脱いだ。寝間着を取り敢えず着、卯羅の元へ戻った。
「治さん……治さん、抱いて……」
「どうしたの、急に」
「治さんが、欲しい……治さんしか考えられなくさせて……」肩に掛けた
きっとここでまた昔のように交わったら。彼女は後悔するかもしれない。だが、差し出された供物をみすみす手放す程、優しくはない。
「……解った」
昔みたいに、頚に口付けながら、身体に手を這わせる。強く吸うと、口唇の痕。そこ目掛けて、歯を立てる。口に拡がる血の味。
いくら鮮血だろうと、暫くすれば黒ずむ。
所詮、人の血なんて、何れだけ洗おうとも、黒い。
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