10.一途

 一途って、多分、彼女の事を云うんだろう。

「治さん!国木田さんに、半年前の報告書が上がってないって云われたけど?」

「えー何れだろう」

 担当案件の名前を挙げながら、机を漁る。

「何これ」

多肉植物サボテンだったもの。国木田くんが『植物を育てれば、貴様のような奴でも生命の瑞々しさに心打たれるだろう』って。どう?似てた?」

「これ枯らすって相当だよ?」

 これはだね、等と云い訳を羅列する同僚をあしらいながら、目的の書類を見付ける。

「白紙じゃない」

「そうか!だから見付からなかったのか!」

 このやり取りを何度見ただろうか。眺めていると、太宰さんがにやっと、俺に笑い掛けた。

「嗚呼、卯羅は可愛いなぁ、可愛いなぁ」

「云っても何も成りませんから」

「ううん。成る」

 何故あの人なんだろう。

 なんで彼女はあの人のものに成ったんだろう。

 俺の元に流れてくる明細や、取引先を見ても、黒だ。どの調査員よりも根深い情報を持ってくる。

「卯羅ぁ」

「はいはい。お砂糖は?」

「入れる。たっぷりね」

 名前を呼んだだけで。

 俺なんか、太宰さんって呼ぶと、旦那の方が先に反応するぞ。なんで俺は人妻なんか……

「あれ?これ母様絡んだの?」

「少しね」

「会いたかったなあ……」

「今度、姐さんも誘って食事でも行くかい?」

「行く!」

 彼女は知っているのだろうか。あの人と居て、最期に待ち受けるのは、死。

 それすらも受け入れているのだろうか。

 自身の異能力の様に、咲いて散ることを、受け入れいるのだろうか。

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